気付かない下紅葉

夜、どうしようもなくポテチが食べたくなって、財布だけポケットに突っ込んで家を出た。その時「ついでだから牛乳買ってきて」なんて言葉が飛んできて「袋重くなるなぁ」なんて思ったくらい。それ以外はいつもと全く同じ。
上着だけじゃなくてマフラーもするべきだったかなぁと後悔しながら、自転車で御用達のコンビニへ。

煌々とした人の少ないコンビニ。ポテチ片手にチョコとグミも物色しておいた。塩気のあるもの食べると甘いのもすっぱいのも食べたくなるからね。それから頼まれた牛乳。あ、ココアも飲みたい。

結果予定になかったものまで買って私の財布は寂しくなった。でも気持ちはとってもあったかほっこり。テンション爆アゲでスキップする勢いのままルンルンでコンビニを出たら、自転車を不法占拠する人がいた。

それは見覚えがありすぎる長身茶髪が携帯片手に自転車に乗ってる。
めっちゃ膝曲げて、いかにも「サドル低いです」って感じに座ってるのなんて脚長自慢みたいでムカつく!そんなつもりないんだろうけど!

「ちょっと二口!」
「やっぱり六坂だったか」
「やっぱりってなによ」

話しかけても降りるつもりはまったくないらしい。二口は携帯をポケットにつっこんで、ちょっと幼さの残る顔で笑った。

「見覚えあるチャリだったから六坂だと思ったんだよ」
「だったらなに?」

これ以上二口と話してても生産性はなさそうだと判断した私は、買った袋をかごにいれたんだけど、

「この時間にポテチかよ!」
「そんなの私の勝手でしょ!?」

いちいち突っかかってくるのが二口という人間なのだ。

「お前ダイエットするんじゃなかったのかよ」
「するよ!明日から!」
「明日はポッキー食うんだろ?」
「は?」
「明日11月11日だろ?」
「あ」

たしかに食べるかもしれない。

「図星だろ」
「うるさい!二口に関係ないでしょ!」

否定しきれない自分が憎い。こんなヤツ無視した方がいい。精神衛生上もその方が絶対にいい。
そう決めて自転車の鍵を開けようにも、二口がいちいち邪魔してくるから無視もできやしない。

「ちょっと邪魔!降りてよ!」
「チャリ貸してくれよ」
「は?やだよ、帰るんだから」
「いーだろー」
「なんにもよくないから」
「いーからいーから」

なんとか鍵を開けたけど、すぐ二口にハンドルを取られた。

「お前携帯は?」
「持ってきてないよ」
「は?お前なにやってんの?」

なんで今怒られたの?

「コンビニ行くだけだし、財布だけでよくない?」
「せめて携帯は持ってろよ。六坂みたいなのでもなんかあると寝覚め悪いだろ」
「いや、なんにも起こんないから」
「わかんねぇだろ」

万が一私がめちゃくちゃ美人とかならまだしも、平凡も平凡を極めた私に今更なにか起こるとか微塵も想像つかない。

「今までなかったもん」
「今日だけじゃねぇのかよ!」
「だって近所だし」

なんかすごい怒ってるんだけど。情緒不安定なの?

「六坂ん家どっち」
「いいよ、自転車返して」
「いいから」

取り返そうとしても器用に避けるから、とてもじゃないけど取り返せそうにない。いつまでもここにいても寒いし、諦めて二口に自転車を任せて帰ることにした。

ここで唐突に疑問に思った。
そういえばなんで私は今二口と一緒にいるんだろう。そもそもなんで二口はコンビニの前で私の自転車を不法占拠してたのか。

「ねぇ、帰んなくていいの?」
「今帰ってんだろ」
「いや、私じゃなくて二口」
「…いいんだよ」
「あと自転車私のじゃなかったらどうしてたの?」
「六坂のだって確信があったんだよ」
「嘘だね。私がコンビニ出たときやっぱりって言ってたもん」
「は?空耳だろをもんとかかわいこぶんな」
「ぶってない。あと今日も部活だったんでしょ?二口疲れてるんじゃないの?」
「あーもー、うるせえな」
「早く帰ってご飯食べなよ」
「六坂は俺の親かよ」

どんなに聞いても二口はなに一つ答えてくれない。答えの帰ってこない一方的な問いかけをしてるうちに、家は目と鼻の先の距離になってる。

結局、二口はなに一つ答えないまま家の玄関の前まで着いてきた。

「自転車ありがと」
「おう」
「あ、お腹空いてるでしょ?」

結果として送ってもらったわけだから、なにもしないで帰すのも申し訳ない。
私は袋の中からチョコを取り出した。

「足しにならないだろうけど」
「は?いらね」
「人の好意をそうやって踏みにじるー」
「それよりグミがいい」

え、なんでグミ買ったの知ってるの?

「まさか見てたの?」
「ちげーよ。袋から透けて見えたんだよ」

あ、そういうことか。

「別にいいけど」

新しいの出てたから食べてみようかなと思っただけだし、また買えばいいし。

「これでいいよ?」
「チョコよりよっぽどいい」
「ふーん、二口グミ好きなんだ」
「チョコよりはな」

そうなんだ、初めて知った。

「ありがたく貰ってくわ」
「うん。本当にありがとね」
「おー」

早速グミを開けて食べながら歩き始めた二口は、今来た道を戻っていった。

「嘘でしょ…?」

わざわざ遠回りしてまでここまで私の自転車押してたって言うの?部活終わって疲れてるのに?と言うか、コンビニの前で私のかわかんないのに自転車占拠してたの?すぐに開けたってことはお腹すいてたんだよね?私あんなグミ1袋しか渡してないんだけど。

「意味、わかんない」

二口がなに考えてるのか、全然わかんない。



(ちょっとあんた彼氏いたの?)
(違うから!勘違いしないでよ!)