晩御飯はどうしよう
 
お兄ちゃんはお仕事の都合で昨日の夕方帰ってしまった。今日は蛍が帰ってくる日。
結局、今回もお兄ちゃんと蛍が言葉を交わすことはなかった。

「おはよー」

なんだか色々やるせなくて、寝起きでほとんど開かない目を擦りながらリビングに向かった。
時間的にはお昼。体的には朝ご飯なわけだけど、お母さんはキッチンでなにか作ってた。…たぶんパスタ。

「こんな時間まで寝て…休みだからってだらけすぎじゃない?もう大学生なんだからね?」
「わかってるよぅ」
「灯佳里もご飯食べるでしょう?」
「うん」
「なら顔洗って着替えてらっしゃい」
「はぁい」

顔も洗ってなければ着替えてもない。今日の視界はいつもよりもずっと悪いから、きっととんでもない糸目になってることだろう。
寝起きすぎる今の私は、私でもいくらなんでも女子としてどうなのかと思う。でもみんなこんなもんだよね?ひとまず顔洗って着替えよう。コンタクトは…今日はいいや、出掛けないし。

ああ、そう言えばずっと思ってたこと言ってみようかな。

「お母さーん」
「話は後で聞くから食べちゃって」

どっか出掛けるのかな?
なんとなく急いでるような雰囲気のお母さんと一緒に、トマトとベーコンの冷製パスタを食べる。…ちょっとすっぱい。

「今日は家にいるの?」
「うん。出掛ける予定もないし」
「じゃあ晩御飯お願いしてもいい?」
「遅いの?」
「道子さんとお出掛けなのよ。道子さんのご主人がたまには息抜きしておいでって言ってくれたんですって」

道子さんって誰だっけ?
ママ友なんだろうけどわかんないや。

「へぇー!いい旦那さんだね」
「だから今日は道子さんと遊んでくるわね」
「わかった」

晩御飯か…蛍が帰ってくるはずだけど、お腹すかせて帰ってくるのかな。

「あ、そうそう」
「なに?」
「私さ、バイトしようと思うんだけどね?」
「なんで?別にバイトなんてしなくてもいいんじゃない?」

暗に嫌がられるのはわかってた。遅くなると危ないもんね。私免許持ってないし。
ちなみに取らなかったんじゃない。お兄ちゃんの分かりやすい妨害と蛍の地味な妨害の結果、免許を取れないままになってしまっただけ。足がないと大変なんだけどなぁ。

「私はお兄ちゃんと蛍みたいにやりたいことってないからさ、それなら社会勉強でもしたいなーって」
「別に家計が苦しいわけでもないし、無理しなくていいのよ?」

お母さんまで拒否るとは思ってなかった…これは、すぐにはできなさそう。

「はぁーい」

別に今すぐしたいわけじゃないし、大学にもう少し慣れてからでいいかな。なんて言ってると、すでに働いてる人から石が飛んできそうだから思うだけにしておく。

バイトのことはあっさり諦めて、パスタを食べながら今日の晩御飯メニューを考える。
疲れてるだろう蛍のためにどんなのがいいだろう?

「あら!もうこんな時間?」

食べ終わる少し前、お母さんが時間に気付いたらしくいきなりバタバタし始めた。

「洗い物やっとくからいいよ」
「本当?じゃあお願いね」
「はーい。いってらっしゃーい」

お母さんを見送って、食べ終わった食器を洗いながらやっぱり晩御飯のメニューを考える。

疲れた体を回復させるご飯。かつ蛍のお腹にちょうどいいもの。やっぱり低カロ高タン?うん、グラタンにしよう。今日は洋食な気分。そうと決まったら早く買い物行かないと。合宿を頑張ってきた蛍が帰ってきたらすぐ食べられるように。

そんなことを考えながら冷蔵庫を覗く。中にはお母さんが常備してる食材や、私が絶対に置いておきたい豆乳が入ってる。だから豆乳は私のいつも飲んでるやつでいいし、豆腐もある。
野菜…玉ねぎとピーマンとトマトがある。トマトはパスタの残りかな。他になにかいい食材がないか検索して、買い物リストにブロッコリーを追加。あとはサラダとかいるよねぇ…他は何がいいかな。
そうだ、ケーキ作ってあげよう。合宿終わったら買って待ってるって話したもんね。なかったら蛍が泣いちゃう。イチゴあるかなぁ。なかったらどうしよう。

あーあ、早く帰ってこないかなぁ。