ワンツーパンチ

リク:菊地原・奈良坂・辻。年上男主(20歳)にしました。

個人[ソロ]ランク戦が行われるラウンジは毎日人がたくさん集まっているけれど、俺の目の前に立つ3人は珍しい組み合わせだ。

「由紀さん、今時間ある?」
「菊地原……、と奈良坂と辻? どうしたの、急に」
「ちょっといいですか?」

菊地原に手首を掴まれて連れてこられてたのは食堂で、4人用のボックス席に向かいに辻と奈良坂、隣に菊地原が座った。

「由紀さん、もし入隊するなら風間隊ですよね」
「え?ごめん話が全く分からない」

突然横から話を振られた俺はとりあえず目線を前に向けると、今度は奈良坂と辻も話し始める。

「由紀さんには三輪隊が合っていると思います」
「いえ、二宮隊ですよね」

おお、普段物静かな3人が俺に食い下がるように話しかけている……!

何がどうしてこうなったかは分からないけどとりあえず話には参加してみよう。

「えっと、何でそんなこと聞くの?」
「先程、少しこの3人で話してたんです」

奈良坂の話を聞くと、米屋を迎えに個人[ソロ]ランク戦のラウンジに出向いた奈良坂は、攻撃手[アタッカー]の菊地原と辻が何かを話していることには気づいたが、それをスルーして米屋を迎えに行こうとしたところ辻に呼び止められ、色々話しているうちに『由紀さんはどの隊にふさわしいと思うか』という議題に自ら乗ったらしい。

「そもそも菊地原と辻は何でそんな話をしてたの?」
「やっぱり隊長としては風間さんが一番だと思うんです」
「いえ、二宮さんです」
「三輪も隊長としての責務を果たしている」
「お前たちが隊長のことを大好きなことは分かった。しかしどうしてこうなった」

菊地原と辻の隊長論に奈良坂が巻き込まれたのは理解できたが、そこでどうして俺が出てくるのかさっぱり分からない。

「由紀さんは風間さんが認める逸材だから」
「二宮さんと仲が良いから連携もしやすい。三輪隊は定員オーバーじゃないか?」
「そこは臨機応変というものだ。万能手[オールラウンダー]の由紀さんが来てくれれば三輪隊としては中距離の戦闘員が増えて助かる」

ああ、また俺を置いて話が進んでいる。何か解決の切り口はないのか、と周りを見渡すと、視線の先に東さんが見えた。この奇跡とも呼べる偶然を逃すわけにはいかない。チャンスを逃してはダメだ。東さんがこちらを向いた時に手を振ろう。そしてこっちに来てもらおう。

東さんをじっと観察しているとこちらに気づいてくれたが、同時に珍しい組み合わせと異様な空気も気づいたのか、首を傾げつつもこちらに向かって来たのでこれで助かった、と思った矢先、「明日の訓練時間メールしといたから」と足早にそのまま去ってしまった。関わりたくなかったんですね、分かります。

「由紀さん」
「何?」

絶望している俺など気にもせずに、菊地原がまた俺の顔を覗き込んできた。この体勢本当に可愛いな。菊地原より身長も座高も高いから、この顔を拝むことができている。身長高くて本当に良かった。上目遣い最高。幸せ。

「何で攻撃手[アタッカー]なのに狙撃手[スナイパー]の訓練に行くんですか?もう攻撃手やめちゃうんですか?」
「いや?やめないよ?何となく荒船の真似してみただけ。訓練に参加しながら東さんから戦術が盗められればいいなって」
「なんか嫌な理由を聞いた気がします」
「そう言わずに」

菊地原が拗ねた顔をするので、今度風間隊に遊びに行くね、と言ってみたら「今度じゃなくて明日です」と言われてしまった。

「で、由紀さんはどの隊に入るんですか?」
「待って、奈良坂待って、話が飛んだよ?」

何かおかしなことを言いましたか?と言いそうな顔で俺をじっと見つめる奈良坂に俺は言葉が詰まった。

奈良坂も那須も、どうしてこうも綺麗な顔というのは人に有無を言わさないというか、なんというか、俺にも何か言わせてくれ。俺は隊に入るつもりも、隊を持つつもりはないのだけれど、こんな顔で言われたらちょっとはいいかな、と思ってしまうじゃないか。

ぐっ、と言葉を飲み込んでしまった俺を横目に、今まで黙っていた辻が小さく手を上げた。

「ん? どうした?」
「いえ、違います。後ろです」
「後ろ?」

俺が後ろを振り返るとそこにはポケットに手を入れた二宮が立っていた。

「何だ。辻に呼ばれて来てみたが、お前は俺の隊に入るのか?」
「それはどういうこと?」
「見ろ」

二宮から手渡されたスマートフォンに表示されていたのは無題の件名の下に『From:辻』と書かれたメールで、内容に目を向けると、妙に堅苦しい文章の後に、俺と二宮が連携をすれば攻撃の幅が広がると思うから誘っているという、理解できそうでできない文が書かれていた。

お願いだから俺の知らない場所で話を広げるのはやめてくれ。お願いだから。

「で、お前は俺の隊に入るのか? 入らないのか?」
「二宮まで会話に入ってくるなよー! 入らない! 俺は入らない! どこにも入らない!」

俺の叫びにも似た訴えに、辺り一面がしんと静まり返った。

途端に恥ずかしさがこみ上げてきて、そのまま顔を伏せようとした時、俺の肩を誰かがぽん、と叩いた。

「誰! 俺、どこに入らないからね!」
「由紀、それなら私のところで働いてくれるか?」

その聞き覚えのある優しい声に顔を上げると、とても良い顔をした忍田本部長が立っていた。

「丁度私の補佐と後輩の育成係が欲しかったんだ。頼むよ」
「え、あ、ちょ、待って、くださ」
「ん?」
「なんでも、ないです」

忍田さんにずるずると引き摺られるかたちで席から離れていく俺をみんな黙って見送る。

今だよ!助けるなら今なんだよ!!

「由紀さん、早く風間隊に入らないからこうなるんですよ」
「菊地原のばかぁぁぁ!」

俺の叫び声は食堂に綺麗に反響し、エコーの用に跳ね返ってきた。

20160115
For Haku 20150109 Happy Birthday !!
珀さんに捧げます。
リクエスト全員書かせていただきました!
ハッピーバースデイ!大好きです!




ワンツーパンチ