卒業したばっかりだし
 
「あれ?急いでるの?」
「うん、ちょっと家の事情でね」
「じゃーねー」
「また明日ねー!」

教室を出ると足は次第に早くなる。校舎を出た頃には走ってた。
1分1秒でも早く駅に、1本でも早いバスに。やる前から諦めるなんてそんな問いは愚問だ。蛍の為なら私はお不良さんだって叩きのめして見せる!

駅のトイレでロッカーに入れておいた服を取り出してトイレで着替える。
最近の子は化粧上手だから、私が化粧をしててもおかしくない。そもそも今日は素っぴんに近いレベルで薄くしておいたから下手したらバレない。着ていた私服は丸めて、駅に戻らないで直帰するつもりだから服は持ったままバスへ飛び乗る。

目的地は蛍が練習試合をすることになった青葉城西。県トップ4に君臨するバレー強豪校、らしい。ちなみに制服がかわいい。
もちろん烏野の制服が1番だと思ってるけど、青城の制服って都会っぽくてちょっと憧れる。東京の制服ってあんな感じばっかりなんだろうな…あともう1ヶ所、白鳥沢の制服もかわいい。チェックのスカートずるい。さすが私立。でもさ、どっちも白いブレザーでしょ?相当自分のことイケてると思わないと着れないよね。思ってなくても着てる人はいるだろうけど、私はたぶん似合わないだろうなぁ。

なんて思ってるうちに着きました。青城。かわいい制服に全然負けてないかわいい女の子がたくさん。
…蛍の彼女、青城の子だったりするのかな… そしたらきっとかわいい子だよね…じゃない!そもそも彼女いないしいらないって言ってた!

幻想にうちひしがれる前に私は体育館を探さないといけない。そうしないとなんのために急いできたのかわからない。
あいにく青城に来たことなんてないからどこに何があるのかわからないけど、私の直感が冴え渡る気がしてる。勘を頼りに適当に歩いて辿り着いたのは、バスケ部とバドミントン部が使ってるらしい体育館。

惜しかった。もうちょっとだった。だってほら、キャーキャー言ってる体育館なんてライブでもしてるのかって感じじゃない?ボールの音がするのなんて勘違いかな、ドラムかな、なんて思うじゃない?ライブなんて行ったことないからイメージだけど。

ライブ会場のような体育館が一瞬静まり返ったのを見計らって扉をそっと開いたら、ものすごい勢いでボールが飛んできた。

…うん。真横とか顔面じゃないからいいんだけどさ、いつもタイミング悪すぎなんじゃないですか?

しかもそれが最後の1点だったらしく、向こう側にいる烏野は騒ぎ始めるし、こっち側にいる青城の人には凝視されるし踏んだり蹴ったりだ。

「大丈夫ですか?」
「あ、はい」

青城の主将さんらしき人が気を使って声をかけてくれたけど、正直に言います。
やめて!話しかけないで!なんか上の方からものすごく視線を感じるから!あなたモテるのね!!

「烏野の子、かな?」
「はい。応援したかったんですけど、試合終わっちゃいましたよね…?」
「たった今ね」

さっぱりしてるように言ったけど、表情は歪んでる。練習とはいえ、負けたら悔しいよね。お兄ちゃん毎回悔しそうだった。高校の時は言い難い顔をすることが多かった。
思い出したら、ちょっと苦しい。

「今から入るのも気まずいでしょ?」

私が黙ったからか、気まずいと思ったんだろう。時間の都合でこの後は再試合せずに帰るらしい。

本当に全く間に合ってない。

「校門まで烏野見送りに行くけど、よかったら一緒に行く?」
「はい」
「じゃあちょっと待ってて」

そう言うと主将さんらしき人はチームに戻っていった。
なんか、顧問の人からお言葉を賜るあれだよね。何て言うのかは知らない。黒髪の子に思いっきり殴られたけど大丈夫かな?

覗いてるとそれはもう耐え難い視線に晒されるのでちょっと引っ込むことにした。
あの人イケメンだったもんなぁ。あれは確実にモテる人だ。私に話しかけてきたときも慣れてるのか警戒心を解くのがうまいと思ったし、気遣いもできるとなればモテない方がおかしい。

まぁ蛍の方がかっこいいけどね!知らない人より蛍の方がイケメンに決まってるじゃない!しかも気遣いでもお兄ちゃんの方が勝ってるからね!
でも、蛍は人見知りするからなぁ。お兄ちゃんはそうでもないんだけど、いい人が過ぎて彼女ができないんじゃないかと思ってる。彼女いるなら今すぐにでも教えてほしい。

「お待たせ。行こっか」
「ありがとうございます」

鼻唄でも歌いそうな勢いで戻って来た。なにか楽しいことでもあったのかな?

「名前聞いてもいい?俺は及川徹、青城バレー部で主将やってますっ」

なんだろう。語尾に星が見える。背景にキラキラが見える。これがモテるイケメン補正と言うものか…

「月島灯佳里です」
「灯佳里ちゃん身長高いよねー。なんcm?スポーツやってる?」

おお、いきなり名前。年下と思われてるのかな。それならおかしくないか。

「173です。スポーツはほとんどやったことないですねぇ」
「バレーやったことある?」
「授業とかでちょっと触ったことがある程度ですよ。ボールと友達にはなれないみたいで、友達にも家族にもよく心配されてました…」

お兄ちゃんにも蛍にも、あの時は本気で止められたんだよね…別にそれで怪我したこともないのになんであんな必死になって止めてたんだろう。

「あと、気になったんだけど灯佳里ちゃんって俺と同級生?」

…同級生ではない。なぜなら私は大学生。でもここで素直に言って「え、それコスプレじゃん」なんて引かれるのは悲しいっていうか面白いこと考え付いた!

「いえ、1年生です」
「ホントに?!」
「はい」

嘘ではない。大学生って言ってないだけ。

「背が高いし美人さんで落ち着いてるから同級生かと思った!」
「ありがとうございます」
「灯佳里ちゃん彼氏いる?」
「いませんよー」
「じゃあ、灯佳里ちゃんの彼氏に立候補しちゃおうかな」

うわー!チャラい!

「またまたー。及川さんこそ彼女さんの4人や5人いるんじゃないですか?」
「え、どんなイメージなの?」
「モテる」
「否定はできないかな。でも彼女はいないよ」
「そうなんですか?」
「だから灯佳里ちゃんの彼氏に立候補できるんだよー」
「でもごめんなさい。好きな人がいるので」
「そっかー」

チャラいってことはよくわかったけど、距離感を掴むのもうまいな。不愉快にならない程度まで踏み込んで来るわりに、あっさりと戻っていく。素直にモテてることを自覚してるのも悪くない。
これでもかってくらいモテ要素がつまってるくせに謙遜とかされたらムカつくよね?

「あれ?烏野はまだ来てないのかな」

乗せられるままに話していたら、いつの間にか校門についてた。及川くんの話がうまいからか、余計ここまでの時間が短く感じた。

「ちょっと待とうか」
「そうですね」

さて、ここまでの私の率直な感想を皆さんにお伝えしたいと思います。

この子すごくめんどくさいかも!
及川くんの持ってる話題の幅が広すぎて話が途切れないのはいいけど、私は別に初対面の人と黙って待つことになったとしてもまったく気まずいとか思わないから安心して黙ってくださいお願いします。