遊びじゃないなら、


榊は日に日に前と同じ元気さを取り戻していった。授業が終わればしょーもないことで質問に来るし、友達とも楽しそうにしてる。
変わったことと言えば、部活の見学に来なくなったってことだけ。

榊から「告白してフラれてきた」と聞いたときは驚いた。まさか彼女がいるとわかっていて告白するとは思ってなかったから。そんな状態で部活に顔を出すのも気まずいと思ったらしく、部活を見に来なくなったことについてはなにも言ってない。
あと、意外だったのは木兎さん。
すぐにあれこれ話すタイプだと思っていたが、さすがに部活の時に話したりすることはなかった。それに、どうやら彼女さんも木兎さんが告白されたことを知らないらしい。昨日だって「最近どうしたのかな」と2人で話していたくらいだ。これが演技だとしたら俺はなにも信じられなくなりそうだが。
そして木兎さんもその事には触れない。触れはしないが、構ってほしいオーラは出すからマネージャーが榊が来る前と同じように構ってる。

結果として、榊がどうして来なくなったのか俺と木兎さん以外は誰も知らない状態で部活が回ってる。

「真夜ちゃん来ないね」
「なんかあったのかなぁ」

滅多に呼ばれない榊の名前を聞いて、俺の名前が呼ばれたわけでもないのに嬉しくなった。

「赤葦ホントーに知らないの?」
「さぁ、詳しくは知りませんけど忙しそうでしたよ」
「じゃあ無理に聞けないかぁ…」

このまま部活に来なくなるんだろうか。
そもそも榊はバレー部でもなんでもない。ただ木兎さんが好きで見学に来ていただけ。それなら、榊がここに来る意味は1つもなくなった。いや、1つだけあるから来れないのか。

「赤葦」

榊の事を考えてたら、今だ榊が見学に来ない理由になってるだろう人物に声をかけられた。

「なんですか?」
「話したいことがある」

いつもの雰囲気からは想像が難しいくらい真剣で、話したいことがなにかなんて簡単に予想ができた。

「わかりました」

何を言われるんだろう。榊が傷付かないならなんでもいい。本人の耳に入らなくなるなら、いくらでも俺が食い止める。
まぁこの人に限ってそんな心配は不要なんだろうけど。

俺と木兎さんが2人で話すことはそう珍しいものでもない。だから部室に残ると言ったときも、なんの違和感もなかっただろう。
気になるとしたら、朝礼に間に合うように気を付けないといけないことくらい。

「俺さ、告白された」
「…そうですか」

いきなりだな。いや、いつものことだけど。

「大丈夫って言ってたけど絶対大丈夫じゃないと思う。だって俺ならやだ。好きな人には好きになってほしいじゃん」

そんなの腐るほど考えた。それができたら世界はきっと今より少し平和になる。だけど、そんな都合良くできてない。

「でも木兎さん彼女いるんですよね」
「…うん」
「ならそんなこと言うのやめてください。木兎さんが同情しても苦しめるだけですよ」

都合良くできてたら、榊は

「なぁ、赤葦もしかして知ってる?」
「知ってますよ。本人から聞いてたので」
「そうか…」

榊は泣くことなく過ごしていられたんだろうか。

「榊、元気だよな?」

木兎さんの性格はわかってる。自分が原因かもしれないから、気になるんだよな。
でもどうしたって腹が立つ。

「木兎さん」
「どした?」
「もう榊に関わらないでください」
「え?なんで?」
「榊は木兎さんにフラれました」
「おう」
「忘れようと今頑張ってるんです。それはわかりますよね?」
「…おう」
「そんな時に木兎さんが出てきたら邪魔なんです」
「あかーしいつもより言い方きつい」

当たり前だ。これ以上榊を泣かせることはしたくない。

「いきなり態度が変わっても怪しまれるので、木兎さんはなにも考えずにいつも通りしててください」
「わかった」
「でも、榊の事を思うなら、木兎さんは今後できる限り榊に関わらないでください」

これも榊に言わせたら、余計なお世話なんだろうな。

「…あれ?」
「朝礼に間に合わなくなるんでひとまず教室行きますよ」
「え、ちょっと待って」
「なんですか、遅刻したいんですか?」
「いや、そうじゃなくてさ」

歯切れが悪い言葉に少しだけ苛立った。なにか悩んでるような言いづらいような、そんな雰囲気だから少しだけ待つことにしたけど、

「違ったら悪いけど、赤葦ってもしかして」
「行きますよ」

そこから先は聞きたくなかった。
気付かれたからなんだという感じなんだけど、それをわざわざ肯定する必要もない。そう考えているってことは、今の俺は自分で思ったより苛ついてるんだろうな。

部室を出たら、木兎さんはあまり突っ込んで話をしてこなくなったから助かった。そんな話を外でして、万が一榊の耳に入ったら死にたくなる。それが榊のことでも俺のことでも。

木兎さんをガン無視して教室に入れば、榊が笑って手を振ってくれる。席が近いわけではないから話すことはできないけど、また少し元気を取り戻したようで安心した。

「赤葦」

朝礼が終わって教室がざわつき出した頃。榊がビニール袋を手に近付いてきた。

「今日はなにかあった?」
「まだなんにもないけどさ、赤葦にはここのところ迷惑いっぱいかけたから」

そう言って机におかれたのは、学校に来る途中にあるコンビニ袋。中身はおにぎりやパン、スポドリがかなりの量入ってる。

「おにぎりばっかりだとお昼時大変なことになるからさ、お菓子とかもあるよ」
「え」
「今までのお礼だよ」

お礼って…

「いや、俺なにもしてない、」
「いっぱい助けてくれたよ」

少し見上げた榊は、ちょっと辛そうな、それでいてどこかすっきりしたような顔をしている。

「まだ吹っ切れてはないけど、もう大丈夫。だから今までのお礼」

そう言われたら、信じるしかない。
それにしても多すぎる。本当に榊の財布事情は大丈夫なのか?

「でもこんなにはもらえないよ」
「えー、じゃあ差し入れってことで」
「無茶苦茶か」
「だってあげるために買ったんだもん」

たしかにそれを返されても困るだろう。たぶんお昼は別に持ってるだろうし、榊がそんなにたくさん食べられるとも思わない。

「じゃあありがたく」
「うん、本当にありがとね」

連絡すれば昼に集まることになるだろうし、おにぎりやパンが傷むことはないだろう。

「なんか、押し付けた…?」
「そんなことないよ。正直助かる」
「ならよかった」

へにゃりと崩れた榊の顔をみて、自然と言葉がこぼれた。

「榊のそう言うところ、俺は結構好きだよ」
「えー?えへへ、なんか恥ずかしいね。でもありがとう」

もしかしなくても、真意は少しも伝わってないんだろう。そんなところもいいなと思ってしまうんだから、もうどうしようもない。

「じゃあ」
「うん、また」

性格的に整理がついたからと言って、すぐに他の誰かを好きになることはあまりないと思う。とは言っても、いつ何が起こるかわからないからあまりのんびりはしていられない。
できる限り弱味に漬け込むようなことはしたくはない。それに、自惚れでなければ榊と1番仲がいい男子は俺だと思うから、これから徐々に距離を詰めていけばいい。



(もう触らないで。)