27日
さて!なにやら今月はいろいろありましたが、今日はとても大切な日です。それにも関わらずバイトなので、学校で確実に仕留めるしかありません。なので文明の利器たる携帯から蛍くんにメッセージを送ることにします。
…あ、あれ?もしかして私からメッセージ送るのって初めてじゃないですか?いや、あの日に1度送ってますけど、あれば緊急事態だったからで、それを除けばたぶん初めて…わ、ど、どうしよう‥もなにもないですけど。
お昼ご一緒しませんかとだけ送って、後は蛍くんのお返事待ちです。
今日は学部のお友達とお昼でしょうか。もしそうなら断ってくれても構わないんですけど…
携帯を閉じようとした瞬間、通知がきました。お相手は蛍くん。「別にいいけど」なんてそっけないお返事ですが、それで充分です。山口くんもいることでしょう。そして学食のはずなので、場所は学食がよろしいでしょう。
「またお昼に」と送って、今度こそ携帯を閉じました。
緊張しすぎて、ものすごく早く学食につきました。ちょっと恥ずかしいです。できるだけ目立たないようはしっこの席を取っておきました。
1人で食べるのとは違い、誰かを待つと言うのは、不思議と緊張するものですね。ソワソワします。
しばらくすると、蛍くんと山口くんが一緒に学食に入ってきたのが見えました。本当、いつでも一緒にいるんですねぇ。
きっと学食を買ってから来るはずなので、私は再度膝の上で紙袋を確認しました。山口くんと選んだプレゼントと、昨日作ったお菓子。あと、コンビニで見つけたお菓子。
学祭は苦手ですけど、こうしてなにかしらのイベントがあると楽しくなるのは、女子だけなんでしょうね。なんて思ったら面白くなってしまいました。
「なにニヤニヤしてるの?」
びっくりして顔をあげると、蛍くんが隣りにいました。
「おつかれ様。あれ?お昼は?」
山口くんはいません。なんでお昼も買わずに蛍くんがここにいるのか。
「山口が先に買ってる。六坂さんが1人でニヤニヤしてて怖かったから声かけてあげたの」
「え、そんなに?」
「うん」
そんなににやけてるつもりはなかったのですが、以後気を付けるようにしましょう。でないといろいろ都合が悪そうです。
「ありがとう、気を付けるから、蛍くんも買ってきていいよ」
「…じゃあ行ってくる」
「うん」
「気を付けてよね」
「はぁい」
ここ数日で判明したことですが、蛍くんは実は心配性なようです。月島さんもその気はあったので、なにも違和感はありませんけど。兄弟って似るんだなーと思ったくらいです。
しかし、そんなに心配されないといけないほど私危ないですか?
「お待たせ。ツッキーもう少しかかるよ」
「おつかれ様。じゃあまだかかるかな」
「今日のB定のデザートが気に入らないみたいだから時間かかるかもよ?」
やっぱりデザート付いてるやつがいいんですね。じゃあこれいらなかったかな…
「今日なんだったの?」
「牛乳かん。ツッキーあんまり好きじゃないんだ」
「へぇ」
洋風の、それこそスイーツと呼ばれるようなものがお好みなのでしょうか。
「他のもあんまり気に入らなかったみたいだし、今日こそいちごのミニパフェだったらよかったのに」
「そうだよねぇ。さすがにケーキは持ってこれなかったもん」
「なに持ってきたの?」
「かぼちゃのスイートポテト」
これ、ハロウィンですよね。完全に間違えました。ちょっとおいしそうだなーなんて思ったからいけないんです。反省はしてます。
「なにそれおいしそう」
「良かったら食べる?」
「いいの?」
「いっぱいあるから山口くんの分もあるよ。良かったらどうぞ」
「わー!ありがとう!」
山口くんが喜んでくれたからいいや。
でも、お誕生日と言ったらケーキですよね。やっぱり持ってこれたら1番よかったですよね。
これはやめておこうかなぁ…
「すぐ食べるのはもったいないなー」
「でも早めの方がいいかも。手製はあまり保存がきかないから」
「そっか」
「不味かったら捨ててもらっても構わないので」
「なんの話?」
「ツッキー!」
びっくりしました。思っていた以上に蛍くんが早く戻ってきました。
「六坂さんがお菓子作ったんだって!」
「へぇ…」
目が、目が訴えてきます。なにそれズルい、みたいな気持ちが伝わってきます。それでも言葉にしないで黙って座ってしまいました。
ご飯の後にしようと思ってたんですけど、後にしたらこの微妙な空気のままご飯食べることになるんですよね?それはちょっと食べづらいですよね…
「あ、あの」
「なに?」
