箱の中身はあるのかないのか

「俺もうすぐ誕生日なんだ!」と木兎に言われたのが今月の始め。いつとか言われなかったから「ふーん」で終わらせてしまった。
「お前も協力しろよ?」と木葉くんに言われたのが2週目の月曜日のこと。よくわかんなかったから「簡単ならいいよ」って返事したはず。
「木葉に言われたこと覚えてる?」と猿杙に言われたのが、同じ週の金曜日。なんのことかすっかり忘れてたから聞いたら、笑いながら「協力してね」って言われた。
次の週の木曜日に、鷲尾さんから「巻き込んですまんな」って言われた。一瞬なんのことかわかんなかったけど、協力するってやつかなと思って、大丈夫って返しておいた。
更にその次の週の火曜日、小見くんに「明日だからな!忘れんなよ!」って言われた。忘れるもなにも初めて聞いたけど。明日なにがあるの?

「先輩、迎えに来ました」

そして今日、なんかお迎えが来た。

「えーっと…どちら様ですか?」
「バレー部副主将の赤葦です」
「あ、お疲れ様です」
「いえ。あと後輩なので敬語じゃなくていいですよ」

なんと。鷲尾さんみたいな落ち着きを感じるから完全に同級生だと思ってたよ。

「今日は先輩方から「六坂は絶対忘れてるから迎えに行ってこい」と言われまして」

正直な話、忘れてた。私が忘れても周りが忘れてなかったから、結果覚えててもどっちでも良かったんだけど。

「忘れてました?」
「うん」
「素直ですね」
「それが私の売りなので」
「そうですか」

…あ、この人後輩だからなんか会話がおかしいのか。私が気を使ってあげなきゃ。

「で、迎えってなんの?」
「この後予定とかないですか?」
「え?」
「予定があるなら大丈夫です。うまく説明しておくので」

放課後に予定があるなら、それが潰れる勢いで拘束されるってことか。しかしながら私に予定はない。帰って時間の無駄遣いをしようかと思ってた程度。

「なんにもないから大丈夫」
「そうですか。ありがとうございます」

なぜお礼?

「今日はよろしくお願いします」
「あ、はい。お願いします」
「じゃあ行きましょうか」

促されるままに着いていく間に思ったことは、やっぱり後輩なんだなってこと。なんか、鷲尾さん達と比べるとちょっと細く見えて頼り無さそうな背中に見えた。
言ったら傷付くだろうから言わないけど。

辿り着いたのは体育館。
部活休みなわけないよね。これから予選あるもんね。

「すみません、俺着替えてくるので」
「あ、どうぞ」
「後輩に続きは任せますので」

また後輩か。
鷲尾さん呼んでよ、私人見知りなんだよ。

「はじめまして、尾長です」
「はじめまして、六坂です」

なんだこれ、お見合いか。

「じゃあ頼んだよ」
「はい!」

おお、なんかその返事は部活っぽい。

「じゃああの、お願いします」

そう言って歩き始めたから、たぶんついてきてほしいってことだと思う。身長は高いけど、1年生かな。たどたどしさとか、雰囲気的に。

おとなしく着いていくと、そこは体育館倉庫で少し疑問だった。整頓されて道具が仕舞われてる倉庫のなかで、ボールが1つも入ってない籠が異様に目立つ。

「あの、なんでここに…」

私がそう言うのと後輩くんが謝るのは同時だった。体が浮いたと思ったら、足がぶつかりながら籠の中に入れられた。

「すみません、アザにならないですか?」
「たぶん…え、これなに?」
「先輩はそこにいてくれるだけでいいので」

それは答えになってないよ後輩くん!
と言うかよく私なんかを持ち上げられたね!お疲れ!

「うまくできた?」
「はい!」
「え、猿杙?ねぇこれなに?」

突然現れた猿杙は私の言葉なんか聞こえていないかのように無視してボールを渡してきた。

「これもってて」
「え?」
「怪我するようなことはしないから、5分くらい静かにしててね」
「ねぇ猿っ」

まともに会話が成り立たないうちに、私はなにかに覆われてなにも見えなくなってしまった。

「猿杙、ホントになんなの?」
「サプライズやるから、ちょっと協力して」

やっと答えてもらえたけど、それは要点だけをまとめた微妙な回答。

「…わかった」

とりあえず危ないことではなさそうだからいいや。籠の中は正直居心地はよくないけど、言われた通りおとなしくすることにした。
動いても痛いだけだし。
暇な私はムダにボールを撫でるくらいしかやることがない。いや、鞄あるけど、なんとなく弄ったらいけない雰囲気だよね。よくわかんないけど私隠されてるもんね。それで携帯なんてしてたら猿杙に笑われそう。
でも、私と切り離された外は賑やかで少し楽しそう。これ本当にいじめじゃないよね?大丈夫だよね?

