アヒルの子の慟哭


エルフリーデは可哀想な少女だと、カインは思う。
自分の命を狙う追手に傷を負わされて、死にかけたカインを救ってくれた二人の少女の片割れ、エルフリーデは、本当に可哀想な少女だと。

「ルーナお姉様は本当に、本当に素晴らしい人ですの」

長い雪色の睫毛を伏せて、エルフリーデは言った。
ルーナレシアは本当に素晴らしい。
それはエルフリーデの口癖だった。よく出来過ぎた姉を、自らの片割れに持つばかりにエルフリーデは本当に卑屈に育った。
エルフリーデにも優れた場所は存在しているし、ルーナレシアにも優る美点だって持ち合わせていると言うのに、他人が幾らそれを口にしたところで、エルフリーデにとってはただの慰みにもならない。
他人が何と言ったところで、エルフリーデは自分に自信がないのだ。
自信が無いから俯いてしまうし、じっと俯いてしまえば周囲の評価もそれにつられて下がってしまう。評価が下がればどんどんエルフリーデの自信は無くなっていくという、どうしようもないループの中に、彼女はいる。

エルフリーデお嬢様はどうしてあんなにも暗くていらっしゃるのか。双子だと言うのに、ルーナレシアお嬢様とは大違いだ。

リヒトルーチェ家の使用人のみでなく、二人を知る誰もがそんなことを口にする。
その度に、エルフリーデの柔い心はぐちゃぐちゃにされて、消えない傷が沢山増える。

「僕達は、エルフィが努力している事を、知っていますよ」

ルーナレシアのようにならなければ、誰もが愛するあの姉のようにならなければと息を殺して、ただ姉の影を追いかけるエルフリーデに、そう、声をかけたことがある。
自分を案じるカインの言葉に、エルフリーデは泣きそうな顔で笑った。まだ足りないから、もっともっと頑張らなければならないと儚く微笑むその顔が、十歳にも満たぬ子供の顔にはとても見えなくて、純粋無垢に、子供らしく生きることすら出来ぬ彼女の不器用な生き様を、カインは本当に、可哀想だと思うのだ。