8日
昨日は驚きました。
まさか私と山口くんが付き合ってるなんて噂が流れていようとは…そしてそれを月島くんが信じていたとは…
「咲菜おっはー」
「みっちゃぁーん!」
「どしたの?別れた?」
「やっぱり知ってた!私誰とも付き合ってないよー!」
みっちゃんが知らないわけないと思いました!知ってて教えてくれなかったんだ!私が否定するとわかってたから!
「やったね!一躍有名人だよ?」
「嬉しくなーい!」
おかげで月島くんが不機嫌っぽくなるし、代わる代わる聞かれて落ち着いて見学なんてできなかったし。せっかく見学に行ったのに。
「なんで噂のこと教えてくれなかったのー?」
「やっぱり彼氏だったんだーって思っただけだったから」
「違うんだよ!山口くんはお友達なんだよ!」
「なーんだ」
みっちゃんは話がわかる人なので、こういう時は助かります。私が本気で訴えればちゃんとわかってくれるので。
「咲菜の浮わついた話楽しみだったのになー」
「やめてよぉー」
1限はみっちゃんと同じなので、教室まで2人歩く。お昼は講義が違うのでまた別々ですけど。
「あ、ちょっと」
「なに?」
みっちゃんの指差す先には、山口くんと月島くん。相変わらず山口くんが話しかけて、月島くんがそれを聞いてる感じです。
「彼氏」
「違うってば!」
みっちゃん絶対面白がってる。私はおもしろくもなんともないのに!
私の声が聞こえたのか、前を歩くお2人に振り返られました。
「行くよ」
「え」
「おはようございまーす」
フラりと揺れる山口くんの手を確認すると、みっちゃんは私の手を取って山口くんと月島くんへダッシュしました。
みっちゃんの行動力を見習った方がいいんでしょうか?あと運動不足がたたって転びそうになりました。
「あ、はい。おはようございます」
「咲菜の友達の箕作美和子です」
「山口忠です。あの、六坂さん大丈夫?」
「お、おはよう山口くん、月島くん…」
「おはよう」
みっちゃんのコミュ力マジパネェです。
あとね、そう準備もなにもなくぐいぐいいかないであげてください。月島くんは社交的な人見知りなんですから。驚いて月島くん全く話さないじゃないですか。
「咲菜の彼氏さんですか?」
「違います」
「なぁんだ」
「だから違うって言ってるじゃん」
「だって彼氏できても咲菜は教えてくれなさそうだし」
「じゃあ教えるから」
「ホントにぃ?」
「彼氏ができたらね」
ほら、みっちゃんといつも一緒にいる人が向こうにいますよ。あれは彼氏なんですか?違うんですか?
「ヨシくんだー」
手を振る姿は彼女のようだけど、なんだか少し違うようにも見えます。
「私先に言ってるね」
「うん。後でね」
みっちゃんはいつもキラキラしてて、なんかこう、女の子だなぁと思いました。
いつか私も女の子っぽくなれるのでしょうか…
「いいの?」
「うん。あの人知らないし」
本当に誰なんだろう?
私が知らないだけなんだとも思いますけど、みっちゃんは謎多き女の子です。
「で?彼氏できる予定あるの?」
「うっ」
「ちょっとツッキー」
「ないのにあんなこと言ってよかったの?」
みっちゃんがいなくなったら途端に、月島くんの人見知りは解除されたようです。
聞かれて困ることでもないので構いませんが、なんとなく胸に刺さるものがあります。
「予定はありませんがそのうちできると思います」
「ふーん」
私だって年頃の女子なのでそう思い期待を込めて返事をしたのですが、月島くんはまったく興味なさそうです。
当然ですよね、月島くんに興味をもってもらえるとは微塵も思っていないので大丈夫です。
「そう言えばさ」
「んー?」
「バイトって前と同じところ?」
「うん」
「山口知ってたの?」
「ツッキー知ってるの?」
「この間聞いた」
「また俺がいないときの話?」
そう言えばそんな話をしたようなしなかったような…
「来る?」
「いいの?」
「2人なら大歓迎だよ」
「本当?また行きたいなーって思ってたんだ」
「なに?山口行ったことあるの?」
「うん。六坂さんに誘われて」
「ふーん」
おお、月島くんが食いついた。意外とさみしがりだったりするんですかね。仲間はずれはいやだー、みたいな。
まったくそんなタイプには見えませんけどね。
「ツッキーも行こうよっ」
「…別に行ってもいいけど」
来るんですね!意外とさみしがりの線が浮上しました!
