21日

昨日は散々だった。

黒尾さんと木兎さんからやたらメッセージが飛んでくるから煩かった。しかもその内容が木兎さんが誕生日だから祝えとかワケわかんないこと。自分から主張するってなんだよ。子供?黒尾さんまでワケわかんないメッセージ飛ばしてくるから通知が異常な数になったし。赤葦さんが黙らせてくれたみたいで午後は比較的静かだったけど。それでもいつもの倍は通知が来てた。

それともうひとつ。
珍しく山口が先に帰ったなと思った。僕だって四六時中山口といるわけじゃないから、山口が先に帰ってもいいんだけど、そのあと。六坂さんと帰ったって聞いた。
別に山口がいつ誰と帰ろうがどうでもいいけど、なんとなくムカついた。山口が誰と何をしようが関係ない。それは六坂さんに対しても言えること。なのに、間違いなくムカついてる。昨日の夜、黒尾さんにも指摘されてよけいムカついた。

「…クソ、」

なんで僕がこんなイラつかないといけないのさ。それこそ意味わかんない。

「あ!っと、蛍くん!」

僕を名前で呼ぶ女子なんてひとりしかいない。いつもならむず痒いその声も、今はイラついて仕方ない。

「なに」
「校内で会うの珍しいから声かけたんだけど、ダメだった?」

谷地さんほど小さくはないけど、僕よりもずっと小さい六坂さんが近付くと、どうしても見上げられる。

「別にダメじゃないけど」

ほんの少しイラつきが収まったような気がしたけど、山口に対しても全く同じなんだろうなと思ったら、やっぱりムカついた。

「わざわざ声かけなくてもいいデショ」
「無視するのは違うかなーと思って」

へらりと笑って隣に並ぶ六坂さんは無防備極まりない。女子って警戒心強い生き物なんじゃないの?なんで平然と微妙な距離にいるの?

「毎日天気がぐずついて嫌になるよねぇ。湿度高くて髪広がっちゃう」
「ふーん」
「雨降ると傘邪魔じゃない?」
「靴濡れるしね」
「蛍くん嫌がると思った」

でも、話してるとイラついてたことも疑問も、全部どうでもよくなる。いつもなら面倒だと思うことも面倒じゃなくなる。ほんの少し、面倒な事が嬉しくなる。
これがなんなのか、わからないほどバカなつもりはない。認めるかどうかは別として。

「校内も滑りやすくなるから気を付けないとだよね」
「気を付けなくても平気じゃない?」
「え、滑るよ?」
「僕は滑らない」
「えー。私この間滑ったんで、けど」
「今」
「今のはノーカン!止めましたもん!」
「まぁいいけど、今言ったよ」
「…え?」
「明後日が楽しみだなー」
「うそっ言ってないよ!」
「言ってた」

こんなくだらない時間が楽しくて仕方ない。
認めるしかないところまできてる気はしてる。だけど認めてやらない。確証もないのにこんなの認めたらカッコ悪いし。

「絶対言ってないのにー…」
「なんなら今度から録音しとく?そうすればわかりやすいデショ?」

なかなかいい案かもしれない。

「それはそれでなんかやだ…」

だけど、普通嫌がるよね。勝手に録音なんてされたら気持ち悪い。

「でも正確なジャッジはほしい…」

と思うだろうに、どうして六坂さんは予想の斜め上にいくのかな。

「僕が信用ないってこと?」
「そうじゃないよ!」
「あーあ、僕って信用ないんだなぁ」
「そんなことないから!大丈夫だから!」
「なにがどう大丈夫なの?」

山口に聞くのと同じ感覚で聞いてしまったのが間違いだった。

「えっと、月島くんは嘘つかないってこと?あと優しくて気配りができて何事もスマートにこなして一見クールに見えるけど実は熱いハートを持ってて普段からかっこいいけど運転してるときはいつもより割り増しでかっこよくて」
「もういいから黙って」

六坂さんの口からは聞くに耐えない言葉ばかり飛び出してくる。
なんなの?なんでそんな恥ずかしいことぽんぽん言えるわけ?山口と同類なの?

「六坂さんやっぱりバカデショ?」
「バカじゃないよ。円周率20桁言えるよ」
「やっぱりバカ」
「なんでー」

類は友を呼ぶって言うけど、六坂さんと山口はよく似てるのかもしれない。
僕は2人と少しも似てないけどね。

「あと名前」
「ぅあ!ごめん蛍くん!」
「…山口みたいなのりやめてくれる?」
「あの「ごめんツッキー」ってやつ、テンポよくて私好きだけど」
「絶対やめて」

他の誰に呼ばれても諦めた呼び方だけど、六坂さんだけはやだ。少しも納得なんてできないけど、六坂さんには名前で呼んでほしい、なんて思ってしまった。悔しすぎる。
この気持ちがなんなのか。わかってはいるけど、明確な名前をつけるのはもう少しだけ後にしようと思う。