「おー、こん中にいんの?」
「木葉くん?」
「マジでいるのか」
「ねぇ、なんでこんなことになってるの?」
「あれ?猿から聞いてねぇの?」
「誰もなにも言ってくれてない」
「マジか」

誰かが言ってると思ったのかな?それなら仕方な…くない。

「状況説明求む」
「簡単に言うとサプライズで六坂がそこから出てきて「わービックリ」って感じ」
「雑!なんのサプライズなのよ」
「そこから?」
「本当にわかんないの」
「木葉!持っていくぞ!」
「おー」

私に答えるより早く誰かが来て、私の入った籠をゴロゴロ動かされた。

「い、いた…」
「ちょっと堪えてくれ」
「そんなに移動しないから」

覆われてない足元が明るくなるのと同時に、外のざわめきが近くなる。その中に聞き覚えのある声がひときわ大きく聞こえる。

「なにそれ!」
「木兎さん落ち着いてください」
「え、あんた達マジでやったの?」
「うわー、サイテー」
「んだよ!お前らも情報提供しただろ!」
「「それとこれとは違う」」
「そもそも止めたし」
「ねぇー」

みんなは状況をしっかりわかってるらしい。どうして当事者の私がわかってないのかわからない。

「開けていいの?」
「いいけど優しくしろよ」
「へ?」
「乱暴に開けたら傷付くからな」
「え、なに?割れ物?」
「ある意味割れ物かな」

え、私割れ物扱いなの?
まぁ乱暴にされたらあっちこっちぶつけて痛いから、丁寧に扱ってもらえた方がいいけど。

「ほれ、開けてみろ」
「おう!」

被せものが全部とれるのかと思ってたけど、どうやら頭上だけ開くようになってたらしい。暗いのに慣れた目に光が少しだけ痛い。

「…え?は!?」

顔をあげると、木兎が心底驚いたような顔をしてる。

「六坂なにしてんの!?」
「私もよくわかんない」

座ってるのも痛いから早く出たいんだけど、ビックリしてる真っ最中の木兎が動かないから立つことすらできない。
私はこのままボールを抱えて座ってればいいのかな。

「またまたー。今日がなんの日か教えたろ?」
「教えてもらってない」
「…え、猿?」
「俺は言ってないよー?」
「小見やん?」
「木葉が言ったんじゃねーの?」
「赤葦!」
「知りませんよ。俺は連れてこいって言われただけですし」
「じゃあなに?六坂は本当になにも知らないの?」
「うん」
「あんた達本当になにしてんのよ」
「あと木兎どいてあげてー」
「あ?おー」

木兎が1歩下がってくれてようやく狭い籠の中でたったけど、1人で出れるわけがない。

「誰か手貸して」
「あ?おう、任せろ」

助けを求めると目の前にいた木兎がすぐに動いてくれるのは、まぁ普通だろうと思う。
でもね、

「ぴょっ!」

なんで持ち上げるかな!私は荷物じゃないよ!

「ちょっと木兎なにしてんのよ」
「え?だって手貸してほしいっていうから」
「籠押さえるだけでも良かったんじゃないー?」
「あ!そっか!悪い!」

私を降ろしてなにやら話始めたのを横目に、籠の中に忘れられた鞄を取った。そして外野から眺める私は1つの回答に行き着いた。

「申し訳ないけど、バレー部はみんなアホなの?後輩くんにも同じことされたんだけど」

そう言うと今度は後輩くんがなんか言われ始めた。言わない方が良かったかな?なんかごめんね。

「六坂にそーゆーのしていいのは俺だけだから!」

なにそれ。

「木兎にも許可した覚えない」
「なんでだよ!今俺が六坂もらったんだからいいだろ!」

今、何と?
後ろを見ればプレゼントらしき装飾がされた段ボールに包まれた籠。私は間違いなくこれに入ってたんだろう。でもなんでそうなったの?

「私は私を木兎にはあげられないよ?」
「なんでだよ!」
「でもボールはあげる」
「おう」

そもそもこれ学校の備品だからあげられないけどね。

「なぁ、ホントにもらえないの?」
「無理」
「木兎にならねぇ?」
「ならない」

…は?

「え、ちょっと待って。木兎それ意味わかって言ってる?」
「当たり前だろ。なんでそんなこと聞くんだよ」
「だって、」

それ、何て言うか知ってる?

「お前こんなとこでプロポーズすんなよ」
「だってこんなことされたらもらえると思うだろ!」
「そうだよな。お前はそう言うやつだった」

意味がわかんない。

「今すぐは無理だけど、いつかなってくれよ?」

だから…

「無理!そんなこといきなり言われても、わかんないって!だから無理!」

私はその場から走って逃げた。後から追ってくる気配もないから、逃げ切れるかどうかの心配はいらない。
私が心配することは、明日からどう木兎に接すればいいのかと、鞄の中に入ったまま忘れたプレゼントの行方だけ。