18日
雨の日というのは、どうしても人の足が遠退きがちになります。傘を持つことにより荷物が最初からひとつ増えてしまう状況なので、私も雨の日の買い物は極力避けています。ですが店に立っていると客足が遠退いてしまうことはとても困ることです。
あいにく当店では雨で客足が遠退いたくらい、痛くも痒くもないんですけどね。
「六坂さん、昨日は彼のお迎えですか?」
「うん。店長が気を利かせてくれてはや上がりになったんだけど、危ないからって」
「いーなぁー」
まひろさんが言う「彼」とは月島くんのことです。ただのお友達だと言ってもなかなか直らないのでもういいかと諦めました。月島くんの名前を知らないからそうなったのかもしれませんね。
「まひろさんもいつも長濱さんと帰ってますよね?」
「それは一緒に働いてるからですよ。わざわざお迎えとか羨ましすぎです」
それはかなり気にしているところでもあります。自宅で就寝直前でもおかしくない、そんな時に連絡しても月島くんはほとんど同じくらいの時間をかけて迎えに来てくれるのです。きっと寝る準備をしないで待っていてくれてるのかと思うと申し訳なくなります。
「愛されてますよねぇ」
「いやいや」
否定は一応するものの、月島くんがどうしてここまでしてくれるのかはわからないままです。
メリットなんてひとつもない、デメリットの塊みたいなことをなぜしてくれるのか。聞きたい気持ちもありますけど、聞かない方がいいんだろうなと言う気持ちもあり、直接聞くなんてことは出来ず仕舞い。
「聖美も免許取らないかなぁ」
「まだなんでしたっけ?」
「取るって言うのは聞いたんですけどね」
車ないと不便ですよね。私は免許持ってませんけど。
それがいけないんですよね。免許あれば車で来れるから安全性が上がるんでしょうか?でも駐車場借りたりとかめんどくさい…
山口くんに聞いたら、月島くんのこの不可解な行動の理由がわかったりしますかね。上がったら連絡してみましょう。
残業することなく上がり、山口くんにメッセージを飛ばしました。まだ夕方なのでもしかしたらバレーボールをしている頃かもしれません。なので時間を気にしなくてもいいと言う意味も込めて、極軽く聞いてみました。
返事を待つ間、着替えてちょっと休憩して、それから暗くなる前にさっさと帰ることにしましょう。ポケットに携帯が入っていることを確認して、通用口を潜り抜けました。
晩御飯はどうしましょうか。角煮作りたい。そうなるとブロックが必要なので買い物に行かないと…小さめで買っていきますか。
「兄ちゃん早く!」
「待ってって!急がなくても大丈夫だから!」
「なくなっちゃうかもしれないじゃん!」
「なくなんないかもだろ?」
「兄ちゃんがずーっと練習やめないのが原因なんだからねっ」
「それはごめんっ」
歳が離れているからか、とても仲がいいんだなと思いました。怒っているのに楽しそうな妹さんと、普通に困っているお兄さん。私よりも少し年下ですかね。仲良きことは美しきかな。なんだか見ているだけで幸せな気持ちになりますね。
今日は角煮を作って、明日のお弁当は焼き飯にしましょう。そうと決まったら春巻きと焼売も買わなきゃ。お昼みっちゃんと食べられるかなぁ。
そんなことを考えながらブロック肉を籠に放り込んだとき、山口くんから「聞きたいことってなに?」とメッセージの通知がありました。私は忘れていた牛乳を取りに戻りながら、素直に月島くんのことを尋ねました。
そうしたら、電話がかかってきました。
『え!六坂さんそれってホントに?!』
「はい、本当ですよ?」
月島くんもそうですけど、みんなすぐ電話してきますね。これからは私も電話した方がいいですかね。
『そもそもツッキー免許持ってたの!?』
「あ、知らなかったんですね」
意外でした。月島くんのことで山口くんも知らないことがあったとは。
『免許取るのめんどくさいとか言ってたから、まだ取らないもんだとばっかり思ってた』
「いつ取ったんですかね」
『わかんない…それに、六坂さんのことを迎えに行ってることも知らなかった』
「意外と月島くんは山口くんにお話ししてないんだね」
『うん。ツッキー、自分のことはあんまり話さないから』
そう言う山口くんは、なんとなく寂しそうに感じました。
私が相談したことによりお2人の友情に亀裂を生むことになったらどうしましょう!私ごときの存在で壊れるようなちゃちな友情ではないと思いますが、億が一がないとも限りません。そうなったら私は…
「腹かっさばいて死んで詫びるしか…」
『なにいきなり不吉なこと言ってるの?!やめてよそんなこと!』
「じゃあやらない」
『てゆーかなんでいきなり時代劇?怖いから!』
「ごめん。でも山口くんと月島くんが不仲になってしまったら私が武士道を重んじて切腹を」
『六坂さんは武士じゃないでしょ!』
そうでした。
『別に俺だってツッキーの全部がわかるわけじゃないから、今回のことを知らなくてもおかしくないんだよ』
「そうなんだ」
あ、ミートボール安い。
これ、もしかしなくても作れますよね。今度作ってみましょうか。
『そうなの。俺がびっくりしたのは、ツッキーが六坂さんのこと迎えに行ってるってとこ』
「それなんですよ。月島くんにそんなことされるほど仲良くないし、なにかしてあげた覚えも…もしや、臓器売買の為に」
『ないから』
「じゃあなんで?全然わかんない」
『推測になるからあんまり言えないけど、ツッキーは無駄だと思うことはやらないよ』
なんとなくわかります。何事も無駄なく効率よくこなしていくイメージ。
『だから、ツッキーにとってそれが無駄なことじゃないってことだけはわかるよ』
「明らかにデメリットしかないのに?」
『ツッキーにはメリットがあるんだよ』
よくわかりません。
『直接聞いてみたら?』
「そんなの無理だよぉ。あの高さから不機嫌な顔されたら怖い」
『わからなくもないけど』
美人さんは怒ると怖いのです。
『今回のことはツッキーが言い出したんだから、深く考えないで甘えていいんじゃない?』
「うーん」
『大丈夫!ツッキーは六坂さんが嫌がることは絶対にしないし、自分が嫌なこともしないよ!』
山口くんがそう言うならきっとそうなんでしょう。
「ごめんね、急に相談なんてして」
『全然大丈夫!むしろ俺の方がなんにも考えないで電話しちゃったし大丈夫だった?』
「うん。おかげで次はミートボールを作ってみようと思ったよ」
『それは良かったのかな…?』
「うん。ありがとう」
『どういたしまして。じゃあ、また学校で』
「また」
腑に落ちない部分ばかりですが、私が気にしても仕方がないことは事実。そして助かっていることも事実。山口くんの言うことを信じる他に道はないのでしょう。