14日
「ツッキーおはよう!」
「おはよ」
「昨日大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなくなりそうだった」
「え!」
僕は昨日起きたことをそのまま山口に伝えた。危なかったことも、置いていかれたことも。だけど、六坂さんが泣いたことはなんとなく言えなかった。
「…でも、そっか。間に合ったんだ」
「ギリギリね」
もう少し遅かったらどうなっていたかわからない。もしかしたらすぐ逃げてくれなくて、僕もどうにかなっていたかもしれない。電話だけはポケットの中で用意していたけど、それを使うことにならなくて本当によかった。
「六坂さんっていつもあんなに遅いの?」
「基本は土曜日だけだって。他は頼まれたら残ったりって感じらしい」
「心配だよね」
世の中には変態が多い。人口の半分は変態と思っていいくらいには。
それなのに危機感もなく遅い時間にひとりでふらふら帰るってなに?昨日も少し話したけど、思い出したらムカついてきた。
「ツッキーが女の子の心配するなんて、谷地さん以外で初めてなんじゃない?」
「は?別に谷地さんも六坂さんも心配なんてしてないけど」
「そう?」
心配とかそう言うんじゃない。2人とも危機管理レベルが低すぎて気になるだけ。
「あ、六坂さーん!」
山口は目敏く六坂さんを見つけて手を振る。基本ひとりで行動してるように見えるけど、ぼっちなの?
「おはよー」
「おはよう。昨日大丈夫だった?」
山口はどうして僕に聞いたことをまた聞くの?バカなの?大丈夫じゃなかったら登校してないデショ。
「ちょっと危なかったけど月島くんがタイミング良く来てくれたから」
「は?ちょっとじゃないデショ」
「う…お、おはよう月島くん」
このタイミングで言うこと?なんなの?2人ともバカなの?
「…おはよう」
「かっこよかった?」
「月島くん?」
「そう!」
「おい山口」
またこいつはそう言うこと言って。
「ああヤバイなぁこれ死ぬかなぁって思ってたら、颯爽と月島くんが来てくれたんだよ」
「ホントに?!」
しかも六坂さんも普通に話すし。
「これはやるしかないと思ってね、傘準備してたんだけど、なんにもならなかったよ」
「は?」
「え、反撃するつもりだったの?」
「だって簡単に殺されちゃうわけにはいかないし」
「それで相手が逆上したらとか考えなかったの?」
「急所叩けばなんとかなるかも思って」
六坂さんはバカなんだ。そうじゃなきゃ僕には理解できない。
「あのね、女の子なんだからまず逃げることを考えないとダメだよ?」
「それ月島くんにも言われた」
「そうなの?」
なんだよ。こっち見るな。
「あとね、また遅くなるなら山口くんか月島くんに連絡すればって」
だからこっち見るな山口。
「うん。ツッキーみたいにかっこよく助けられないと思うけど、俺でよかったら助けにいくよ」
「でも遅くなると迷惑じゃない?実家だよね?」
「大丈夫!六坂さんが危ない目に遭うのを防ぐ方が大切だよ!ね、ツッキー!」
「…そうだね」
「時間とか気にしなくていいからねっサークルとかで遅くなることも良くあるから」
「じゃあ機会があったら連絡するね」
「遅くなるなら絶対だよ!」
「ふふ、うん」
なんなのホント。バカ2人の相手を、僕ひとりでできるわけがない。
「今日は大丈夫?」
「ラストではないよ」
「でも遅くなるなら教えてね。俺たち今日はサークルだし」
「そっか、今日水曜だっけ」
「うん」
「そんなんで大丈夫なの?」
「大丈夫。ありがとう月島くん」
六坂さんのへらりと笑った顔が、昨日の泣き顔とダブって見えた。
「じゃあ、私行くね」
「うん、また講義でね」
こうして後ろ姿を改めて見てみると、酷く細く見えて簡単に折れそうだなと思った。
こんなこと谷地さんにも清水先輩にも思ったことなかったのに。
「六坂さん、しっかりしてるよね」
「そう?」
「怖いことがあったなんて、言われないと気付かないよ」
「ふぅん」
全然しっかりなんてしてない。ボケッとしてるし、ひとりで深夜に歩く人のどこがしっかりしてるのか山口に聞きたい。聞いたところで僕が納得できる答えを出してくるかはわかんないけど。
僕は携帯を取り出すとメッセージを送った。
妙なところで真面目らしく、歩きながら携帯の確認をしているのは見たことがない。だから立ち止まるか、目的地に着いたら確認するだろう。
「誰に連絡してるの?」
「山口に関係ない」
「明くん?」
「違う」
「うーん、日向たちではないだろうしなぁ」
昨日もさっきも話した内容でくどいかもしれないけど、これでも足りないくらいだ。ここまでして連絡が来ないのもムカつくから、最後に「連絡しなかったら罰ゲーム」とつけてやった。
敬語の時も必死に気を付けてるみたいだし、これさえつけておけば大丈夫デショ。
実際、連絡が来ても来なくてもどっちでもいい。ほんの少しでも気を付けてくれるようになれば、それでいいんだ。