26日

講義を受けている間、蛍くんから連絡がきました。内容としては、お昼どうせひとりなら来れば?なんてものでした。
蛍くんの言うとおり、今日はどこで食べようかなーなんて考えていたので、それほど悩むことなく了承の返事をさせていただきました。

ここ数日蛍くんと一緒にいる機会がすごく多いのですが、少し不安にもなります。ああ言ってはくれたものの、やはり負担になっているのではないかと。
そんなこと聞こうものなら蛍くんのドライアイス並みに冷たい視線と「しつこい」の一言が飛んできそうなので、あえて聞いたりしませんけど。

携帯を確認すると「学食」とだけ送られていたので、きっと学食にいるのでしょう。いつまでもお待たせするわけにもいかないので、テキストを手早くまとめて学食へ向かおうとしましたが…

「咲菜」
「みっちゃん、どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…いい?」

みっちゃんに呼び止められました。なんだかみっちゃんの様子がいつもと違います。ちょっと怖いです。

「お昼誘われちゃってるから、あんまり時間ないけど」
「それ、一緒してもいい?」
「私はいいけど…一応聞いてみる」

みっちゃんもご一緒して構わないか聞いて見ると「山口もいるからいいんじゃないの」なんて少しなげやりな返事が返ってきました。
ひとまず了承はいただけたと言うことでいいんですかね…?

「たぶん大丈夫そう」
「イケメン?」
「え?ああ、うん。蛍くん。山口くんもいるみたいだよ」
「ふーん」

みっちゃんの機嫌は悪いまま。なんでそんなに機嫌悪いんですか?あ!

「あの、まだ彼氏いませんよ?」
「そこは信じてる。でも事件を耳にした」

…あの件ですよね。
この分だと学校に広まってる可能性もありますね。いや、情報が速いみっちゃんだから知ってるのかもしれませんけど、どこでどう広まるかわからないですからね。みんな知ってる覚悟はしておきましょう。
そのわりになにも言われませんでしたが。

「お腹すいたし、早く行こ」
「うん」

みっちゃんと並んで学食に行くのは久し振りです。みっちゃんは人脈が広いのでいつもどこで食べているのやら。

学食に着くと、比較的すぐにお2人を見つけられました。

「学食買ってくるから、ちょっと待ってて」
「あれ?いつも持ってきてなかった?」
「今日2日目で1番食べる日なの」
「そっか」

みっちゃんが学食を買う間、メッセージを飛ばすと蛍くんと山口くんも交代で並ぶことにしたらしく、蛍くんが席を立ったのが見えました。

その少し後、みっちゃんが学食を手に戻ってきました。A定の麻婆豆腐(大盛り)とデザートのプリンが乗ってます…食べ合わせ…


「あれ?1人減った?」
「学食並ぶって」
「ふーん」

みっちゃんの不機嫌具合がマジパないです。そんなみっちゃんに食べ合わせのことなんて言えませんでした。

完全に込み合う前のテーブルの隙間を縫って1人で待つ山口くんの元へ。山口くんも不穏な空気を感じ取ったようで、表情がひきつりました。

「おつかれ」
「山口くんもおつかれ様」
「えっと、箕作さんも」
「名前知ってたんだ」
「同じ学科だし、この間教えてもらったし」
「あっそ」

どうしたらみっちゃんが元に戻るのかまったくわからないんですけど。

「山口くんも学食もらってきたら?」
「そ、そうするね!ちょっと待ってて!」

このまま山口くんを睨み続けるみっちゃんを諌めることもできないので、ひとまず山口くんを離脱させました。

「ねぇみっちゃん、どうしたの?」
「事件に関与していると噂のイケメンから事情聴取をしようと思ってる」

やっぱり確実に知ってますね。

「そして咲菜とデートした事実確認を2人にとる」
「してないから!」
「ネタは上がってんのよ」

うう、みっちゃん怖い。

「付き合ってないってことは信じる。だけど、デートは認められない」
「それ、本当に私?」
「ネタは上がってる。先週の火曜はあいつと、昨日はイケメンと買い物してたって聞いてる」

みっちゃん、その言い方は山口くんに失礼ですよ。
たぶん、山口くんとは、蛍くんのお誕生日プレゼントを買いに行った時のことでしょう。蛍くんとは、じゃがいもその他いろいろを買いに行ったときのことでしょう。
誰に見られたんですかね?蛍くんはどうでもいいみたいな言い方してましたけど、すごく大変なことになったじゃないですか。

あと、どっちもデートじゃない。

「咲菜話してくれる?」
「う、うん…」
「でも咲菜はあいつらの不利にならないように話すでしょ?」
「そんなことは」
「あるよね」

ない、と思うんですけど…うう、どうしたらいいんですか?

「なに威嚇してるの?君六坂さんの友達じゃないの?」
「け、蛍くんっ」

助けがきました!いや、この場合生け贄になるのかもしれません!

