今日も今日とて、君想う

学生の時ならいざ知らず、社会人になってはこんなことでお休みはとれない。
ということで、今日はいつもよりちょっと気合いをいれてご飯を作ってる。今日のメニューはてっちゃんが好きな秋刀魚をメインに作っていきます!
いつも大体同じ時間に帰ってるくから、それまでに完成させないといけない。時間との勝負。大丈夫、私手際だけは良いからね。

バラ肉を炒めて、じゃがいも人参玉ねぎを切って一緒に炒める。あとは合わせ調味料をお鍋にイン。ふふーん。こうなると肉じゃがは出来上がるのを待つだけ。お手軽!
お味噌汁には具をたくさん、冷奴とお浸しは直前で大丈夫。

そうなると次に来るのは私の最大の敵、秋刀魚に立ち向かわなくてはいけない。
私は調理はもちろん、食べることもできないくらい頭がついてる食材が苦手なのだ。直接殺してる感有りすぎて手が震える。頭さえなければ全然平気なんだけどね、なんでダメなんだろう。

その前に、てっちゃんが帰ってくる前に冷蔵庫のケーキを隠さなきゃ。温度の低いところ、シンクの下に保冷剤と一緒にいれておけばいいかな?

さて、気を取り直して。
私が苦手な秋刀魚の腸。私の分だけ腸をとる。いつもならてっちゃんが「見てるの恐いんだよ」とか言いながらやってくれるけど、今日は私が頑張らないといけない。

なんとか掃除をして、塩を振ってグリルに並べてるとき、てっちゃんが帰ってきた。

「てっちゃんおかえりー」
「おーただいま。今日サンマ?」
「そう!」

グリルに火をいれながら肯定だけ返す。てっちゃんのことだから秋刀魚に喜ぶより、怪我の心配をすると思う。

「手切ってないよな?」

ほらね?

「さすがにそんなことはしてないよ」
「いいから手の確認しろ」
「はぁい」

優しいとは思うけど、心配しすぎだと思う。

「ほら、怪我なんてしてないよ」
「ならいいんだよ」

そんなことをしていたら、てっちゃんがコンロの鍋に気付いた。普段2つも鍋を使わないから余計目についたんだと思う。

「鍋も?」
「うん」
「なんか豪華じゃね?」
「あれ?てっちゃんお忘れ?」
「なにを?」
「まぁいいから。ほら、お風呂入ってきて」

バレるかなと思ったけど、忘れてるみたいなのでこのまま隠しておこう。
お風呂入ってる間に焼けるかな?10分くらい入っててくれるよね?秋刀魚にテンション上がってすぐ出てこないでよ?

秋刀魚が焼き上がるのを待つ間に、肉じゃがを盛り付けてお浸しと冷奴を出す。炊き上がってるご飯はひじきを混ぜ混んで味を整える。そうだ、傷む前にお漬け物も片付けちゃおう。
いつになく完璧、なんて自画自賛。

出したばかりのこたつにお浸しと冷奴、それに肉じゃがを運ぶ。秋刀魚はひっくり返してもう少し。
お誕生日感はあんまりないけど、お誕生日には好きなもの出る方が嬉しいよね。そうなると必然的にお誕生日感ってなくなるんだよね。2人して和食が好きとか、洋物イベントガン無視する気しかないね。

「おー、マジで今日すげーな」
「あ、出たの?秋刀魚ちょっと待ってね」
「いいから火傷すんなよ」
「しないよー」
「肉じゃがつまみながら呑むー?」
「おー…あ!待った!」

冷蔵庫を開けるとさっきまでなかった小さめのボトルがある。
これは…

「ヌーボーだ…」

そうか。今日解禁だったのか。すっかり忘れてた。

「お前毎年言ってたろ?」
「よく覚えてたね、てっちゃんワインなんて飲まないのに」
「毎年言ってたらさすがに覚えるっての」

なんか、こう、かゆい感じがする。

「ありがと」
「おー」

考えてもダメだ。かゆい。たぶんご飯食べたら忘れる。秋刀魚もそろそろ良いでしょう。
グリルから秋刀魚を引っ張り出してお皿に大根おろしと一緒に盛り付ける。

「お待たせー」

てっちゃんはビール片手にお漬け物を食べてたらしい。

「肉じゃがでも食べてればよかったのに」
「咲菜と食べたいからいいんですー。つかマジでなんかあった?」
「冷めちゃうから食べますよー」
「あ、お前も呑むだろ?」
「うん。ありがとー」

グラスに色味の薄いワインと、ビールの缶が小さく鈍い音をたてる。

「お疲れさん」
「お誕生日おめでとう」

噛み合わない言葉に、ようやく気付いたらしい。

「あー…そーだった」
「研磨くんとかからメール来てないの?」
「昨日充電忘れて電源切れてた」
「あらら」

だから気付いてなかったのか。

「なんだ、ありがとな」
「いいえ」

これなら、あとでケーキ出したときはもっと驚くんだろうな。

「ねぇねぇてっちゃん」
「んー?」
「すきー」
「ばぁーか、俺の方が咲菜のこと好きに決まってんだろ」