「本当はご飯の後にしようと思ったんだけど、これ、お渡ししたいと思います」
私が頭を低くするまでもなく蛍くんのほうが私を見下ろしているわけですが、なんとなく掲げてしまいました。
「え、なに?」
「あの、お誕生日だとお伺いしましたので。お気に召すものかはわかりかねますが、よろしければお納めいただけたらと」
「六坂さんまた武士なの?」
「武士のつもりはないけど」
「と言うか年貢を納める農民?」
農民のつもりもありません。いや、遡ったら農民だったのかもしれませんが。
だって私が選んだものなんて使えないかもしれないので、こうしておけば気に入らなかったら処分なりなんなりしやすくなるかと。
「そんなの見てみなきゃわかんないデショ」
「そ、そうですけど」
「六坂さんには僕がそんなに性格悪く見えてるの?」
「そんなことありません!」
「そ。じゃあそれもらってあげる」
「ありがとうございます!お誕生日おめでとうございます!」
私の手の上から紙袋の重さが離れていく。それだけのことなのに、異常なまでの緊張を覚えました。心臓が痛いです。
「なにこれ」
「あ、それね、昨日コンビニで見つけてね」
TSUKIって名前の、栗のクッキーサンド。これは是非お渡ししなくてはと思った次第であります。
「いきなりコンビニのお菓子って…」
「それ包むのも違うかなと思って。かぼちゃのスイートポテトは作ったんだよ。ケーキはさすがに持ってこれないので」
「ふーん…これ開けてもいい?」
「どうぞ」
蛍くんはやっとお菓子じゃない、小さな箱に辿り着きました。
お菓子がかさばるのでどうしても埋まっちゃうんですよね。埋めるつもりはなかったんですけど。
「…山口」
箱を開けた蛍くんは、情報の出所が特定できたようで怒ったような呆れたような声を漏らしました。
「ごめんツッキー」
「まだなにも言ってないけど…なに?お前、僕に謝らなきゃいけないようなことでもしたの?」
「そんなつもりはないよ!でもツッキー不機嫌そうだったから」
「それやめろって言ってるよね」
「うう、ごめん…」
「本当はね、名刺入れがいいかなーと思ってたんだけど、まだ使わないだろうしと思って迷ってたら山口くんが教えてくれてね」
「別に怒ってないから」
でも蛍くん不機嫌そうじゃないですか。
「とりあえず食べない?」
「あ、うん!」
なんだか微妙な空気でご飯になりました。昨日もこんな感じでした。
もそもそお弁当を食べていると、不意に蛍くんが声をかけてくれました。
「怒ってるとしたら、山口が先にもらったってこと」
「うっ…それは…すみません」
言い訳もできない。
「でもありがと」
「い!いえ!大したものではないのでお気になさらず!」
「え?そうだっけ」
「なんで山口が知ってるんだよ」
「うん!染色してるかしてないかですごく迷ったけど、値段は全く変わらないし」
「…染色ってなに?」
「皮って染色してると色落ちするじゃない?それでもしも蛍くんの私物を汚してしまったら申し訳がないので染色してないやつにしてみたの」
「は?皮?」
「びっくりするよね。俺も止めたんだけど六坂さん決意が固くて」
「え、これ高いの?」
「そんなことないよ!安いやつだからすぐ傷むかも…」
でもちゃんとしたやつは高くて…これがちゃんとしてないとか言うわけではないんですけどね!若干ランクが落ちるからってだけで…
「山口」
「…六坂さんのためにもツッキーのためにも俺は言わないよ」
「ちょっとどういうこと」
「ホント、そんなに高くないから!なんなら検索して調べてもらってもいいので!」
調べられたら恥ずかしいけど、蛍くんが気に病まなくなるなら恥は捨てましょう。
「六坂さんの誕生日っていつ?」
「あ!私なんかのことは気にしなくても」
「いいから。いつ」
こ、怖い…
「し、4月1日、です」
「は?」
「留年してるとかじゃないよね…?」
「ちゃんと同級生だよ!私学年で一番最後の誕生日なの!」
「へー。初めて知った」
「じゃあ誕生日は覚悟しててね」
え。なんの覚悟…
「誕生日まで待たなくてもいいけど」
「な!なに?!なんの覚悟をしておけばいいんですか!?」
「心臓が止まらないようにする覚悟?」
何をするつもりなんですか!?私殺されるんですか?!
「山口も覚悟してて」
「え!俺も!?」
蛍くんは不穏な言葉を言っていましたが、ちょっと楽しそうだったので私は覚悟していようかと思います。
「私も参加しようかな」
「え!じゃあ六坂さんの時は俺も参加する!」
「山口は僕と違う方法で参加してね」
「え!?」
「ふふ、じゃあ楽しみにしてるね」