午前零時のカーテンコール
姉が、羨ましい。
エルフリーデ・ルーン・リヒトルーチェが心の底から抱いた感情は、それが、一番初めだった。きっと自我というものが存在し始めた時から、エルフリーデは姉に親愛と同時に羨望を、嫉妬を抱いていた。
姉とエルフリーデはよく似ていた。母親に似た優しげな愛らしい顔立ち、かがやく雪色の髪、真っ白な白皙の肌は外に出て遊ぶことが多くとも、日焼けなどしたことも無い。本当に二人はよく似ていた。それでも、姉とエルフリーデは確かに違う人間で、姉は、あまりに完璧すぎた。
高い魔力も、未だ幼くまだ足取りもおぼつかぬような幼子でありながら、ルーナレシアはあまりに成熟した少女で対してエルフリーデの方は、年齢を考えても幼さを感じさせるような振る舞いが目立つ。
幼いながらに姉の完全性を誰よりも近くで感じているエルフリーデは、姉に対してひねくれた感情を抱かずにはいれなかったのだ。
姉、ルーナレシアとエルフリーデには、異なる点もあった。
姉の瞳は母と同じ新緑の色であったが、エルフリーデの瞳は家族の中の誰とも似ていなかった。
深い、有明の色。サファイアのようだとも、深い海のようだともたとえられるその色がエルフリーデは嫌いだった。欠点等一つとして無い姉と姉を溺愛する家族と、エルフリーデとの間に、埋められぬ溝があるのだと言外に突き付けられているような気がするのだ。
また姉は高い魔力を持った幼い子供にありがちな、魔力の暴走、という現象を引き起こさない。赤子なんて自我のない存在なのだから当然理性が働くはずも無く、例えば空腹、例えば小さな不快感、そういった一つ一つで魔力の暴走を引き起こす。エルフリーデも例に漏れずそうであり、彼女は生まれつき水や氷といったものとの魔力相性が良かった為か魔力の暴走は周囲に冷気を漂わせ物を凍りつかせる、といったふうにあらわれた。
その為双子といえど同じ部屋に、同じベットに寝かせておくことも出来ず、赤子の頃の二人は別々の部屋で育てられていたらしい。
乳離れも済んだ頃に毎日のように起こしていた暴走がなんとか抑えられるようになって、エルフリーデは姉と同じ子ども部屋に移された。
今となっては、そのまま、別々に育てて欲しかったとばかり思う。完全無欠な、愛らしい、それこそ神がかっている存在の少女が自分の半身である。姉を姉として愛おしく思う一方でエルフリーデは姉の存在を確かな重荷としてとらえてしまっていた。
いっそ別々に育てられ、己の半身という意識が根付かなければ。両親や兄姉のように、姉をもっともっと、素直に慕うことが出来たかもしれないのに。
今年、七歳になるエルフリーデは周囲の環境が影響してか、ルーナレシアとはまた、違った意味で大人びた子供だった。