結ばれた赤い糸
ふとしたことで始まってしまった謎の会議。
そんなものに加わるつもりは全くないので、私はいつ連絡が来るかと携帯を見ていた。
「え!マジで?!」
「なんだよ、お前忘れてたのか?」
「忘れてた!」
今日がなんの日か、木兎は綺麗に忘れてたらしい。忘れてたのも木兎らしいし、忘れられたからって怒るような人でもないと思う。
「俺は朝コンビニで買ってきた」
「小見雑だな」
「覚えてただけいいだろー」
そもそも男子がプレゼント用意すると思ってなかったから、木兎以外の反応に驚いた。
去年やってなかったよね?帰りにファミレスで騒いで終わりだった気がする。
「俺としたことが…このままじゃ主将としてのメンツが…」
「今更じゃね?」
ほとんどの同級生は引退したけど、私達はまだしない。卒業ギリギリにある春高を勝ち抜くまで、引退はしないって決めた。
「いーの!猿は?なんか用意した?」
「してるよ?たいしたものじゃないけどね」
たかがマネージャー。選手と違って受験の足しにもならない。人によっては意味がないと、無駄なことだとすら思うだろう。
「木葉は?」
「前に欲しいっつってたやつ」
「マジかー!」
「そんなこと言ってた?」
「大分前だけどな」
だけど、私には意味がある。わからない人には一生わからなくてもいい。
「木葉ってなんだかんだマメだよな」
「何気なく言ったこととか覚えてるしね」
「気も利くしな」
「そんなことねぇよ」
「「彼女いねぇけど」」
「うるせえよ!最後落とすな!」
私だけが、意味をわかってればいい。
「俺だけなんにもない!」
「諦めろ」
「いやだ!」
「つってもなぁ、購買も開いてねぇし」
「六坂は?なんか用意してる?」
お?まさか飛び火すると思わなかった。
「かおりん達と一緒にねー」
「だよなー」
「女子って誕生日とかイベント好きだもんね」
「なに用意した?」
「ケーキ作った」
「マジか!」
「すげえ!」
「ずりー!俺も欲しい!」
木兎、アンタは今日の主役じゃないんだから我慢しなさい。
「やっぱ女子は違うよな」
「つーかケーキ作るのかよ」
「作ったって言ってもクリーム塗っただけだよ」
「そもそも作るって発想がヤバい」
「じゃあ今家庭科室とか?」
「うん」
かおりんからの連絡によると、無事ケーキを引き取れたらしい。
「いーなー」
「じゃあ木兎の時も用意してあげるから」
「やったー!」
「じゃないだろ」
「木兎どうすんだよ」
「ん〜〜…」
赤葦が足止めしてくれてるから、鷲尾はまだ戻らない。
ちなみに、今回は赤葦と尾長は欠席を希望した。尾長が鷲尾の誕生日知らなくて用意できなかったのが申し訳ないってへこんでた。赤葦は、たぶん用意してたんだろうけど、尾長と一緒にいようと思ったのかな。レギュメンで1人だけ参加しないのは寂しいだろうから。
「なんかいい案ない?」
「えー、私に振る?」
「六坂ならなんかいい案あると思って!」
「無茶振りじゃね?」
「ムチャじゃない!」
「それは六坂が決めることだからね」
まぁ木兎だけなんにも用意してないって、私だったら嫌だしなぁ…
「木兎」
「なに?」
「ここに余ったリボンがある」
「?」
絶対にやりたくないけど、こいつらならネタになるでしょ。
▽▽▽
「鷲尾ー誕生日おめでとー!」
「ありがとう」
第3体育館にテーブルを持ち込んで、ちょっとしたパーティーみたいにした。飾り付けなんてないけど、テーブルにケーキやお菓子があればそれっぽく見える。
「ケーキは咲菜と雪絵と作ったんだから心して食べてよね」
「それ俺らも食べていい?」
「みんなで食べた方がうまいだろ」
「お皿とかないからー、直接食べ進めることになるけどー…いい?」
「いいんじゃね?」
「ホントー?」
「え、マネちゃんも食べるの?」
「ダメなの?」
「そーじゃなくて、」
「今更でしょ」
「気にしなーい」
結局ケーキはみんなで食べるらしい。ゆっきーは試食もしてたのにまだ食べるのか。本当によく食べるなぁ。
