花散らしの雨

「てっちゃん!」
「んー?どした?」
「お花見いこう!」
「はぁ?」

そう言ったのは、開花宣言がされてすぐのこと。なんとか咲いているときに休みが被ったので、服とかお弁当とか、てっちゃんに頭の中を覗かれたら笑われそうなことばっかり毎日考えてた。
そもそもデートが久しぶりだったから、よけい楽しみだった。

そう、楽しみにしていたのに…

「てっちゃぁ〜ん」
「なんだよ」
「雨…」
「そんなの俺に言われてもどうにもできねえって」
「ええ〜」

朝起きてからずっと聞こえていた雨の音。予報では午後から降るはずだったのに、前倒しで降り始めていたらしい。

お花見、したかったのに…

「諦めろ」
「だって、今日しかお休み合わないのに…」
「いや、そんなことねーだろ」
「お花見するには今日しかなかったじゃん」
「あー…そうな…」

お天気お姉さんの嘘つき。なんて八つ当たりしても天気が変わるわけもなく、どんなに空を睨んでみても雲が切れる筈もなく。

「ほら、とりあえずこっちこい」

窓に張り付けていた手を取られて、私はようやく窓から離れた。
てっちゃんは「冷てえな」なんて呆れたように言いながら、私の手をしっかり握ってる。

「てっちゃんは体温が高いねぇ」
「お前が体温低すぎるんだよ」

雨のせいか、寝ているときから気温が低かった。朝起きたらてっちゃんの抱き枕になっててびっくりしたけど、多分寒かったんだろうな。基本的にはてっちゃん寒がりだし。

すっかり暖まったこたつに入る。テレビからはスポーツ賭博やら芸能人の熱愛報道やら、いつもと変わらないニュースが流れてる。そんなものを知ってどうする。
私はふてくされたままテレビを睨む。

「散歩でもいくか?」

ニュースの音に紛れて、突然言われた。

「雨だよ?」
「雨の日の花見も乙なもんだろ?」

てっちゃんを見ると、ニュースを見たまま。目は合わない。

雨の日はあんまり外に出たくない。濡れるし、傘邪魔だし。てっちゃんも雨はあんまり好きじゃなかったと思う。
それでもこうして言ってくれたのは、たぶん私のため。お散歩なんてってちょっとバカにしてたのに…

「うん。いく」
「じゃあ準備しないとな」

そう言って笑ったてっちゃんはいつもと同じ、昔から変わらないあの笑い方。

「すぐすむからね!すぐだから!」
「へいへい」

ぱぱぱっと支度を整える。
風が強いだろうからショートパンツ。雨で気温は低くなってるだろうから、タイツに肌着を着こんで、少しだけ厚着。

「てっちゃんっ」
「じゃーいくか」
「うんっ」

あいにくレインブーツなんてないから、いつもと同じ靴。服に合わせてシンプルな傘を手に取った。

「だいぶ散ってきてるな」
「今日が峠かなぁ」
「峠って…」

家のすぐ前に小学校があると、すぐに桜が見えるから個人的には気に入ってる。

「今日雨が降らなくても、今週が最後ってニュースでも言ってたよ。寒い日が続いたから、かなり持った方だと思うけど」
「去年も花見はしてねーもんな」
「そうだね…」

ついでにお買い物もしようって事になって、そのまま商店街へ向かう。
家でガーデニングをする人が多いから、まだ春になったばかりなのにいろんな花が咲いてる。

「ほら、フラフラすんな」
「してないよ」
「してるって」

手を取られると、そのままてっちゃんのポケットの中へ拐われた。

「てっちゃん」
「なんだよ」
「これ、バカップルっぽくない?」
「イーんだよ、たまにはな」
 
何を考えてるのかはわからないけど、ニヤニヤしてる。
冬でもないのにこんなことすると思ってなかった。外でイチャつくの珍しい。

「春っぽくなってきたな」
「うん」

あ、チューリップだ。よくみるシュッとしたのじゃなくて、なんかひらひらしてる。かわいい。

「飯どーする?」
「メンチ!」
「あー、この間食いたいって言ってたもんな。どこで買う?」
「通りのお肉屋さん」
「じゃーサラダ買わないとな」
「大根サラダは?そろそろ大根危なくなりそう」
「だな。って、結局買うもんなくね?」
「そうだねぇ」
「ま、たまにはいいか」





(うま!このメンチうま!)
(さすがお肉屋さんだね)
(おー、メンチナメてたわ…)

2016/04/14