白い椿が花開く
「えー、じゃあ2番が5番に膝枕で」
なんでこんなことになってるんだろう。
「3番誰?」
「俺だよ」
「2番は?」
「俺だ」
「絵面…」
昼休みの部室で引退した男含むバレー部員とマネの私が、膝を合わせて王様ゲーム。なにが面白いのか、運動部男子を象徴するようなお弁当を片手に騒いでる。
「お前牛島さんになにやらせてんだよ」
「だってこれ王様ゲームだし」
「そーそー!王様の命令は絶対だよん!」
「白布、構わん」
「寝心地は良くないだろうな」
けんじろーは相変わらず信者だし川西はダルそうだし天童さんもバカみたいにテンション高いし、みんながいつも通りすぎて逆に違和感。
「咲菜ちゃんが3番じゃなくてよかったねー」
「女子の膝を借りるなんて例えゲームでもできないからな」
「若利は考え方が堅いんだよ」
アホらしい。騒ぐ天童さんを見ながらそう思う。こんなくだらないことから逃げられなかったのは、お弁当を人質に取られたからだった。ホント意味わかんない。
「王様だーれだ!」
しかもみんな慣れてきたのか、要求のレベルが徐々に上がってきた。
「俺の時代キター!」
「ゲ!」
「ゲってなにかなー?工ー?」
「いえ!なんでもないです!」
「膝枕はいつまでやってればいいんだ?」
「あ、もういいです」
「なかなかにキツい絵面だったな」
「ガタイのいい男2人ですからね」
最初は頭撫でるとかお弁当のおかず交換とかそんなのだったけど、膝枕って…どっちにしても当たったの私じゃなくてホントよかった。
「俺ももらっていい?」
「どーぞー」
お弁当を食べ終えて赤いパッケージを開封。ポキリと小気味いい音を立ててかじったら、隣の川西に1本さらわれた。
1本くらい食べられたってなんてことないけど。
「けんじろーもいる?」
「ん」
ついでに逆隣のけんじろーに食べるか聞いたら、珍しいことに食べるらしい。どんな風の吹き回しかと思いながら1本つまんで差し出したら、そのままけんじろーの口に入った。
意外すぎてびっくりなんだけど。どしたの?けんじろーそういうことするキャラじゃなくない?
「大平さんと牛島さんも食べます?」
「もらおうかな」
「戴こう」
「俺も欲しい」
「どぞー。五色も食べる?」
「ありがとうございます!」
センパイにはそのまま袋を差し出した。五色はなんか取りづらそうだったから取り出してあげたんだけど、もっと困ってたから1回袋ごと渡して返してもらった。
私そんなに怖い?
ちょっと悩みながら新しい1本を口に入れながらポッキーを食べる男子を見てたら、不覚にもかわいいと思っちゃった。タイプはみんな違うけど、そこらの男子よりずっと男っぽいしガタイもいい。それなのに、ポッキーつまんで食べてるんだよ?熊が冬眠のために集めてたリンゴを大事に持ってる感じ。
て言うかこの人たちが摘まむと極細じゃないのに極細に見える。対比ってやっぱりすごい。
「あ、瀬見さんも食べます?」
「…おう」
後ろにいた瀬見さんにも袋を差し出したけど、なんか不機嫌?
そう言えば瀬見さんだけずっと黙ってたし、私と一緒で無理矢理連れてこられたのかな。
「決ーめた!」
ようやく決まったらしい天童さんが高らかに声をあげた。
「7番と4番がポッキーゲーム」
「はぁ!?」
ちょうど瀬見さんが袋から1本取り出した時、天童さんが少し落ち着いた声で言った。
びっくりしすぎて反応しちゃったけど、瀬見さんも反応したってことは…
「やっぱり2人だったー?俺天才っ!」
「瀬見さん、まさか…」
「4…」
一番当たりたくない時に当たった。
「天童さんマジでゲスい」
「もー!そんなに誉めてもなんにも出ないよっ」
「誉めてないです!バカなんですか?!」
「そっそんな!ハレンチですよ!!」
「五色そんな言葉知ってたんだな」
「なにか問題でもあるのか?」
「牛島さんは後ろ向いてましょうお願いしますから」
「途中で折ったりすんなよー」
「別に折ってもいいんじゃないか?」
外野は他人事だと思って勝手に盛り上がってるしなんなの?
