15日

昨日のバイトは大変でした。まひろさんと長濱さんに月島くんとの関係を問われ、月島さんとの関係を問われ、挙げ句兄弟で三角関係かと問われました。まさかカップルにこんな目に遭わされるとは思いもしませんでした。恐るべし新卒大学生長濱さん。まだ高校生並みのキャピり方ですよ。ちなみについ先日まで高校生だと思ってました。すみません。

結果だけ言うなら、状況を把握した久慈さん(物理的に強い女性副店長)が一緒に帰ってくれました。もちろん月島くんには連絡済みです。面白がった久慈さんと一緒に撮った写真までつけて。
それに対してのお返事は「あっそ」の1言でした。つっけんどんなお言葉を賜ってしまったと思ったのですが、久慈さんはなにやら楽しそうに笑っておられました。なにが面白かったのでしょうか?

「…これでいいかな」

後日きちんとしたものを用意するつもりではありますが、取り急ぎのお礼の品として私がコンビニで用意したものは以下の通り。
期間限定の栗のカルポと、お気に入りのいちごのカルポ。ピオテックの紫いもとカボチャのクッキー。ぷっぴょのぶどうとチュレグミ。
なんとなく取り揃えてみようと思ったのですが、この中にお好みのものはあるでしょうか…なかったらどうしましょう。その時はちゃんとしたものでお応えせねばなりませんね。

「あ、六坂さん」
「あれ?山口くん」

校内のすべてを把握しているわけではありませんが、医学部でこの方向から戻って来ると言うことは…

「薬理学だったの?」
「うん」

どうやら当たりのようです。

「六坂さんは今から?」
「そう」
「横文字ヤバイよ。全然わかんない」
「覚えるしかないもんね」

山口くんは見るからに疲れていました。
語呂合わせで覚える人も少なくないこの講義、精神的にきますよね。

「あ、そういえば」
「なに?」
「チョコとクッキーとグミだったらどれが好き?」
「え?うーん…クッキーかな」

クッキーか。
袋の中からクッキーをふたつ取り出して、山口くんに差し出しました。山口くんは訳がわからないと言いたげな顔をしながらも受け取ってくれました。

「じゃあこれ、あげる」

山口くんの手の中に収まったふたつの袋は、私が持つよりもずっと小さく見えました。

「え!もらえないよ!なんで?!」
「疲れたときには甘いものだよ?」
「それでもふたつももらえないよ!」

あ、確かに月島くんもクッキーがお好きでしたら困りますよね。

「じゃあどっちか好きな方選んで」

山口くんは少し悩んで紫いもを返してくれました。これは次の選択肢行きですね。
余ったら困るんですよね。ひとりだと、あんまりおかしを食べる機会がないので。

「どうしたの?そんなにおかし持って」

こんなにおかしを下げていたら誰でもそう思いますよね。テーブルに広げたらひとりおかしパーティーできますよ。

「この間はご迷惑をお掛けしてしまったので、そのお詫びにと思いまして」
「ツッキーに?」
「あと山口くんと月島さんにも」
「明くんはともかくなんで俺?」
「巡り巡ってご迷惑をお掛けしていると思いまして」
「そんなことないよ!気にしなくてよかったのに」

気になるものなんです。そして受け取ったからにはそのクッキーの返品は受け付けませんよ。
山口くんも私の言いたいことをわかってくれたようで、困ったようにお礼を言ってくれました。お礼を言うべきは私なのに。

「えっと、じゃあツッキーには会った?」
「いえ、まだ」
「じゃあもう少ししたらここ通るはずだよ。この先で講義があるはずだから」

さすが月島くん大好きなだけありますね。そこまで把握しているとは思いませんでした。

「おかしって他になにがあるの?」
「カルポのいちごと栗、ぷっぴょのぶどうとチュレグミ」
「ツッキーカルポ好きだよ」
「そうなんですか?」
「ツッキー甘いの好きだから」

へぇ…あんなにおっきいのに甘党…

「覚えとく」
「うん」

じゃあ、バームクーヘンとかケーキとか好きかな?でも甘さにもよるか。

「山口くんは?」
「え?」
「好き?」
「うん」
「そっか」
「君たちなに告白しあってるの?」
「え?」

山口くんにも甘いものが好きかどうかお伺いしていたとき、不機嫌そうな声が聞こえて振り返ると、いつの間にか月島くんが後ろにいました。

「山口くん、来ました」
「ね?」
「また勘違いされたいわけ?」
「でも今おかしの話…」
「主語ない」
「…なかった?」
「さぁ…」

月島くんは不機嫌だと言わなくてもわかるくらいに顔が歪んでました。

「なかったから。学習しなよ。また噂になるよ?」

それは困ります!いつもはそんなことないと思うのですが、気が抜けていたんですかね?
しかしそう言われてしまったからにはそうなのでしょう。これからは気を付けないといけませんね。

「で?今度はなんの話してたの?」
「…月島くん?」
「は?」
「ねぇ山口くん」
「うん。あ、ツッキーカルポ好きだよね?」
「別に嫌いじゃないけど」
「じゃあこれどうぞ」

私は手持ちの袋からカルポをふたつ取り出しました。チョコは総じて甘いものだけど、好みまではわかりませんので。

「なにこれ」
「この間ご迷惑お掛けしたのでそのお礼に。あ、後日きちんとしたものを用意しようとは思ってるけど」
「別にいらないけど」

は!どうしてベーシックな物を買わなかったのでしょうか!自分が好きなものと期間限定につられてしまってお渡しする方のことを考えていませんでした!

「すみません、私の好きなものを取り揃えたばかりに月島くんのご希望に添うことができず…」
「は?」
「六坂さん?」
「お好みのものを教えていただけましたら私買いに走りたいと思うのですが」
「いらない」

し、ショックです…いらない、いらないって言われました。しかも2回。ありがた迷惑と言うやつですか?1度ならず2度までもご迷惑お掛けして、私はいったいなにがしたいのかわからないですね。

「そんなことしたらパシりみたいデショ」
「で、では私はどうすれば」
「そう言うの、いらない」
「…では、これは…」

おかし、いっぱい…いらなくはないけど、どうしましょう?

「食べないの?」
「あまり」
「じゃあもらってあげる」

ひょいと私の手から浮いたのは、いちごのカルポ。

「わ、ありがとうございます!」
「これ、お礼だったんじゃないの?」
「そうでした。その節はありがとうございました。昨日もご心配おかけしまして」
「ちょっと!!」

はて、なにか言ったらいけないことでもありましたか?

「…別にいいけど…やば、時間!」
「え?あ!」
「俺間に合わない!」
「走れば間に合うかもだよ!」
「じゃ、じゃあまた!」
「月島くんもまた」
「うん」

こうしてお別れはばたついてしまいましたが、そんなことはたいした問題ではありません。いや、奇跡的に誰も遅刻しなかったから言えることなんですけどね?
私にとっては月島くんから送られてきた「罰ゲーム4回」の文字の方が大問題でした。