「じゃあ後でシフト確認するね。2人の都合のいい日で入ってる日があったらサービスするよ」
「そんなこと気にしなくていいよ!」
「でもウチ安いわけじゃないし」
「いいの!」
でも、学生にはそれなりのお値段…女子は気にしないだろうけど、男子は高いと思う値段なんですよね。
「…あの、月島くん、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「いえ、なにか不思議そうというか、なんとも形容しがたい表情をしてらしたので」
「そうなの?」
訝しげと言うか不思議そうと言うか、とにかくなにか聞きたそうな感じだったのですが…
「聞いていいの?」
「私に答えられるものなら」
知らないことには答えられないのですが、そうでないならお答えしたいと思います。
「じゃあ聞くけど」
そう意気込んで返事をしたものの、質問は拍子抜けするようなものでした。
「連絡先交換してるの?」
「え?」
連絡先…?
「うん。学部一緒だからわかんないところ教えあったりとか…ね」
「うん」
講義が重なってたり、あとは多少違ってたとしても意見としてはかなり大切なのでよくやり取りはしてますけど…
これってそんなに重要なことですか?
「本当に付き合ってないの?」
「ないよ!」
「ないです!」
まだ疑うんですか!
たしかに月島くんとは交換する機会がなかったので連絡先なんて知りませんが、山口くんはお友達です!ディアフレンドです!
「ふーん」
月島くんちゃんとわかってくれてますか?大丈夫ですよね?
「…僕も教えて」
「え」
またもや予想していなかったお声をいただき、私の機能は瞬間冷凍されました。
「なに?嫌なの?」
「い!嫌じゃないです!」
すぐ回答する他ありませんけど。
嫌なわけないじゃないですか。奇跡的に月島くんとの連絡手段を手に入れることができるというのに、どうして断れるんですか。
「じゃあQRコード出して」
「あ、はい!」
アプリを開いて、滅多に使わない機能を開く。正直なところ、それすらもわからなくて正面から月島くんが覗き混んで教えてくれました。
あのですね、月島くんの顏が、すごく近いんです。私臭くないですよね?女子っぽい匂いしてますか?香水買うんだった!でも香水苦手な人いますし、かく言う私も苦手ですし!
「…ん。登録できた。そっちに出てきた?」
「え?はい」
画面の新しい友達の欄には、月島くんらしき表示。
現状に追い付けないまま画面を眺めていると、月島くんらしき表示に新着メッセージの表示がされました。
「スタンプ送ったけど、届いた?」
「あ、はい!」
携帯画面には…と、とかげ?怪獣?のスタンプ。イメージとは違って意外と可愛らしいものがお好きなようです。
あ、恐竜なんですね。
「そんなに見るものあった?」
「い、いえ!あ、えっと」
スタンプってあんまり持ってないけど、これなら大丈夫ですかね。
優しいタッチの、好きなクリエイターさんが作ったスタンプの中にちょうど「よろしく」があったのでそれを使ってみました。
学内ではマナーモードなのか音こそ鳴りませんが、月島くんの視線の動きで無事スタンプが届いたことはわかりました。
しかし、月島くんの動きが止まりました。ダメでしたか?手抜きとか思われましたか?
「ツッキーどうしたの?」
「見るな」
「ごめんツッキー」
私が慌てている間に、月島くんからスタンプ返ってきました。
どうやらダメではなかったようです。それにしてもこの恐竜かわいいんですけど。
「あ、時間!」
立ち止まって携帯を見てたからすっかり忘れてましたが、今は登校時間なんです。
急がないと遅刻の時間なんですけど!
「やば!ツッキー間に合う?」
「走ればなんとか」
ちゃんと運動をしている2人と違って、まったく運動をしない私が同じように動けるわけがありません。それでもなんとか走って教室に滑り込みました。
「ずいぶん話し込んだねー」
「こんなはずじゃなかったんだけど… 」
そう、こんなはずじゃなかったんです。月島くんの連絡先を入手する予定なんてまったくなかったんです。
え、なにがどうしてあれがこうしてこうなったんですか?誰か私に解説を。