「絶対ヤダ」
「あれあれ〜?咲菜ちゃんそんなこと言っていいのォ〜?」
天童さんの距離が近すぎて、周りのようすはほとんど見えない。肌で感じる空気は大きすぎる期待を孕んでる。
「王様の命令はー?」
「…絶対」
「だよねェ〜?」
嵌められたとしか思えない。
「英太くんポッキー持ってるし、ちょうどイイネ」
「なんにもちょうどよくないです」
天童さんがようやく離れて空気だけじゃなく部室が見えたけど、表現するのが難しい熱気が満ちてた。牛島さんはなんでけんじろーに後ろ向かされてるの?素直なの?あと五色、指の隙間そんなに開けてたらなんにも隠せてないからね。隠すつもりないでしょ。スタンバってる大平さんが意外すぎてすごくヤダ。
この状況じゃあ反論したところで退路はないだろう。ここで引き延ばして後でなにか言われたりするくらいなら、途中で折って適当に終わらせればいいか。全然喋らない瀬見さんも同じ事思ってるんだと思うし。
「さっさと終わらせましょう」
瀬見さんと向かい合うと、ポッキーが口に入ってきた。その向こう側を瀬見さんがかじって、気付いてしまった。
めちゃくちゃ近い。もっと恥ずかしがってると思ったのに、全然そんなことなかった。妙に真剣な目と視線が絡む。
どうしよう今すぐ折りたい。でもこの長さで折ったら、天童さんのことだからまたやらされるに違いない。
「咲菜ちゃん照れてるの〜?」
天童さんうるさい!他人の顔をこんな至近距離で見ることなんてないんだからしかたないでしょ!
そう反論したくてもできる状況じゃない。私の遅すぎるペースに合わせてるのか、瀬見さんもやたらとゆっくり進んでくる。視界の端では興味深々なみんなが見える。恥ずかしすぎて泣きそうなんだけど。
「頑張れ〜」
「なんかこっちが緊張する」
「いいからさっさと終わらせてください」
しかもけんじろーはすごく勝手なこと言ってるし!私だってやりたくてやってるわけじゃないのに!
もう耐えられない。ポッキーの全体の3分の1ほど進んだところで折ろうと決心した。瞬間。瀬見さんが今までよりも大きく進んできた。
急なことにびっくりして、折るより先に逃げそうになった。
「お!」
それを阻止したのはまさかの瀬見さんだった。後頭部に手が添えられて固定される。もう片方の手は私の手を掴んでるから、体を引くこともできない。
なにこれ。なんでこんなことになってるの?ああヤダ、もうほとんど残ってない。息遣いもわかる距離なのに、緊張のせいか全然わかんない。顔が熱い。恥ずかしい。
「うわ、」
「照れてる咲菜ちゃんかぁんわいい〜」
もうムリ。ホントムリ。この後どうなったっていいからもうやめたい。
そう思って天童さんのふざけた声が聞こえた瞬間折ってしまおうとしたのに、ほとんど残ってなかったポッキーを瀬見さんが私の口と一緒に一口で食べた。
「んぅっ!?」
恥ずかしいわびっくりしたわで逃げようとしたけど頭抑えられてるし、私の手を掴んでたはずのもう片方の手はいつの間にか背中に回っててほとんど身動きがとれない。反射的に目を閉じちゃったから、今更開けることもできない。
折れたポッキーはほんの一瞬2人の間にあったけど、あっという間に瀬見さんの口のなかに消えていった。
「んんー!」
少しの隙間も埋めるように抱きしめられてるから瀬見さんの背中を叩くけど、全然離してくれない。そうこうしてる間に、なんか口のなかに入ってきた。
「んぅっ…」
息ってどうやってするの?今なにが起きてるの?と言うか!私の口のなかのコレは一体なに!?聞きたくない!
