16日

罰ゲームはお昼ご飯と講義の時に実行されました。どれもかわいらしいものだったので全く構わなかったのですが、ひとつだけ困ったものかありました。

「え、名前…って」
「兄貴も僕も苗字だと、どっちのことかわかんなくなるデショ」
「あー、それはわかる」
「わかるの?」
「うん。たぶん明くんのことかなーって思いながら聞いたりしてる」
「そうなんだ…じゃあ、ケーくんと忠くん?」
「え!?」
「なんで山口も名前なの」
「だって山口くんだけ山口くんじゃ寂しいかなって」
「お、俺は今まで通りでいいよ!」
「そう?」
「うん!」
「あとさ、名前伸ばして呼ぶのやめてくれない?」
「うん。えっと、」
「けい。蛍って書いて、けい」
「が、がんばる…けいくん…」

月島くんをお名前を存じ上げなかったわけではありませんが、まさかまさか私なんかが呼んでいいとは思いもよらなかったのでずっと緊張しっぱなしです。
しかし、呼ばないと罰ゲームの対象らしいので頑張らないといけません。月島くんのことなのでまた新しい罰ゲームを考えてくるでしょう。こんな恥ずかしい罰ゲームよりパシりにされた方がよっぽど気持ちが楽です。

そんな月島くんへのお誕生日プレゼントをそろそろ本気で考えないといけないので、本日は駅までやって来ました。LaFtに来れば大概なんでも揃ってると思っていますので、とりあえず来てみただけです。

ですが、滅多に来ないのでどこになにがあるかわからないのでとりあえず歩いてみることにしました。スヌード?でしたっけ?わっかのマフラー。それと…なんか普段使いできそうなもの。詳しくは忘れましたけど、なにかいいものをプレゼントできて、それで喜んでいただけたらいいなぁと思います。

「さっきからスッゴい悩んでるみたいだけど大丈夫?」
「あ、はい」

咄嗟に返事をしてしまいましたが、これが私に対したものでなかったらとても恥ずかしいことになっていました。
声のした方を見ると、ピンクっぽい頭の人がいました。長さ的には月島くんくらい。だけどクセがつきにくいのか本人の気質なのか、雰囲気は全く違います。

声をかけてくれたと言うことは、きっと店員さんなのでしょう。なら、少し相談させていただいても問題はありませんよね?

「お友達へのプレゼントを選んでいるのですが、なかなか決まらなくて」
「へぇー。友達ってことは同級生?」
「はい」
「異性へのプレゼントって悩むよねぇ」
「そうなんですよ」
「どんな人?」
「ええっと、背が高くて細くて綺麗な人ですね」
「男だよね?」
「はい」
「あー、じゃあ俺よりデカい?」

そう言うとお兄さんは、少し屈んでくれていたのかピッと背を伸ばして私を見下ろしてきました。
あまり近くで月島くんのことをまじまじと見たことがないので正確ではありませんが、たぶんこの人、山口くんと同じくらいだろうなと思います。

「…そ、うですね」
「ずいぶんデカいね。スポーツやってるの?」
「バレーボールやってるって言ってました」
「ナルホド。そりゃあデカいわ」

お兄さんは納得すると悩み始めてしまいました。
他人のことなのにそんな真剣に悩まなくていいと思うんですけど。この間助けてくれた方に続きこの方もいい人ですか。世界が優しい。

「よし。こっちオイデ。いーの知ってんだ」

お兄さんに呼ばれるがままにお店の奥へと進みます。私だけでは少し入りづらかったそこは、男性向けの小物が置かれた棚。お兄さんは私が置いていかれない程度の距離を保ちながら進んでくれます。

「この辺りとかどう?」

パスケースや万年筆があるそこは、少し大人っぽい感じこそしますが月島くんによく似合うようにも思います。

「お兄さんはどんなのが好きですか?」
「えー?うーん、パスケースで言うなら無地がいいかな。他はあんまり考えたことってないな」
「じゃあ、もらって嬉しかったのはなんですか?」
「俺?」
「はい」
「やっぱ好きなもんもらうと嬉しいよな。あとはスッゲー考えてくれたんだなって思うもの」
「どんなのですか?」
「俺が1回だけ言ったことを覚えててくれて、それをプレゼントしてくれるとか?」

月島くんが欲しいもの…好きなものすらまともに知らない私には、少し難しいのかもしれません。

「あと、シュークリーム作ろうとしてうまく作れなくて、泣きそうになりながら謝ってきたのは可愛かった」
「彼女さんですか?」
「そ。要するにさ、ありきたりではあるけど、プレゼントって物より気持ちだと思うんだよね。どんなに高くて良いものでも嫌いなやつにもらうのは嬉しくないし、どんなに安物でも好きな人からもらうならなにより価値がある」

お兄さんが言うこともわからなくない。月島くんからなにかもらったら、例えそれが10円程の価値のないものだとしても私は喜ぶことでしょう。

「おねーさんならわかるんじゃない?」
「はい。お答え頂きありがとうございました」
「いーえ。じゃー俺行くね」
「本当にありがとうございました」
「いいの見つかるといーね」

ひらりと手を振ってお兄さんは携帯を片手に入り口へ向かって行きました。
あら?もしや店員さんではなかったのかしらと思い少し目で追っていると、お知り合いらしき方にどつかれながらお店から離れていきました。

…ええ、店員さんではなかったようです。見ず知らずの方にお世話になってしまいました。もちろんお名前すら存じ上げない状態のためもうどうにもできません。

せめて、お兄さんの期待を裏切らないように頑張りたいと思います。