これからの約束
「あ、あの」
『うん』
私の誕生日には、朝メールをくれた。学校が休みだったのに、わざわざ部活帰りにうちによってプレゼントをくれた。白地に金の刺繍が入ったリボンのバレッタ。月曜日につけて登校したら、すごく喜んでくれた。
「明日も朝練あるよね…?」
『そうだね』
「だよね…」
お誕生日のお祝いをしてあげたいけれども、大切な朝練の時間を邪魔できない。
春高まで本当にあと少し。きっと今は、どんなに練習しても時間が足りないと思う時期のはず。
『どうかした?』
「なんでもない。明日も早いなら、もう寝る?」
だからあまり邪魔はできない。
お誕生日は、朝練が終わって教室に来てからお祝いすれば大丈夫。別に1番にお祝いしたいとか、そんなんじゃあない。
『咲菜は?眠い?』
「え…っと、まだそんなには」
ただ、お誕生日のお返しがしたいなぁと思うだけ。あと、できるだけ京治くんの負担にはなりたくない。
『じゃあもう少しだけ話してもいい?』
「いいけど、大丈夫?」
『俺がもう少し咲菜と話してたいんだけど、いい?』
そう思うのに、京治くんは先読みしたかのように私に後戻りをさせてくれない。
「っ、ぅん…」
いつだって私が嬉しくなる言葉をくれる。
だけど、私はちゃんと返せてるのかな。
「で、結局まだあげてないの?」
「メールはしたよ」
「メールもしてなかったら怒るよ!」
現在、教室で梨恵に怒られてます。どうやら梨恵の中では朝練のとき時間合わせて渡すと思っていたらしい。
別に私はそれでもよかったけど、部員の人に気を使わせてしまうこと間違いなしなのでやめた。あと、そんな早くから教室にいてクラスの人に余計な詮索をされたくなかった。
京治くんも特になにも言わなかったから、選択としてはこれで間違ってないはず。
「ちゃんと用意したの?」
「うん」
「ね、ね。なんにしたの?」
運動してる人が普段何を必要としてるのかまったくわからなかった。だから、用意したのは手触りと吸収率のいいタオル。
「別になんでもいいでしょ」
「えー!気になる!言わないからー!」
梨恵にその気がなくても周りにバレるから却下。本人がそれに気付いてないのが1番困る。
「もうすぐ渡すからやだ」
「いじわるー」
梨恵になんと言われても構わない。あっちこっちから色々と言われるよりもいい。
…今考えると、私が用意した物ってお歳暮とか引き出物みたいになってる気がする。え、どうしよう。
「おはよう」
「おはよう赤葦くん!」
「おはよう」
梨恵の目が分かりやすく私を見てくる。言葉にするなら「おめでとうを直接言え。今言え。早く、今すぐ言え」と言ったところだろうか。
もしかしたら私より先に言うのを控えてるのかも知れない。でも既に部活でさんざん言われてるはずだから、そんな気にしなくていいのに。
「あの、」
見られてると言いづらい。ちょっとどっか向いててほしい。
「なに?」
「…おめでとう」
「咲菜!言葉が全然足りてないよ!」
「梨恵は耳ふさいで後ろ向いてて」
「はい!」
文句をつける梨恵に注文して、もう1度京治くんを見る。私が言いたいことも梨恵が言いたいこともわかってる京治くんは、すごく楽しそうな顔をしてる。
「あ、の、」
「うん」
「ぉ誕生日、おめでとう…」
今日じゃなくてもどうしてたかわからなくなることがあるのに、今大丈夫なんてあるわけがない。
例えば梨恵が相手ならこんなことにはならない。だけど、京治くんが相手になると、とたんにいつもどんな感じで話してたのかわからなくなる。
ああもう、本当に困る。
「うん、ありがとう」
「あと…これ。よかったら」
「見てもいい?」
「うん」
「あと吉田さん戻さなくていいの?」
忘れてた。
「梨恵、もういいよ」
どうやら本当に耳を塞いでいるらしく、声をかけても反応がない。つつくとようやく楽しそうな顔をして振り返った。
「おめでとう赤葦くん!」
「吉田さんもありがとう」
「なにもらったの?見てもいい?」
「いいよ。今見るところだったし」
「梨恵そればっかり」
「だって気になるんだもん」
あんまり期待しないでほしい。本当によくわからなくて、これでよかったのか未だに考えてるから。
「わ!かわいー!」
「え、そんなにかわいい?」
ボーダーで、男子でも使いやすそうな物を選んだつもりだけど、実際はどうなのかわからない。
やっぱりかわいすぎたのかな…
「そんなことないよ。手触りもいいし、嬉しい」
だから、そう言うのは言わなくてもいい。でも見るからに嬉しそうにしてもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「ありがとう。部活で使うね」
「うん」
「わたしはねー、これあげる!」
「吉田さんも?」
「スポドリの粉にしたよ!」
たぶん、梨恵がその時1番欲しかったものなんだろう。私の誕生日の時も、その時梨恵が欲しかったものだった気がする。ちゃんと私の事を考えてくれたものではあったけど。
「吉田さんもありがとう」
「じゃあ行くね!」
「帰るの早くない?」
「宿題の答え合わせする約束してるの!じゃあねー!」
…たぶんだけど、嘘。空気を読んで早めに帰ったんだと思う。
そう言うのいらないってさんざん言ってるのに全然わかってくれないのはとても困ってる。
「吉田さんにももらうとは思わなかったよ」
「こういうことは好きだから」
梨恵はパーティーとか賑やかなことが好きで、他にもサプライズなんかも好きだった。下手くそだけど。
「従兄妹ってそんなに似るのかな」
「どうして?」
「咲菜の誕生日の時、木兎さんも同じようなことしてたから」
そう言われればそうだった。次の日の月曜日に梨恵と一緒に教室にやってきて、便乗したらしい他の人たちからもお祝いされた。そのお陰もあって今年の誕生日は一段と賑やかだった。
「でも、お祝いされるのは嬉しいものでしょう?」
「そうだね」
本来そうあるべきなんだと思う。
祝ってもらって不愉快になんてなれない。来年なんてわからないけど、少なくとも今年はこれでよかった。
「来年はさ、」
「うん?」
「いや、やっぱりいつかでいいけど」
なんのことだろう?
1年も待たなくていいってこと?それとももっと時間がかかるってこと?
「誕生日、2人きりでお祝いできたらいいね」
そう言った京治くんは、照れたようにはにかんでいて。こっちが恥ずかしくなった。
だってそれは、来年が無理だったら再来年。それも無理だったらまた次ってこと?
「そう言うのは、ズルい…」
「そう?」
そんなの、期待する。
「もうやだ、きらい」
「俺は好き」
そう言うとこ、ホントやだ。
「咲菜は?」
「…すき」
嫌いなんて言えるわけない。
「あの、」
「ん?」
「来年も、お祝いさせて」
「…うん。俺にもお祝いさせてね」
「うん」
(お前らここ教室!自重して!)
(!!!)
(わざとだけど)
(?!?!)
(お前マジいい性格してるわ…)
(ありがとう)
(ほめてねーよ!)