泣いてもいいって俺は言った。


「なぁ赤葦、榊って学校きてるのか?」
「来てますよ」
「ならいーんだけどよぉ」

あれから、榊は部活にほとんど来なくなった。あんなことがあったら顔を出しづらくもなるだろう。

榊はあの日まで木兎さんとほんの少しでも会うために、移動の時は木兎さんのいそうなところや目につきそうなところを選んで移動していた。結果として、木兎さんと遭遇することが多くなり、話すことも増えた。それがぱったりなくなったからこうして木兎さんも気にしているわけだけど。
榊が頑張っていた結果は、実を結びこそしなかったが、しっかり形になってる。

「赤葦は応援隊長と同じクラスだっけ?」
「そうですよ」
「何があったのかわかんないけどさ、またいつでもおいでって伝えておいて」

榊はマネージャーに1番よくなついていた。
同性だからって言うのもあるだろう。それ以上になついていたようにも見えた。そして、マネージャーも必要以上に可愛がっていたように思う。

「なんかあったのかなー?」
「相談くらい乗るのにねー」
「ねー」

榊だってできたらきっとしてますよ。でもできないんです。あなたの彼氏が本気で好きだったから、告白するより早く失恋して落ち込んでるんです。
とはさすがに言えなかった。彼女が別の人なら、マネージャーに相談してたんだろうか。もしも木兎さんと付き合ってなければ、応援してくれたんだろうか。

なんの役にもたたない仮定ばかり考える。

「赤葦はなんか知ってるー?」
「いえ、」
「そっかー」

榊が誰にも相談しないなら、俺もなにも言えない。なにも知らないを通すしかない。

「じゃあ、お疲れ様です」
「おー、また放課後なー!」

教室では、またひとりでぼんやりしてるんだろうか。
聞いたところによると、榊は水道で1度泣いたきりで、それ以降は泣いていないらしい。泣いた方が整理のつくものもあるはずなのに、それでも泣かないのは忘れたくないからなのか。

「榊」
「あ、朝練お疲れ様ー」

いつものように笑って返事をしてくれる榊だけど、その目の下には薄く隈ができてる。

「ちゃんと寝てご飯食べてる?」
「大丈夫だよ」
「話しづらいとは思うけど、絶対に言ったりしないから聞こうか?」
「大丈夫、ありがとう」

そう言われても、全然大丈夫そうに見えない。

「俺が言ったこと覚えてる?」
「うん。でもね、大丈夫」
「どうして」
「確かに辛いんだけどね、泣くようなことではないから」

こればっかりは榊が自分で整理するしかない。俺がどう言ってもアドバイス以上にはなりえない。

「だって好きになることは悪いことじゃないもん。木兎さんのこと好きになったことを、泣いたりしたくない」
「…そうだね」

好きになった人が間違いなく自分のことを好きになってくれたら、こうして悲しむことがなくなるんだろうか。好きな人がいる人を好きにならないような世界だったら、もっと笑っていられたんだろうか。

「あれ?赤葦って好きな人いるんだっけ」
「、うん」

そう言えばこの間は明確に言わなかったな。

「そっか…頑張れ。赤葦なら大丈夫だよ」

榊に言われても頑張れそうにない。かといって諦めることもできないんだから、困る。

「赤葦優しいしイケメンだからさ、」

それでも榊は木兎さんを見てた。

「たぶんだけど大丈夫だよ」

根拠のない言葉に俺がなにを思うかなんて、今の榊には考える余裕なんてないんだろうな。



(でも泣けなかったのが君。)