別にシスコンじゃないんで
 
「お姉さんを俺にください!」
「絶対いきません!」
「そこをなんとか!」
「なりません!」

…どうしてこんなことになったのか。

遡ること僅か10分ほど。
帰ろうと歩いていた僕達の前に青城の主将がいて、なにやらいちゃもんをつけてきた。
レシーブが苦手なのは自分でもわかってる。昔から苦手で、あの頃はよく練習してた。今は別に苦手でもいいやって思ってたけど、それを誰かに指摘されるのはムカつく。だからと言って本気で練習なんてしないけど。

その時だ。
まさか青城主将の向こうから姉ちゃんが出てくるなんて予想してなかった。

「ちょっと!うちのバレー部に好き勝手言わないでください!」
「灯佳里ちゃんには悪いけど、俺達は烏野に負けるつもりないからねー」

いつの間に名前で呼ばれてるんだよ。

「ねぇねぇ、俺の応援してよ」
「嫌です!」

そんな言い合いをしているのはちょっと珍しかった。男に話しかけられてもうまいことかわしてるイメージがあったから。

「なぁ、月島の姉ちゃん大王様と知り合いなのか?」
「そんなの僕が知るわけないデショ」

あとさ、なんで烏野の制服着てるわけ?姉ちゃんもう卒業してるんだから、それコスプレじゃん。

「烏野に帰ります!」
「待ってよ!」

青城主将が姉ちゃんの腕を掴んだとき、バランスを崩したのか倒れたのは青城主将の腕の中。

「今からでも遅くないからさ、ウチにこない?」
「っ?!い!や!です!離してください!!」
「灯佳里ちゃんシャンプーなに使ってるの?この匂い、俺好きだなぁ」

うわ、気持ち悪。
姉ちゃんもなにか見たのか感じ取ったのか、僕もビックリするほど嫌がってる。今までこんなに嫌がってるのなんて、小学校のキャンプくらいだったんじゃない?
(僕が行かないなら行かない(もう1個は、僕と一緒に行く)って言うただのわがまま。学年が違うんだから無理に決まってるでしょ)

「教えません!離して!蛍ー!助けてー!」

姉ちゃん達から1番遠くにいたのに、僕の名前なんて知らないはずなのに青城主将と目があった。

「1年だよね?灯佳里ちゃんのなに?彼氏?」
「違いますよ」
「そんなんじゃないです!もっと深い仲なんだから!」
「もっと深い…!!」

あのさ、なんでそう言う言い方ができるわけ?全然わかんないんだけど。

何はともあれ、姉ちゃんはショックを受けてるらしい青城の主将から逃げ出して僕の後ろ、つまり最後尾に来たわけだけど。

「なんで制服なんて着てるの?」
「制服の方がバレないかなって思って」
「なんでここにいるの?」
「練習試合あるって忠くんに聞いた!」
「山口…」
「ごめんツッキー」

お前さ、プライバシーの侵害だよ。今後は姉ちゃんに何一つ情報を与えないで。

「ちょっとメガネくん!灯佳里ちゃんとどういう関係なのさ!」

いくら女子のわりに背が高いといっても、僕よりもずっと小さい姉ちゃんはできるだけ小さくなって僕の背中で隠れているらしい。

「はぁ…姉弟ですけど」
「双子?確かに似てるけど」
「今の聞いた?!蛍と私似てるって!」

それだけで喜ばないでよ。似てないってさんざん言ってるよね?姉ちゃんと似てるとか絶対にやだ。

「似てない。あと双子じゃないです」
「え?だって1年生なんでしょ?」

不思議そうな顔をした青城主将を見て、まさかと思って後ろの姉ちゃんを見たら微妙な顔をしていた。
どうせ学年だけ言って、相手が勝手に勘違いしただけなんだろう。そういうのやめろって言ってるのにまだやるとかバカなの?

「大学の1年ですよ」
「…え?」
「高校じゃなくて、大学」
「ええええええええええええ!!」

真実を告げてやれば青城主将の声が響く。

ここでようやく冒頭に戻る。
いい加減僕を挟んで言い合いするのやめてくれないかな。煩いんだけど。

「マジで月島の姉ちゃん美人ッスね」
「告白してフラれる奴多かったなー」
「清水知り合いじゃなかったっけ?」
「先輩が転んだとこに居合わせただけ」
「灯佳里ちゃん、よく転ぶんですよね」

好き勝手に話してないでなんとかしてよ。山口が今日のこと言わなければこんなことにならなかったんだから。

「ねえメガネくん!灯佳里ちゃん俺にちょうだい!」
「やだ!私は蛍かお兄ちゃんと結婚するんだから!」
「はん!そんなの無理だからね!」

恥ずかしいからそんな事大声で言わないでよ…姉ちゃん何歳だよ。そんなの今時小学生でも言わないデショ。

「兄弟は結婚できないって法律で決まってるの!灯佳里ちゃん知らないの?!」
「知ってます!だから誰とも結婚なんてしない!」

いや、いつかするでしょ。

「月島のお姉さんってブラコンなんだな」
「18?でお兄ちゃんか弟と結婚するって普通は言わないべ」
「でも、月島さんだと許せる気がする」
「「わかる」」

そんなのわからなくていいんですけど。
実際迷惑ですよ?学校や部活や彼女といろいろ聞かれて煩いし、うっかり情報漏洩なんてしたらこうして追っかけてくるし、ついでにしつこいし。

「ねぇ、いい加減にしてくれません?」
「じゃあ灯佳里ちゃんください!」
「いかないって言ってるでしょ!あと私先輩なんだけど!運動部なのに先輩にタメ語ってどうなの?!」
「たしかに灯佳里ちゃんは先輩だけど、灯佳里ちゃんは先輩じゃなくて俺の好きな人だからいいの!」
「「おおー…」」

チョット。王様もチビもなに感心してるんだよ。そういう問題じゃないんだよ。

「だからメガネくん!」
「そもそもそれって、弟の僕じゃなくて両親に言うやつですよね?」
「そっか!じゃあご挨拶にいくから住所教えて!」
「やだ!教えない!」

ひょこりと僕の後ろから顔を出すと舌を出して嫌な顔でもしたつもりなんだろう。全然効果なし。逆に青城主将のツボをついたように見える。

「僕も教えるつもりはないので」

聞かれるよりも早く、目を合わされても即座に拒否を示した。

「じゃあどうしたらいいのさ!」
「「精々頑張って下さい」」
「さすが姉弟息ピッタリ!」

教えて家に押し掛けられるのも困るし、青城主将にそう簡単にあげられるものでもない。
煩くてもめんどくさくても、姉ちゃんは僕の姉ちゃんなんだから。