12日
ほんの少しだけ、周囲の気配に気を配るようになって2日。ま、なにか起こることなんてそうそうないですよね。これまで思い込みの激しい方ではなかったつもりでしたが、いやはやお恥ずかしい。
このままなにも起きることなく、今日のバイトも終わってくれたらいいんですけど。
講義も終わり、さて携帯を確認しようと開くと、ポップアップが出たままでした。内容は、お昼を一緒に食べないかと言う内容。相手は山口くん。
別に誰かと一緒に食べる約束はしてなかったし、いいかな。私は了承のスタンプを送って、踊り出しそうな気持ちを落ち着かせながら廊下へ踏み出した。
「咲菜ー」
無邪気に私を呼ぶのはみっちゃん。
「今日ご飯いかなーい?」
「ごめん、タッチの差で誘われちゃった」
「ホント?」
「うん。声かけてくれたのにごめん」
スタンプに対しての返事だろう。続いて出たポップアップには、月島くんもいると言うことが書かれていた。
「いーよいーよ、気にすんなよぉ。そんなことより、相手だれ?」
「山口くん」
ウソでしょ?月島くん来るんですか?
でも山口くんいるところに月島くんありというか、月島くんいるところに山口くんありみたいなところはあるので違和感はないんですけど。でも待ってくださいよ。心の準備があるじゃないですか。
「あー、いつもの…やっぱり咲菜に気ぃあるんじゃなぁいー?」
「そんなことないよ、月島くんも来るみたいだし」
「…経済学部のイケメン?」
「たぶん」
と言うか、そうだと思う。他にいるならわかんないけど。
「じゃあイケメンくんの方かなぁ」
「それこそないでしょ」
「でも来るんでしょ?」
「山口くんがいるからでしょ」
「その山口くんを口実にしてんじゃなーい?」
「ないから」
そんなわけがない、ありえない。
みっちゃんったら本当にそういう話が好ききなんだから、困っちゃいますよね。
「戻ってきたら詳細教えてよね!」
「うん」
「タクちゃんは今度紹介するねー」
「じゃあまた」
今日はタクちゃんがいたんですか。他の人もいるんでしょうけど、前に紹介してくれたケンちゃんはどうなったんですか?もうごみぴっぴですか?それなりの覚悟を決めて向かわねばなりませんね。
今から向かうにも覚悟が必要なのに、どうしてこうも覚悟を決めないといけないことばかり起きるんですか。
再度携帯に呼ばれてみれば、山口くんが中で席を取ったと言うことをお知らせしてくれていました。
天気が悪いからか、ほとんどの人がここに集まっているのでしょう。かなり混みあってます。
私は座っていても頭1つ飛び抜ける金髪と黒髪の2人組を探すべくぐるりと見回しますが、これがなかなか見つからない。やっぱり座ってしまうと立ってる人よりは小さくなりますからね。
オロオロしながら人を探す私は、それは異様な存在だったのでしょう。なぜそう思ったかと申しますと、人混みにも関わらず誰にもぶつからなかったからです。おかげさまで安全にお2人を見つけましたし、見つけてもらうこともできました。
「お、お待たせしました」
「お疲れ。みんなすごい避けてくれてたね」
やはり目立っていたようです。外から見るとどんな風に見えていたのか気になるところです。
「私の顔がおかしかったのか、存在が不気味だったのか」
「なんでそうなるの」
「六坂さんが必死だったからだと思うよ?」
「そんな必死でした?」
「迷子の子どもみたいだなとは思ったよ。ね、ツッキー」
ま、迷子…そんな必死な顔をしてるつもりはなかったのですが、迷子と間違えられるくらいとは…
「え?私そんなに子どもっぽい?」
「そうじゃなくて」
「周りが勝手に心配してただけなんだから、気にしなくていいんじゃない」
それはそれで恥ずかしいので困るのですが、
「むしろぶつからなくてラッキーくらいに思っておいたら?」
月島くんがせっかくそう言ってくださるのならそういうことにしましょう。
「六坂さんは今日もお弁当?」
「うん」
お2人は先に買っていたのか、すでに定食があります。…前回も思いましたが、月島くんそんなにおっきいのにそれでごはん足りてるんですか?
ちなみに、私の今日のお弁当は鮭の塩焼きとホウレン草とウインナーのソテー、あとは玉子焼きとミニトマト。オマケできんぴら。ごはんは紫蘇ごはんです。
「弁当に鮭入れてくる人初めて見た」
「急に食べたくなっちゃって」
晩御飯に焼いて、少しだけ残しておいたんです。きんぴらや大根のお味噌汁といった副菜もあるので、少しくらい晩御飯のおかずが減っても問題なしです。
「玉子焼き、前も入ってたけど好きなの?」
「幼稚園の時、お弁当に入ってないと怒ったくらいには好きみたい」
まったく覚えてないんですけどね!帰って来るなりすごい怒るから、お母さんはかなりびっくりしたそうです。
「じゃなくて、今」
「ないと違和感覚えるくらいには好き」
「…そ」
玉子焼きが好きとか子どもっぽいですか?でも今更玉子焼きが入ってないお弁当とか考えられないんですけど。嫌いになんてなれないんですけど。
「玉子焼きと言えばさ、甘いとか色々あるけど何が一番好き?俺はだし巻きかなぁ」
「私甘いやつ!はじめて作ったやつは甘すぎって怒られた」
「どれだけいれたの?」
「わかんない」
「体に悪そうだね?大丈夫なの?医学部」
「失礼な!今では色々試行錯誤して味の幅ができたんだから」
月島くんの言いたいことはわかるけど、今もそんなことしてるわけないじゃないですか!そんなことしたらお砂糖の消費量がアホみたいになりますよ!
「今日のは?」
「甘いよ」
甘さは多少控えめにしてるけど、他の人には甘いんだろうなと思う。
お弁当を持ってくることで唯一困ることは、お味噌汁が飲めないことですね。タンブラーとかで持ってきてみましょうか。
「月島くんどうかしましたか?」
月島くんのオムライスを食べる手が完全に止まってました。デザートはたぶん牛乳プリン。それか杏仁豆腐でしょう。判断材料は色しかありません。
「ツッキーも玉子焼きは甘い方が好きだよね!」
「山口」
「へぇ、偶然だね」
「ツッキーはね、実はあ「山口うるさい」ごめんツッキー!」
…実は…?
え、気になるんですけど。
「気にしなくていいから」
「気になり…」
あ、あぶない。
直前で気付いたんですけど、私すごくないですか?
「なに今の」
「どうしたの?」
「月島くんによって敬語禁止令が出てるのにうっかり出そうになったから」
「2人でそんなことしてたんだ」
「僕だけ敬語使われるのも不愉快だったから」
「私はそんなこと気付いてなかったんだけどね」
「へぇ…」
「なに、山口」
「なんでもない」
私はほんの少しの疑問を残して、月島くんはなんとなく不機嫌になって、山口くんはどことなく嬉しそうにしながら食事を進めていきました。
「すごく気になるんだけど」
「ツッキーは気にしなくていいよ」