22日
昨日の夕方辺りから、つ、蛍くんからメッセージが頻繁に届くようになりました。前々から多少ありましたが、より増えた、と言いましょうか。
内容としましては、なんてことないメッセージがすごく多いです。講義が眠いとか、講師のバーコードが乱れてるとか。たまに写真が送られてくる時もあります。野良猫とかクジラみたいな雲とか。写真の雰囲気を見ると、蛍くんの感性には少年のような部分が見え隠れしているように思います。
だって雲を見てなにかに似てるなんてもう思わなくなりましたもの。大人になるってことは、隠れた楽しみを発見できなくなることなんだなと思いました。だけど、月島くんとお話していると童心にかえって小さな楽しみを見つけられる気がします。
しかし…この犬と言われて送られてきたこの雲は…どう見たらそう見えるのか…無難な返事は返しましたが、わからないのはとても困ります。とりあえず山口くんに確認したいと思いました。
ここのところ天気も良くないのに、いつのまにこんな写真を取ったんでしょうか?
「最近よく携帯見てるじゃん」
「うん、無視するのも悪いから」
「と言うことは連絡が来るってことね」
今日はみっちゃんと2人でお昼です。2人でお昼なんて本当に久しぶりなので楽しみにしていたのですが、今日はやたらと通知が来るんです。
「誰?」
「んー、月島くん」
「ってこの間のイケメン?」
「ん」
隠す必要もないので答えましたが、それがいけなかったんでしょう。
「なにそれ!教えてって言ったじゃん!」
「なにが?!」
みっちゃんのテンションが急上昇です。
「彼氏できたら教えてって言ったのにぃー」
「別に付き合ってないよ?」
「…そうなの?」
「うん」
「でも連絡来るんでしょ?」
「うん」
「脈しかないじゃん!」
そんなこともないと思う。
「だってなんてことない話だよ?バーコードがご乱心あそばしてるとか」
「話のネタじゃんそんなの。ネタとしてはかなり酷いけど」
脈アリにバーコードネタは振らないと思う。
「なにそれー。咲菜があのイケメンに狙われるとかー」
「みっちゃん、言い方言い方」
「事実じゃーん。イケメンに言い寄られてみたいー」
かれぴっぴだか彼ぴぴだかわかんないけど、そんな感じの人がたくさんいるのに何を言うか。充分過ぎるほどにモテてるじゃないですか。
ですが、みっちゃんに言われて初めて気付きましたが、私の現状は言い寄られてると取られておかしくない状態ではあるんですね。今だかつてないモテ期って奴ですね。別にモテモテって訳ではありませんけど。
あれ?でもそれってなんだか…
「なにぃ?咲菜ったら今初めて自覚した?」
「え!?」
「顔赤いよー?」
「そ!そんなことは!」
「あるよー。もしも付き合うことになったら教えてね」
「う、うん…」
もしもそんなことになったら、嬉しいやら恥ずかしいやらでどうにかなってしまいそうです。いや、どうにかなるに違いありません。と言うか、既にどうにかなりそうです。
「あっはは!まだチョー脈アリって事しかわかんないんだから今からテンパらなくていいんじゃない?」
「みっちゃんが変なこと言うから!」
「思ったことを言っただけだもーん」
でも、いい方にばっかり考えてダメだったら嫌だから、やめた方がいいでしょう。
「でもね、チャラが相手だったらこんなこと言わないよ。あのイケメン、ちゃんとしてそうだったから言うんだよ」
そう言うみっちゃんの目は、けしてふざけてなんかいません。
「私は遊びって割りきってるから相手の遊びにも付き合えるけど、咲菜はそんなタイプじゃないでしょ?」
「うん」
「だから言うんだよ。あの人ならきっと咲菜に合う」
みっちゃんがこんなことを言うのは初めてで、戸惑いました。あまりに真剣すぎて、よく分からない。
「まーこんなこといっても信用ないかぁ。私がチャラいからなぁ」
「そんなことないよ」
そんなことない。
「びっくりしたけど、みっちゃんが真面目なのは知ってるから」
「私みたいなのが真面目なら咲菜はクソ真面目になるじゃない。私なんてチャラでじゅーぶん」
これがみっちゃんなりの処世術ってことはわかってます。頭が固い私にはなかなかできない生き方。ちょっとだけうらやましいです。
「ねぇ、送られてくるやつに写メないの?」
「あるよ」
「見してー」
とりあえずすぐに開いたのは野良猫の画像。
「あの人猫派なの?意外」
「なんで?」
「なんか犬派っぽいなーと思ってたから」
「確かに犬飼ってそう。レトリバーとか」
「前から思ってたけど、咲菜ってイメージ片寄りすぎじゃない?」
「そう?」
月島くんには大型犬がいいと思うんですよね。だってあんなにおっきいのに小型犬抱えたら、ミニマム犬に見えるんじゃないですか?大型犬すら中型に見えると思います。
「でもこの猫かわいー」
「だよね。小さそうだし仔猫かなぁ」
「ちょっと咲菜に似てない?」
「えー?それはないよ」
「面白いのないの?」
「よくわかんないのならあるけど」
「なになに」
私は例の画像を引き出しました。
あれです。どう見たら犬に見えるのかわからないあの画像です。
「これなんだけど」
「…なにがわかんないの?」
みっちゃんの疑問に疑問符が飛びました。
「え、みっちゃんわかる?」
「犬だよね?」
みっちゃんの回答に、更に疑問符が飛びました。飛ばすしかありません。何故わかったんですか?
「わかりやすいじゃん」
「え、どのへん?」
「ここ。こうして見ると…」
みっちゃんに説明されましたが、うすらぼんやりとなんとなく犬に見えなくもないなーと言った程度にしかわかりません。
「みっちゃんすごい」
「普通だよ」
みっちゃんと月島くんの感性がほとんど同じと言う可能性が出て参りました。
本当にどうしてこれが犬に見えたのか。説明されてもなかなかわからないまま、私は次の講義に向かいました。
…本当、どうしたら犬になったんですか?