「テーブルちょっと雑じゃねぇ?」
「あんた達の世話しながら用意したんだからこれで精一杯でした」
「あざーす」
文句を垂れる木葉は適当に黙らせて、騒ぎの中心となっている鷲尾を少し離れたところから眺める。いつもは赤葦と一緒の静かなグループにいるからか、なんとなく楽しそう。
この間迷子の子供に泣かれたらしいけど、プレゼントをもらってちょっと照れてる鷲尾はただの男子高校生だ。
「そう言えば木兎はどうしたんだ?」
一通りみんながプレゼントを渡したところで、木兎がいないことに気付いたらしい。
木兎が帰ったとは言ってないし、楽しいこと大好きな木兎がこう言うのに参加しない訳もない。それなのに見当たらなければそれは不思議だろう。
「木兎なら…」
言い切る前に鷲尾が誰かに抱きつかれた。言うまでもなくそれは木兎なんだけど。
「鷲尾…」
「木兎か」
「俺、鷲尾が誕生日だってこと忘れててさ、なんにも用意できなかったからさ、」
「気にすることじゃないだろ」
「俺がヤなの!」
なに、このカップルっぽい会話。
ネタ提供したのは私だけど、やめればよかったな。知らなかったかおりん達固まってるし。
「だから、鷲尾には俺をやる!」
木兎の微妙な言い方は、ちょっと恥ずかしかった結果らしい。ちょっとだけど顔が赤い。黒尾とさんざんアホやってるくせに、1人でやると恥ずかしくなるんだろう。わかるわかる、仲間がいないとアウェー感で辛いよね。
しかも木兎の頭はケーキのラッピングで余ったリボンでちんまり結ばれてる。正直に言うとかわいくはない。だってでかいんだもん。
いやーしかし、ちょっと赤くなってる辺りがリアルで気持ち悪いとか思ってごめんね。言わないから許して。
「…すまん、気持ちはありがたいんだけど、木兎はいらない」
「がーん!」
鷲尾が真顔で返してるのも面白い。
「あっははは!だよね!」
かおりん達も意味がわかったらしく、ようやくいつもの調子で笑い始めた。
「だよねとはなんだ!」
「木兎が家にいたらー、すごく困るー」
「なんでだよ?」
「「家でも学校でも木兎の世話しなきゃいけないとかヤだ」」
「ちょっと!ビブラートに包んで!」
「オブラートな」
「そうそれ!」
いつもの調子に戻ってくれてよかった。
「まぁせっかくそう言ってもらえたことだし、木兎はいらないけどこれはもらおうかな」
「えー」
なにをするのかと見ていると、鷲尾は木兎の頭からリボンをほどいて取った。そして、目があった。
「え?」
ほどいたリボンを手にして、鷲尾がするりと目の前に立った。
え、なにこれ。何が始まるの?お願いだからみんなちょっといつもの調子で騒いで。
「どうせもらうなら、俺は…」
左手を取られて、木兎の頭から取ったリボンが薬指に結び付けられる。
「木兎じゃなくて、六坂が欲しい」
パニックになるとはこういうことなんだろう。
鷲尾の向こう側から、悲鳴が上がる。ショックとかそう言うのではなくて、好奇の色が強いそれが、まさか自分に向かうことになるとは思わなかった。目があった鷲尾からは、ふざけてる感じなんて全くない。そもそもそういうことをするタイプではない。隣の木葉を見ると、真っ赤になった木葉と目があった。
「木葉と付き合ってるなら、諦める」
「付き合ってねーよ!」
「そうなのか?よく一緒にいるからもしかしたらと思っていたんだが」
「六坂なんかとは付き合ってない!」
木葉の言い方は引っ掛かるけど、木葉と付き合ってる事実はどこにもない。噂にすらなってない。
「だから安心しろ!」
「そうか」
ほっとした声につられて鷲尾を見てしまったのがいけなかった。至近距離に立った少し恥ずかしそうな鷲尾が、そこにいる。
「こんな形になったけど、六坂のことは本気で好きだから、考えて欲しい」
また悲鳴が聞こえた。かおりんとゆっきーがすごく楽しそうで、この後の不安しかない。
ああ、そんなことより。
人生初の告白がこんな目立つものになるだなんて、夢にも思ってなかった。