夏のカラフル
迅と年上男主
涼しくならないかな。
玉狛の屋上で迅はそう呟いてみたが、涼しくなることがあるわけもなく、見える直近の未来も晴天。
いや、晴天だけなら良いのだ。高い湿度にじめりとしたシャツに流れた汗が背中を伝う。
「迅」
「あれ、蒔田さんどうされました?」
「迅が見えたから会いにきた」
そういいながら近づいてくる蒔田が迅に向かって何かを投げた。
「ちょっと、危ないですよ!」
「あれ? 読めなかった?」
ケタケタと笑う蒔田が投げたものは水筒で、中でカラカラと音が鳴っている。
「飲み物持ってきてくれたんですか?」
「氷だけ」
「なんで!」
迅が水筒を思い切り振ってもカラカラとした音しかしない。
冷たい飲み物の差し入れかと思った自分がバカみたいだと項垂れる迅の横に並んだ蒔田は、迅から水筒を奪い、キャップを開けた。
「まあまあ、そう落ち込まず。よく見て、これ俺の手作り」
水筒からひとつ取り出した氷は綺麗なオレンジ色をしていた。
「あ、これオレンジ」
ぱくりと口に入れた蒔田は冷たそうにしながらも口の中でコロコロと氷を動かしていた。
「何ですかそれ」
「色んなジュースを製氷皿に入れて、作ってみた。いつも頑張ってる迅に差し入れだよ」
迅が「疑ってごめんなさい」と言うと「いいのいいの」と言いながら差し出された水筒の中はキラキラと七色に輝いていた。
「え、これ何」
迅が手に取った水色の氷はどこから見てもブルーハワイを水で薄めてそのまま凍らせました、と言わんばかりの色をしている。
「ん、あ! それ当たり! 迅の水色!」
「何味なんですか」
「ブルーハワイに、レモン果汁を混ぜたやつだよ」
「意外とまともだった」
「意外とは何だよ」
口に入れると爽やかな味が口の中に広がり、頭の中が涼しくなるような感覚がした。
暑いけど無理するなよ、と去っていた背中を見ながら、蒔田が気にかけてくれるのならば夏も悪くないかな、迅は思った。
20170604
軽くリハビリです。短くて申し訳ございません。