ひとつまみの魔法

「あ、いたいた。六坂ー」
「なに?」

呼ばれて振り替えると、思った通り縁下がそこにはいた。
なにか嫌な予感がする…

「六坂、今日って暇?暇だよね?」
「私がいつでも暇人みたいに言うな」

失礼な。確かにいつでも暇だけど。

「放課後部活が終わってからなんだけど、西谷のお祝いしようと思っててさ」
「いきなり?」
「去年はぐだったから、今年はちゃんとやりたいんだよね」
「話聞けよ縁下コラ」
「だから部室の飾り付け頼むな」
「は?」
「やっぱりこういうのって女子の方がセンスあるじゃん?」
「いやいやちょっと待ってよ」
「確か六坂は西谷と中学一緒だったよな」
「そうだけど」
「それに世話係だから西谷に詳しい」
「それは不本意」
「だから六坂に任せた!」
「いやワケわかんない」
「部室の鍵は谷地さんに預けるから、あとよろしくな」

…はぁー?!

や!意味わからんて!知らんわ!縁下って比較的誰にでも優しいんじゃなかった?違うの?いや、えー…

「あと、谷地さんって誰…」










「あ、はじめまして!谷地仁花と申します!」

この子が谷地さんか。
ちっちゃかわいい。

「六坂咲菜です。縁下にきょ…う、声をかけられまして」

危な。うっかり恐喝されたなんて言おうものなら、あとですごく怖い目で見下ろされながらなんかいろいろ言われることになるところだった。

「西谷先輩の彼女さんがお手伝いしてくださるなら安心ですね!」

・・・ん?

「え?誰が?」
「六坂先輩が」
「…それ、誰が言ってたの?」
「縁下先輩がおっしゃっておりましたが…」

あ の や ろ う !

「違うからね?私まだフリーだから!誰ともお付き合いしたことないから!」
「そ!そうなんですか!?ですが縁下先輩は」
「あいつなんか今日嘘つく日みたいだから!ごめんね!」
「そうだったんですか…は!す、すみませっ!簡単に騙されて先輩に失礼なことをっ!!」
「わー!土下座とかいいから!大丈夫!気にしてないよ!」
「そ、そうですよね、こんなもんじゃ足りないですよね」
「足りた足りた!あ、ほら!早く準備しないとみんな来ちゃうよ!」
「そうでした!」

なんだこの子。変な子だ。

「こちらです!」

でもいい子だ。そしてかわいい。
ハムスターみたい。

谷地さんと一緒に部室に入ると、棚の段ボールを下ろしてくれた。

「ここに去年の飾りが残ってるらしいんですけど…」
「なにこれぐっちゃぐちゃ」

開けてびっくり。モールとかポンポンとかが適当に詰め込まれてた。せめて折り紙の鎖くらいはちゃんととっとけよ。千切れかけてるじゃん。

「とりあえず、それっぽく直して適当に飾り付けようか」
「シャチ!」

ひとりでこんなことやらされたら怒ってたけど、谷地さんがかわいいから許す。

2人で黙々と直して、飾りつけはバランスを見ながら。やってるうちに楽しくなってきて時間なんて忘れてた。
だから、突然ドアが空いたときは心底びっくりした。リアルに跳ねた。谷地さんは「ぴぎゃあ!」って叫んでた。

「ごめん、驚かせた?」

そこにいたのは烏野が誇る美女、清水先輩がいただけなんだけど。

「いえ!私こそ悲鳴をあげてしまってすみません!」
「清水先輩まで来るとはきいてなかったので」
「そろそろ練習終わるから、洗濯取り込むついでに預かってもらってたケーキ取ってきた」

飾り付けを見ながら清水先輩はケーキを持ったまま片手でローテーブルを引っ張り出そうとしていた。
もちろん私と谷地さんで清水先輩に代わってテーブルを出したけど。

「男子の部室とは思えないね」
「六坂先輩と2人でがんばりました!」
「ありがとう」

おおう、女神の微笑み…

「六坂さんもよかったら一緒にケーキ食べていって」
「いえ、私部外者ですし、このまま帰りますんで大丈夫です!」
「急いでる?」
「…いえ…」
「手伝ってもらうだけで帰すのも申し訳ないし、急いでなかったら六坂さんも一緒に食べよう?」

そんな言い方されたら

「はぃ」

頷くしかないじゃない!女神最強だよ!

「男子にはもうクラッカー渡してあるから、あとは私たちだけ」

手渡される小さなクラッカー。なんか急にワクワクしてきた。

「ささ、先輩真ん中に」
「え?」
「ほら、クラッカーも持って」
「え?」

なぜに私がセンターを飾っているのか。
え?ここは清水先輩か谷地さんじゃないの?なんで私?部外者でいいのか?

軽いパニックを起こしているうちに、男子が戻ってきたらしい音、と言うか声が聞こえる。今はさっき感じたワクワク感よりも不安が勝ってる。意味わかんない。

「最初は3年が入ってくるはずだから、ちゃんと西谷が入ってきてからクラッカー鳴らしてね」

ドアが開いて見えたのは…アズマネさんでかい!一番前主将さんだと思うけどアズマネさんでかい!こわい!じゃない!に!西谷にこれぶつけなきゃ!

私は西谷の金髪が見えた瞬間、もう脊髄反射の勢いでクラッカーの紐を引き抜いた。それにつられるように周りに破裂音が響いた。

「な?!なんスか!敵襲か!つーかは?六坂!?なんでお前いんだよ」
「し!知らないよ!縁下に言われたから来ただけだもん!」
「力!」
「落ち着きなさいよ。君も突然悪かったね」
「い!いえ!」

この人絶対主将だ。主将っぽいもん。

「大地さんなんでこいつがいるか知ってるんですか!」
「西谷ストップ!」
「なんだよ力!」
「説明はあとでちゃんとするから、10秒だけ黙って」
「?おう!」

そして縁下は次の主将かな。ぽいもん。
西谷も素直に黙ってるし。

「六坂言ってやって」
「なにを?」
「これがなんの準備だったか忘れたとは言わせないから」

そうか!

「西谷!」

まだ10秒たってないからかちゃんと黙ってるのかおかしくて、ちょっと笑えた。

「お誕生日おめでとう!」

私が言うとみんな口々にお祝いの言葉を口にする。2年はテンションがバカになってる。1年は呆れてるのか一部巻き込まれないように距離をとってるし、3年はもう保護者のような顔で眺めてる。

部活って、案外いいもんなのかもしれない。

「六坂!」
「な、なに?」
「ありがとな!」

西谷のお礼がなんに対してかはわからない。だけどお礼を言うのはこっちの方だ。
きっと縁下に誘われなかったらそのまま帰ってたし、家でひとりふてくされてたかも知れない。最初の1歩はかなりの勇気がない限り、なかなか踏み出せないものだから。

「こっちこそありがとう!」

今日は私にとっても素敵な日だ