秋晴れの日に
誕生日と言うものに興味をなくしたのは、いつのことだったか。
誕生日が来たからといって、なにか特別なことが起こるわけでもない。今までと何ら変わらない日が、ただ淡々と過ぎていく。
それなのに…
「ツッキー聞いたよ!グッチーに聞いてて私は知っていたよ!」
この喧しいチビのせいで、今年は例年よりうるさい日になった。
「おめでたいね!おめでとう!」
「うるさい。声落として」
「声は落ちないよ?」
前にチラッと聞いた限りだと六坂さんはバカではないはず…なんだけど、どうしてこんな返しをしてくるのか。
「ホント疲れる」
「まだ若いのにそんなんじゃおじいちゃんになったとき大変だよ?」
「いいから黙って」
「そういえばグッチーは?」
黙れって言ったのに言葉を理解できないらしい。なんなの?やっぱりバカなの?
「職員室だって」
「ふーん」
そこでようやく静かになったんだけど、妙なことに気付いた。
山口も話し出すと多少騒がしいけど、ずっとうるさいわけじゃない。家族だってうるさいわけじゃない。だから隣に誰かがいても静かな時間と言うものは当たり前だけど、なんだか違和感を感じた。
「なんで僕のところ来たわけ?」
「私が来たかったから」
本能のままかよ。
「グッチーまだかかる?」
「知らない」
「もうすぐチャイムなっちゃうよ」
「じゃあ戻れば」
「えー!」
「うるさい」
と言うか、せっかく静かになったのに、なんで僕は六坂さんに話しかけてるんだろう。でも感じてた違和感はなくなった。
「あれ?ツッキー六坂さんといたの?」
山口がきたのはチャイムがなる直前。
「グッチーおかえり!」
「一緒にいるわけじゃないから。六坂さんが勝手に来たの」
「もーツッキーったらつれないんだからー」
文句言われる筋合いないし。 やっぱりうるさいから帰ってほしい。
「六坂さん戻らなくていいの?」
「え?あ!もう時間じゃん!グッチー後でね!」
「俺に用事だったの?」
「うん!勝手にやらないでね!」
「なにを?!」
帰る直前までうるさいとかホントなんなの?ひとりで変人コンビと同等ってどうなの?
「山口なんか知ってるの?」
「うーん…予想はつくけど、言ったら六坂さん怒りそうだからやめとく」
「なにそれ」
そうしてしばらくは静かなまま時間が過ぎたけど、再び台風は上陸した。
「ツッキーいる?!」
昼休みのチャイムがなった瞬間に教室の扉開けるってなんなの?
「六坂、お前授業どうした?」
「ちゃんと受けて片してきました!」
「そうか」
いや、そうかじゃないから。授業まだ終わってないじゃないですか。
「ちょうどいいから今日はここまで」
先生の声で教室には号令に次いでざわめき立つ。もちろんここに六坂さんが入ってこないわけがない。
「ツッキーツッキーお昼食べよう!」
六坂さんの手には小さな包み。それが弁当だろうことは想像に容易い。
でもさ、そんなに振り回したら目も当てられなくなるんじゃない?
「やだ」
拒否したところで六坂さんは気にすることなく僕の机に弁当置くんだからやめてほしい。
「食べなきゃ倒れるよ?」
「食べるけど六坂さんと食べるのはやだ」
「ひどい!」
「まぁまぁ、俺椅子借りてくるね」
そう言えば昼休みに来るのは初めて?じゃないか。最近はほとんどなかったけど、前にもたまにあったな。
「はい、六坂さん」
「ごめんねグッチー、ありがとう」
「山口甘やかさないで」
「ごめんツッキー」
「ツッキーはもう少し私に優しくしてくれていいよ!」
「絶対やだ」
「いじわるー」
六坂さんは口だけでそう言うと、ケラケラ笑いながら弁当を開いた。
…中身がサンドイッチだったから振り回してたんだ。
「ご飯食べたらね、お話があります」
「え、」
「ちょっと!嫌そうな顔しないでよ!傷つく!」
「そんなタマじゃないデショ」
「ええもちろん!」
無駄な会話、意味のない応酬。それを存外楽しいと思ってる自分がいるのも事実。
「別に話くらいイイケドサ、喋ってないで食べたら?」
食べることよりも話すことに夢中になるから、少ないはずの六坂さんのサンドイッチはなかなか減らない。
「もー!ツッキーったらあー言えばこー言う子なんだから!」
「いいから食べなって」
急かしてようやくサンドイッチを口に詰め始めた。
ちっちゃいサンドイッチをちっちゃい手でちっちゃい口に必死に詰めてるのを見ると、ハムスターを思い出してちょっと面白い。
「ツッキー楽しそうだね」
「だってこれ面白いデショ」
「うん、かわいいね」
そんなこと一言も言ってないから。
勝手な事を言う山口を横目に六坂さんを見るけど、やっぱり面白いとしか思わない。これがかわいいって山口大丈夫?
「あんね、ツッキーにお渡ししたいものがあってね」
んぐんぐ言いながらサンドイッチを飲み込むと、相変わらず楽しくて仕方ないって顔をしてこっちを見てくるから調子が狂う。
「うん」
「お誕生日だってグッチーに教えてもらったからね、用意してみたの!」
「はいはい」
どんなに適当な返事をしてもバカにしても六坂さんはしつこく突っ込んでくるから、いつからか諦めた。
「ツッキーはおしゃれさんだからと思って選んだんだよ!」
「はいはいありがとう」
「雑!開けて!」
すぐ開けてほしいタイプなのはわかってたからそのまま開けたけど…
「なにこれ」
「メガネ拭きだよ?汚れると見辛いってメガネの子から聞いたんだ!」
それは間違ってないけど…
「僕のメガネに触るのってキミくらいだよね?」
「そうなの?!グッチー触らないの?!」
「触らないよ!?」
なんでそんなことに驚いてるの?普通触らないから。そのあと僕がどれだけ苦労してるか知らないくせに。
「あとこのデザインなんなの?」
「ひよこ」
ひよこはいいけど、なんでこんな全面に敷き詰められてるの選んだんだよ。ラーメンのひよこかよ。しかも微妙に不細工。
「かわいくない?」
「ない」
「えー!」
せっかくもらったし使わないこともないけど。
「でももうメガネ触るの禁止」
「やだー!」
「いい加減やめて。ウザイ」
「ウザいって…!」
自分の誕生日に興味なんて生憎ないけど、例年より喧しくなっても悪くはなかったかな。