「ふっ、ぅ…はぁ、ん…っ」
背中に回った腕は離れてないけど、ようやく瀬見さんが離れてくれた。必死に酸素を取り込むけど、それでも足りないのか頭がぼうっとする。視界もなんか歪んでる。
「…やべぇな」
「最初叩いてたのに、途中から六坂が瀬見のシャツ掴んでるのとかな」
「たまにビクッてしてましたね」
「声!六坂さんの艶っぽい声!」
「俺、五色の意外な耐性にさっきから驚いてるんだけど」
「咲菜ちゃんのキス顔見たかったなァー」
みんな勝手なこと言ってるけど、いつの間にか少し位置が変わってて私の姿はちょうど瀬見さんに隠されてたらしい。
「誰がお前らに見せるか!」
見られなくてよかったと思ってたら、瀬見さんが急に声を張り上げた。そのあと瀬見さんに引っ張られるまま部室から出た。
「あの、瀬見さんっ」
少し進んだところで足は止まったけど、瀬見さんはどこか不機嫌なまま。
「…悪い」
低く掠れた声で謝られて、恥ずかしいよりも驚いたが勝った。いや、恥ずかしくもあるんだけどね?
「しっ仕方ないですよ、天童さん言い始めたら聞かないし」
私の気持ちもよくわかんないまま、口だけが適当に動く。そんな私の口を止めたのは、振り返った瀬見さんだった。
失礼だと思いつつ、ついさっきのことを思い出してつい視線を外してしまった。
「そうじゃなくて…知ってたんだ」
「え?」
「天童がポッキーゲームって言い出すの、知ってた」
なんで?それに知ってたってなに?
「付き合ってんのに全然進まなさすぎるって天童が」
「はっ話したんですか!?」
「話してねぇよ!…誘導されただけで」
たぶんだけど、天童さんにカマかけられたんだろう。
瀬見さんは良くも悪くも嘘がつけないから、いやに勘が鋭い天童さんにかかったら全部バレちゃうんだろうな。
「でも、ポッキー持ってたの私だけだったし、私が持ってなかったら出てこなかったですよね?」
「あんパンの日とかスイカの日とかよくやってただろ?だから絶対持ってくると思ってたんだと」
そう言えばスイカの日は合宿だったことを利用して、部員全員巻き込んでスイカを食べたんだった。
「じゃあ番号は…」
「天童なら余裕で当ててくるだろ」
伊達にゲスブロック極めてないってこと?なにそれ怖い。
「あと、お前白布と近すぎ。同学年だから仲良いのはわかるんだけどさ」
「それだったら川西もじゃないですか?」
「白布だけ名前呼びだろ」
そう言われればそうかも。でもあんまり意味ないんだよね。名が体を表しすぎてたのが衝撃的でそこから呼んでるだけ。
「いい加減俺も名前で呼べよ、咲菜」
初めて呼ばれた名前に、また顔が熱くなる。
「たまにムカつきすぎて白布のこと殴りそうになる」
「そ、それはやめたげてください」
「俺もそんな理由で後輩殴りたくないからさ、名前呼んで」
「え」
「ほら」
「…え、えーたさん」
初めて呼んだ名前は、たった3文字なのにすごく重くてふわふわしてた。
「次からそれな」
「む!ムリですよ!恥ずかしい!」
「もう恥ずかしいことしたろ」
そうだった!みんなの前であんなこと!
「もうお嫁にいけない」
「は?どこに嫁にいくんだよ」
「わかんないですけど、人前であんな恥ずかしいことしちゃったら貰い手ないですよぉ」
「俺がもらうから別にいいだろ」
なんか、今日は瀬見さんにびっくりさせられてばっかりだ。
「咲菜が嫌なら仕方ねぇけど」
「瀬見さんこそ、イヤじゃないんですか?」
「嫌いなヤツと付き合ってねぇよ」
そうだろうけど、急展開すぎませんか?
「言っとくけど、本気だからな」
瀬見さんの目はどこまでも本気で、否定するつもりもないけど否定を許してくれそうにない。
「あと名前!」
そう言って再び手を引かれて歩き始めたけど、どこに行ったのかは内緒でお願いします。