5日
講義をすべて終えて今日の内容を整理していると、ある意味で見慣れたお2人を見かけました。
終わりの時間一緒だったんですねぇ。いままでまったく気付きませんでした。
テキストばかりみてピントが合わなくなった目で眺めていると、月島くんと目があったように見えました。ピントが合ってないので確信は持てなかったのですが、山口くんに何やら話して、山口くんが手を振ってくれたので確信できました。
「六坂さんもこの時間までだったんだ」
大きいのに小型犬のような愛らしさを醸し出すとは、山口くんはいったいどうなっているのか疑問です。
「2人もこの時間で終わりなんだね」
「これからサークルだけどね」
「月島くん、サークル入ってるの?」
「バレーなんだけど、俺も一緒にやってるんだ」
なるほど。だから気分転換にバレーボールなんですね。
「始めてから長いの?」
「小学校からやってるから」
「へぇ!」
「ツッキーはすごいんだ!高校の時なんて」
「山口うるさい」
「ごめんツッキー」
山口くんが「ツッキー」を慕っていることは言葉の節々からわかってたけど、本人を前にしても「ツッキー自慢」をするとは…こいつは本物ですね。私よりもよっぽど月島くんのこと好きなんじゃないですか?
「六坂さんさ、」
「はいっ」
「…なんでそんないい返事?」
びっくりしたんですよ。月島くん、黙ってたのに急に話しかけるから。
「どしたのツッキー」
「この後暇なら見学でもしてみたらと思って」
「え」
「それいいね!」
いやいやいや。
「突然お邪魔したらご迷惑になるじゃないですか」
「普段から彼女連れてくる人とかいるし平気デショ」
「うん。バイトとか課題とかなければ行こうよ」
「でもバレーボールって室内競技だよね。私上履きとか持ってないけど」
「見学だけならいらないと思うよ?」
「流れ球だけ気を付けてればいいんじゃない」
え、なにそれこわい。
バレーボールがどんなものか、まだよくわかってないのに見に行っていいのか。だけどスポーツやってる月島くんは見たい。
こんな不純な気持ちで見ていいのかもわからなくて、返事になる言葉はどうにも口から出ませんでした。
「…やっぱり来づらい?」
「バレーボールがどんなものかもよくわかってないから、そんな人が見てもいいのかな、とか考えちゃって」
「そんなこと気にしなくていいよ!ね、ツッキー」
「無理して来なくてもいいけど、少しでも興味があるなら見に来たら。ウチのマネージャーもそんなこと言ってたし」
「へぇー」
「なにかを始めるには少しの興味があればいいんだって言ってた」
少しの興味…
「ツッキーいつの間にそんなこと聞いたの?」
「いや、新人勧誘するときに言ってた」
「そうだったんだ」
それが不純なものでも許されるのでしょうか?
「僕だって初めから好きだった訳じゃないし、山口もそうデショ」
「うん。始めた動機こそ違うけど、ツッキーがいたからずっとやってこれたし」
…カップルか。
「だから六坂さんも興味があったら見においでよ」
でも、やっぱり…
「上履きを用意してから伺います」
「別に気にしなくていいのに」
「いえ、そんなわけにはいきません!」
だって靴下だと滑るじゃないですか!そんな状態で流れ球を避けるとか絶対無理ですから!当たり屋もいいところになりますよ。
「まぁなんでもいいけど」
「じゃあいつ頃来れるかわかったら教えて」
「うん」
「また講義で」
「頑張って」
「ありがとうっ」
笑顔で答えてくれた山口くんに対し、月島くんはほとんど表情を変えることなく小さく会釈しただけでした。
否定、よくなかったですかね。自分が好きなものを嫌う人って、なんとなく相入れない感じしますもんね。でも私は嫌いとかじゃなくてタイミングを見計らっていたと言うか…
言い訳です。また逃げたんです。上履き持ってないのも事実ですけど、少し怖じ気づいたんです。いきなり月島くんとの距離が縮もうとしていることに不安を覚えただけです。
だからと言って千載一遇のチャンスをむやみやたらと投げ捨てるつもりもありませんけど。
まずは、上履きを買いにいきましょう。