「けーくん?」
「気安く名前で呼ばないでくれない?」
「あっそ」

蛍くんは私の正面に座りました。
あれ?そこさっき山口くんが…いいのかな?

「みっちゃん、月島くんだよ」
「ふーん」

みっちゃんは蛍くんを睨みっぱなしです。蛍くんも睨み返してます。蛍くんの方が上から見下ろしてるのに、負けることなく睨み続けてるみっちゃんがすごいです。

そもそもなんでこんなに険悪なんですかー!

「まぁなんでもいいけど」
「じゃあこっち見ないでくれる?」
「話があるので無理でーす」
「ウッザ」

言い合いをしながらもみっちゃんは鞄からお弁当や菓子パン、お菓子などを次々出しています。
…そんなに食べるの?

「あ、あの…」
「なに?」

食べる量については聞けません。そんな怖いことできません。それに今日は食べる日だって言ってましたから。

「みっちゃんはなにがそんなに気になるんですか?」
「そんなの、どっちが咲菜のこと好きなのかってことをはっきりさせたいのよ」
「ふあっ!?」

いきなり何を言い出すんですか!?

「別にどっちもでもいいんだけどね」
「ちょちょちょちょ!待ってみっちゃん!意味わかんない!!」

飛躍しすぎてわかんない!

「どうしたの?」
「おかえり山口」
「揃ったわね。じゃあ始めるわよ」
「うん。でも食べながらにしようね」
「そうね」

なんとかみっちゃんにスプーンを持たせることに成功しました。このまま忘れてくれるのが1番いいんですけど、そんな子供みたいなこと起きるわけがありません。

「で、聞きたいんだけど」
「何を聞きたいの?」
「2人は咲菜のこと好きなの?」
「みっちゃん!!」

やめてよ恥ずかしい!

「だってデートしてんだからそうでしょ?」
「え!俺そんな覚え」
「あるデショ。20日」
「ほら!こっちも知ってるみたいだし」
「ああ!あの日のことか!」
「だからみっちゃん違うんだってー!」
「そうなの?」
「私の買い物に付き合ってもらっただけなの」
「俺の買い物にも付き合ってもらっちゃったけどね」
「デートじゃん!」
「違うから!」

もー。どうしたらいいんですかー?

「あとあんた」
「なに」
「昨日なにしてたのよ」
「六坂さんと買い物してたよ」
「なに買ったのよ」
「じゃがいもとかぼちゃと牛乳」

なっなんでそんな素直に!

「まさかとは思うけど、咲菜に手ぇ出してないでしょうね…?」
「は?僕がそんな奴に見えるとか心外なんだけど」
「みっちゃん、失礼だよ」
「だってだって咲菜が汚されたら私許さない!」

なんなんですかそれ。

「六坂さんとは友達だから、箕作さんが心配する事はないよ?」
「ホントに?」
「うん」
「嘘ついたら就職口に困るようにするよ?」
「嘘じゃないから!」

みっちゃん何者なんですか。やめてあげてください。

「まぁ信じないこともない」
「みっちゃん、ちゃんと教えてあげるから」
「咲菜は信じる。あと一昨日の件について聞きたい」
「それはツッキーの方が詳しいかな…」
「別に、変質者捕まったし大丈夫デショ」
「…そうなの?」
「うん」
「大丈夫なの?」
「うん。あのあと防犯ブザーも買ったから大丈夫」
「それって大丈夫って言わなくない?」
「でもなにもないよりは安全になったでしょ?」
「そうだけど…」

みっちゃんは腑に落ちない顔をしていました。山口くんは蛍くんから大まかに聞いているのか、苦笑いしてました。

「それよりも実家に連れ戻されそうな方がヤバいかな」
「そりゃあ心配もするよ」
「実家からだとどれくらいかかるの?」
「…3時間、とか?」

乗り換えで走ればそれくらいですかね…

「うわ…それはめんどくさい」
「でしょ?」

せめておばあちゃんが出てこないことを祈ります。おばあちゃんまで出てきちゃったら帰るしかないですよ。

「夜だけでも対策とればなんとかなると思うんだけど…」
「その対策をどうするかだよね」
「うん」

悩んでみたところで、まともな案なんてひとつも出なかったんですけどね。山口くんはなにか思い付くのでしょうか?…すごく唸ってるところをみると、難しそうですね。
でも、私なんかのためにこんなに悩んでくれる人がいると言うのは、なんだかうれしいことです。

「なに笑ってるの?」
「もー!六坂さんのことなんだからね!六坂さんに何かあったらいろんな人が心配するんだから!」
「私は泣くよ!」

蛍くんがすごく不機嫌そうにしているのが、山口くんがプンスコしてるのが、みっちゃんが心配してくれるのが、こんなにうれしいなんて、失礼極まりないですよね。

「ありがとう」
「もー…」

私はきっと、今すごく幸せです。

「みんな、ありがとう」
「は?六坂さんってやっぱりバカなの?」
「ちょっと!咲菜はバカじゃないけど?!」
「箕作さん麻婆豆腐に服入るから!」