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お嬢様、今日の予定は某です。
決まりきったレディスメイドの言葉に頷きながら、目の前に用意された紅茶を飲む。
いい香りで、砂糖は入っていないはずなのにほのかに甘い。学園の中で飲むそれよりも上質なお茶は、この上ない一級品だろう。こういうところにもこの家の財力やら権力やらを見せつけられているようで、美味しいお茶を素直に楽しむのも難しい。
今日の午前にはダンスレッスン、午後には楽器のお稽古。休暇とは一体なんだったのか? と首をかしげたくなる様なハードなスケジュールに頭が痛くなる。
夏季休暇に終わりが見えてきた今日この頃。良かったら遊びにいらしてね、と手紙をくれたマーガレットやキャシー、マリアちゃんのもとに遊びに行く暇もなくお稽古付けの毎日だ。
もともとお妃様教育とやらを、公爵家を継ぐための教育の中に折り込んで受けてきてはいたものの、正式に婚約者となり、それに私の年齢もそれなりになりつつあるので、お妃様教育の最後の仕上げというのが色々加わってきたのだそう。全て家庭教師が自慢げに教えてくれたものだ。奥様のお心遣いに感謝なさいませ、と家庭教師は言っていたけど、このスケジュールは流石に頭がおかしいと思う。
今までの頭のおかしいスケジュールも、この分だと養母が組んでいたのだろう。あの人に対する印象が、また、下がっていく。
マイナスの感情に下限はないのかも知れない。それでもまぁ、私が涙を流したり、本気で嫌がったりをしようと思わないのは、もう養母に対しては諦めているからなのかもしれない。
久しぶりに会った父は白々しく私を抱きしめ、父親面をしていたが、養母と言えばちらりと顔を合わせたきりで、ろくに言葉もかわしていない。
そろそろはいはいを覚えたとかいう義弟とも顔を合わせたけれど、養母と父によく似たその子に、私は親愛の情を抱くことが出来なかった。
「気分転換とか、したいな」
学園にいた毎日が、楽しすぎたせいだろうか。何年も続けてきたみっちりのスケジュールが堪えるのである。
喚いて逃げ出すほどではないが、それでも辛いものはなんだか、辛い。
「……お疲れですか? では今日、明日の予定は開けさせて頂きますね」
紅茶のお代わりを注いでくれたレディスメイドが目を瞬かせてそう言った。
「出来るの?」
「旦那様より、お嬢様がお疲れのようなら予定は取りやめても構わないとのお言葉を先程頂きました」
「……そうなのね、」
あの父の考えていることが、分からない。あの人は私のことを卑しい娘と嫌っているのでは無いのか?
ふしぎで堪らないけれど、何だか深く考えるのも馬鹿らしく思えてしまってそういうものなのだと納得することにする。私が体を壊して、王子様になにか勘ぐられてもいけないとか、きっとそういった理由であろう。
王子様の事を考えると、何だか妙に、会いたくなってしまった。
学園にいると頻繁に会えていたから、何だか自分が、とんでもなく我儘になってしまったような気がする。きっと、この夏休みのあいだ、社交界以外では王子様に会っていないからだ。
手紙も送っていないし、送られても来ない。そう考えると余計に会いたくなってしまって、お茶を終えると私は慌ただしく手紙を書きはじめた。
宛先は勿論、王子様だ。