その原動力は兄弟!
「灯佳里ー。お昼どうするー?」
「今日は学食行くー」
今日はお母さんの代わりにお弁当を作ったんだけど、自分で作ったご飯を食べる気になれない私はいつも蛍の分しか作らない。
「オッケー」
別に高校の時からお母さんが作れないときは作ってたから、1個作っても2個作っても変わらない。でも、自分で作ったものを食べたいとは思えない。
「お弁当自分で作れって言われたけど、正直やってられないよねー」
「作ってあげるのはいいんだけどね」
それに、うちの学食おいしいから好きなんだよねぇ。高校の時はあの手この手でお昼をなんとか調達してたのが懐かしい。
「それって弟くん?」
「そう!今日はお母さんが朝から出てたから作ってきてあげたの!なにも言わないで渡したから絶対お母さんが作ったと思ってるはず。今頃そうとも知らずに私が作ったお弁当食べてるのを想像するだけでにやける!」
「…初日でわかってたけど、灯佳里って弟くんのことになるとすごいよね」
「蛍の為なら人生賭けるよ」
「それは弟くんの為にもやめてあげな」
全人生は賭けてあげられないけどね、それくらいの気持ちはあるってこと。お兄ちゃんに同じ事を言ったら「灯佳里は灯佳里の人生を生きな」って言われたから、こっそり蛍の為に頑張る。お兄ちゃんも諦めない。
「で?お昼どうする?」
「うーん…日替わり」
「じゃあ私エコ定ー」
今日の日替わりはオムハヤシ。オムライス好きとしては選ばざるを得ないメニュー。これさ、冬はクリームソースで出るよね?今から楽しみで仕方ない。しかし私はハヤシライスのことはたいして好きじゃない。オムハヤシは好き。
「日替わりのデザートなに?」
「ブランマンジェだって」
「洋食っぽい!」
「ブランマンジェはフランスだけどね」
「へー」
「エコ定は?」
「プリン」
「え、」
あと、エコ定のことを紹介しておくと、正式名称エコノミー定食。日替わり丼もの定食とでも思ってもらえたらそれで問題ない。
「今日のエコ定って、確かあんかけ丼?じゃなかった?」
「うん。なんでプリンがついてるのか謎」
せめてゼリーじゃダメだったのか。でもプリンに罪はない。
「あげないからね」
「うん。別に欲しいなんて言ってないけどね」
「なんか欲しそうだったから」
私の名誉のために言っておくけど、そんなことはない。
「席取っとく?」
「あ、じゃあ私もらって来るよ?」
「いや、灯佳里に任せるのは悪いよ」
「大丈夫大丈夫。ご飯の量は?普通?」
「え?追加料金出なかったっけ?」
「そうなの?」
いつも「ご飯くーださいっ」って食券出すと増やしてくれたりオマケくれるから普通だと思ってた。違うんだ。
「まぁ私普通でいいからさ、」
「わかった」
食券を2枚持って列の後ろに着く。
私の前には女の子が2人、その前には男子。まぁ学食食べる人が並んでるんだけどね?私普通の女の子よりおっきいからさ、ほとんどの男子と目線一緒だからさ、男子の気持ちの方がわかると思う。
並んでると、私より低いところで女の子がきゃっきゃ言いながら待ってるのがかわいいんだよね。上目使いとか、もうホントズルいよね。かわいい。
「お願いしまーす」って言葉にもお花が見える。どこからそう言う女子力が出てくるんだろう。
おっと。
「すみませーん。日替わりとエコ定お願いしまーす」
ちょこっと屈んで中を覗き込むと、いつもの人が奥にいるのが見えた。
「佐々さーん」
「あら!灯佳里ちゃん!今日は学食?」
佐々さんは食堂のおばちゃん。入学から僅か2週間ほどではあるけど、佐々さんとはちょっとしたことで仲良くなった。ちなみに息子さんが反抗期で困ってるらしい。
「そうなんです。日替わりとエコ定くださーい」
「お友達の?」
「はい!」
「灯佳里ちゃん今日は?」
「うーん…じゃあちょっと」
「どっち?」
「オムライス!」
「待っててねー」
「はぁーい」
そう言えば蛍のアレは反抗期なんだろうか。もしそうならずいぶん長い反抗期だ。
「お待たせ」
出てきたのはオムハヤシとあんかけ丼。ハヤシはお肉ゴロゴロ、あんかけ丼は卵が5つ。見本よりちょっと多い気がする。
「いつもありがとうございます」
「また来てくれたらそれでいいよ」
「もちろん来ますよ!佐々さん達のご飯おいしいから!」
「嬉しいこと言ってくれるね!」
「ホントですよー」
「ゆっくり食べなね」
「はい、ありがとうございます」
5人家族でお膳の準備をしていると、不思議と運ぶのもうまくなるらしい。たぶんファミレスとかでも頑張れるんじゃないかと思う。
「大変じゃない?手伝おうか?」
「大丈夫です。友達待ってるんで急ぎますねー」
知らない人に話しかけられたけど無視だ。私は今お腹がすいてるんだ。邪魔しないでいただきたい。それに、私に話しかけるなら蛍よりかっこよくなってほしいものだ。
え、ちょっとまって。今思ったけど、蛍よりかっこよくてお兄ちゃんより優しいってそれもう人間じゃないんじゃない?
「ありがと灯佳里ー…どしたの、神妙な顔して」
「蛍よりかっこよくてお兄ちゃんより優しい人がこの世に存在するとしたら、それはもう人間じゃなくて他の種族なんじゃないかと思ってた」
「あっそ。いただきまーす」
一口食べて、私はオムライス好きで良かったと心底思った。うまく表現はできないけど、オムハヤシがおいしいことだけはお伝えしよう。
「そう言えばさ、灯佳里ってなんか他の勉強してる?」
「んー?」
「よくわかんなかったけど、休み時間に違うテキスト見てるっぽかったから」
あー。あれかな。
「管理栄養士のやつかな」
「うち以外のテキスト?」
「うん。先輩が「これ便利だったから、よかったら使って」ってくれた」
「なにそれ羨まし」
もらえるものはもらっておかないとね。ほとんど知ってる内容だったからあんまりちゃんと見てないのはひっそり謝った。
もちろんお礼はちゃんとしました。
「灯佳里はなんでここ来たの?」
「働き口が学校から福祉施設と多種多様で就職に困らなさそうだったから」
「本音は?」
「蛍においしくてバランスのいい食事をとってもらいたいから」
「やっぱり弟くん関連か」
友達には笑われたけど、私の原動力は兄弟で家族。こればっかりは今更どうにもできない。
「いつからそんなこと思ってたの?」
「お兄ちゃんがバレーにハマって、蛍がそれにくっついて始めた頃だから…小5とかかな?」
「そんなときに将来決まるとか」
「もちろんその時はまだちゃんと決まってなかったよ?漠然と、お兄ちゃんと蛍の力になりたいなーって思ってただけ」
「それでもすごいわ」
そうかな。当たり前みたいに考えてたから、よくわかんないや。
「あたしもそう思えるようになるかなぁ」
「彼氏とかは?」
「それは灯佳里でしょ」
「やだよ、今は蛍とお兄ちゃんで充分」
「はいはい」
でも彼氏か…いたらなんか変わるのかな?私に彼氏じゃなくて、お兄ちゃん達に彼女でもいいか…いや、彼女さんと話したいってことしかわからない。私に彼氏ができないとまったく変わらない。
なんて一瞬は考えたものの、オムハヤシの美味しさでそんな考えは即座に塵と可した。