奇跡を起こして
「夜久さああああああああああああ!!」
「うをっ!お前なぁ、いい加減飛び付くのやめろよ」
「いーじゃーん!」
叫びながら、さも当然と言わんばかりに飛び付いてきたのは、夜久に言わせれば腐れ縁と言われる相手の六坂ちゃん。
「お前らさぁ、マジで付き合ってねーの?」
「あっはは!ないんだよねーこれが」
夜久よりもちっこいくせに、男子顔負けの運動神経。そのわりにどじっ子スキルをもて余している妹属性。リアル年下。
…まぁ俺はタイプじゃねえけど。こいつをもて余さずにいられるのは夜久くらいだろうよ。
「お前らなんだっけ、幼なじみ?」
「「腐れ縁」」
確認してもお互いこの答えである。
「仲良しか」
「仲良しだよ!」
「まぁ気付いたらくっついてきてたからなぁ」
「ウザいとか思わねぇの?」
「別に。つーかお前なんでウチのクラスまで来たんだよ」
「そうだった!夜久さんお誕生日おめでとう!」
「おー。ありがとな」
「でもね、プレゼントなにがいいかわかんなくて用意してない。ごめん」
しおらしくしてりゃあ、こいつもそれなりだとは思うけどなぁ…
「気にすんなって。覚えててくれるだけで充分だって」
はい。夜久はイケメンですね。
「夜久さああああああああああああん!」
「わかったから叫ぶな頭押し付けるな」
俺の存在を忘れてるのか無視してるのか。完全に2人の世界は完成型となっている。なにこれどんな拷問?ひたすらつらたん。見てるだけで暑い。冷房かけて。梟谷ならあるんだろうけど、あいにくうちにはない。言うだけ無駄ってやつだ。
…さて、そんなことはどうでもいい。ずっとこいつらを見てきた俺としては思うことがあるわけだ。
「なぁ」
「なに?」
「プレゼントないんだろ?」
「うん」
潔いな。六坂ちゃんのそのあっけらかんとしたところ、黒尾さん嫌いじゃねーよ。
「六坂ちゃんをプレゼントすりゃいいんじゃね?」
「黒尾ついに頭おかしくなったか?」
「あいにく正常です」
「なんでそうなったの?」
「六坂ちゃんは夜久が好き」
それがどんな形であれ。
「うん!」
「夜久も嫌いじゃないだろ?」
「そりゃあ」
まだ曖昧だとしても。
「ならちょうどいいんじゃね?」
俺が言いたいことがわかったのか。こいつはわかりやすく目を輝かせると、思っていたよりとんでもないことを口走った。
「夜久さん私をもらってください!」
しかもでかい声で。
いや。それどう聞いてもプロポー…
「しかたねぇなぁ」
夜久も受けるのかよ!
「返品は本日を含め14日以内にお願いします!」
「しないから安心しろ」
…え?これどんな流れ?ノリで言ったらまさかプロポーズ成功した系?え?なんなのこいつら。
「お前ら結婚するの?」
「まぁ約束はしてたよな」
「は?」
「いつだっけ?5歳?」
「とかだな。お前が引っ越す時」
「そーだっけ?」
は?ちょっとよくわかんねーんだけど。
「もう結婚できる歳になったのか」
「花嫁修行は完璧だよ!」
「おー、期待しとく」
「んひひー」
「え?腐れ縁ってやつは?」
「5歳で引っ越して高校で再会って言う腐れ縁」
「それ運命だろ」
「やだー!黒尾さんロマンチストなのー?」
「知らねーのか?男はみんなロマンチストなんだよ」
「キモい」
「やっくん辛辣」
「やっくん言うな」
しっかし…結婚、ねぇ…
「式には呼んでな」
「黒尾さんにスピーチやってもらう?」
「やだ」
「即答すんなよ」
「お前にやらせたらカオスになる」
「なんねーよ」
「深淵なる闇の彼方で出会ったなんとかとか言うんじゃねーの?」
「流石に言わねーよ!」
「それはそれで楽しそうでよくない?」
「絶対やだ」
「じゃあ黒尾さんクビ」
「おい。勝手に採用して勝手にクビにすんなよ」
「ああ!そうだ!」
「なんだよ」
「夜久さん!私が幸せにしてあげるからね!」
こいつ、ホンット…ずれてるよな。
「そりゃ俺のセリフだっつの」
だよな。
「俺が幸せにする方だろ?つーか2人で幸せになんだよ」
「夜久さん…」
「夜久…」
あ、ついでに言うと、ここ教室な。
よくこんな堂々とできるもんだ。
「かっこいいいいいいいいいいい!」
「だー!暑いからくっつくなっての!」
「いやー、今のはかっけーわ。惚れる」
「キモい」
「辛辣」
「夜久さんかっこいいよおおおおおおお!」
「落ち着けって」
ぎゅうぎゅう抱きつくのを暑いと言いつつ無理矢理は引き剥がさないんだから、なんだかんだ好きなんだろうな。
「…言われ慣れしてるよな」
「…そりゃ、再会してからさんざん言われてるからな」
「俺も女子にかっこいいって言われてー」
「頑張れ」
「冷たい」
あーくそ。
婚約者とは言わねーけど、せめて彼女ほしーよなぁ…