ツッキーのお姉さん!
姉ちゃんが帰ったあと、体育館は嘘みたいに静かになった。視線が僕に集まってるのが嫌でもわかる。
弁当忘れたなって気付いたのは、部室で着替えてるときだった。財布があるから気にしてなかったけど、まさか姉ちゃんが学校まで持ってくるとは思ってなかった。いや、むしろ姉ちゃんならこれ幸いと言わんばかりに喜んで届ける可能性の方が高かった。すぐ母さんに連絡しなかった僕のミスだ。
「なぁ、今の人、月島と山口の知り合い?」
あれだけ大声で乗り込んで来たんだから、体育館にいて気付かない人がいるわけがない。
「ツッキーのお姉さんだよ」
「月島に姉弟いたんだな」
「王様には関係ないデショ」
「ぁあ!?」
そもそも僕に兄姉がいても王様はもちろん、誰にも関係ないよね。
「背高かったな‥家系か?」
「確かに、ツッキーの家の人は背が低いって人はいないですね」
「ちらっとしか見なかったけど、月島の姉ちゃんすっげー美人じゃなかったか?」
「灯佳里ちゃんはすっごい綺麗ですよ!優しいし!」
て言うかさ、
「俺さっき話した時に思ったんだけどさ、月島のお姉さんって烏野の卒業生か?」
「はい。去年まで烏野に通ってました」
「ちょっと、なんでさっきから山口が答えてるわけ?」
「ごめんツッキー!」
勝手に人の姉ちゃん紹介しないでよ。
「なに?大地知ってるの?」
「スガは覚えてないか?去年の文化祭で先輩がやったロミジュリ」
「ああ!」
そうか、先輩だったらあの事を知っててもおかしくないか。
「あの人ティボルトやってた人か!」
「そんな美人だったんスか?」
「いやいや、ジュリエットの近くにいる男役」
「え!あの人がですか?!」
「そう言えば男装して劇やったら、次の日女の子に告白されたって言ってたね、ツッキー」
「山口…」
「マジか!月島の姉ちゃんすげーな!」
だから、山口は僕の家の情報を勝手に発信するのやめてくれない?
「まぁおチビさんより身長高いからしかたないんじゃない?」
「なんだとぉ!?」
確かに劇のことも身長も事実だから話してもいいけど、それを知ったところでなんになるの?意味わかんないんだけど。
「月島のお姉さんもバレーやるのか?」
「いえ、姉貴は運動神経ないんでやったことないですよ」
「へー…身長あるだけにもったいないな」
「もったいないとか、そう言うのいいんで」
厳密には「ちゃんとやったことがない」だけど。
僕が小さいとき、帰りが遅くなった兄ちゃんの代わりにレシーブ練に付き合ってくれたことがあったけど、あれは酷かった。
ボールは変なところに跳ぶし転ぶし、そのくせなかなかやめようとしないから僕の方が困った。なんとかして止めさせようと頑張ってたら兄ちゃんが帰って来て、それでようやく諦めてくれたんだよね。球出しすらへたくそだったから、たぶん球技がそもそもダメなんだろう。
「灯佳里ちゃん料理上手だったよね」
「じゃあそれもお姉さんが作ったのか?」
「違いますよ。姉貴が起きたの、たぶんさっきだと思うんで」
「へー」
もう絶対に弁当忘れたりしない。こんなこと何度もやってやるもんか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「あの、皆さんお昼食べないんですか?」
そう言うと主将を含めた3年生まで忘れてたって顔をして弁当を取りに散り散りになる。
なんなの?みんなアホなの?
先輩まで人の姉ちゃんのこと聞くのに必死とかなにそれ。そんなに気になる?
「ツッキー!昼取ってきた!食べよう!」
「ん」
とりあえず姉ちゃんの「知り合い」って訳じゃないみたいだし、どうでもいいけど。
「灯佳里ちゃん元気そうだったね」
「うるさいだけだよ」
「またそんな言い方して」
「僕が烏野のバレー部入るって昨日バレてうるさかったんだよ。山口もどれだけうるさいのか体験したらいいよ」
「でもそれっていずれバレるよね?」
「…そうだけど」
そうだけど、隠したかった。姉ちゃんが騒ぐこともわかってたし、なんとなく嫌だった。
そもそもこうして学校にくるのはやめてほしい。姉ちゃん無駄に目立つから。
「とりあえず、勝手にウチの話するのやめて」
「ごめんツッキー」