2人で紡ぐ糸の色
「今日はどうするのー?」
「へ?」
雪絵に聞かれて頭の中で今日の予定を検索したけど、バイトもなければ見たいドラマもない。
そんなざっくり予定と言われても、ピンとくるものがない。
「今日は特に予定なし、かな」
「えー!せっかく部活ないのにー」
「あ、バレー部休みなの?」
「体育館の点検だって」
「そうなんだー」
「そうなんだーじゃなくってー」
雪絵はモヤモヤするのか納得いかない顔をしてる。
「咲菜ホントーになにもない?」
「え?うーん…」
もう1度考えたけど、やっぱりなにもないと思う。
「今日、赤葦の誕生日」
「うっそ!マジで!?」
「こんな嘘つかないよー」
どうしよう。知らなかったとか、それって彼女としてどうなんだ。
「マジで知らなかったんだぁ」
「だってそんな話にならなかったから…」
「でも赤葦は知ってるっぽいよー?」
「何を?」
「咲菜の誕生日」
「え」
なんで赤葦くんが私の誕生日を知ってるの?教えたりしてなかったと思うんだけど…
「女子がなにを好きかこの間の部活で聞かれたんだよねー」
「別に私じゃないかもしれないじゃん」
「赤葦が気にする女子なんて咲菜だけだよー」
もし本当にそうなら嬉しいけど、違うかもしれないじゃん。
「とりあえず一緒に帰ったら?」
「手ぶらなんて無理だよ!明日なら」
「でもー、誕生日は今日だよ?」
「そ、うなんだけど…」
でも知らなかったなんて言えない。いや、渡すのが明日になる時点で言い逃れなんてできないけど。
「とりあえずー、一緒に帰りな?」
「そうですよ。今日は一緒に帰りましょう、六坂さん」
「ふぇあ?!」
雪絵と話してたのに、まさかここにいないはずの声が聞こえて本当に本気でびっくりして文字にできないような変な声出た。
「あっ赤葦く!いつから!?」
「今ですけど、なにか不都合でもありましたか?」
じゃあ誕生日の話は聞こえてないってこと?
「よかった」
「なにがよかったんですか?」
「ううん、なんでもないから気にしないで」
「…わかりました」
「え、ちょっと待って!」
「なんですか?」
「なにって…」
端的な返事をして赤葦くんはそのまま教室から出ていこうとするから、私が引き留めるしかなかった。
「雪絵に話があったんじゃないの?」
「ないですよ」
「え」
「俺は六坂さんと話に来ただけなので。じゃあ、放課後迎えに来ますね」
謎な言葉を残して、赤葦くんは今度こそ教室から出ていった。
本当に雪絵に話なかったの?いつも部活連絡の時にしかクラスになんてこないのに、なにもなくここまでくる?
「雪絵なんかわかる?」
「うーん、赤葦が頑張ってるってことー?」
「え」
なにそれ。いつも冷静で何事もスマートにこなしてる赤葦くんが頑張ってる?そりゃあ部活は頑張ってるけど、たぶんそう言うことじゃないよね…
「放課後頑張ってねー?」
「え?あ、うん」
それと、物怖じせず上級生の教室に入ってきた赤葦くんのメンタルがすごすぎると思う。
▽▽▽
あれからずっと考えてたけど、赤葦くんが何を頑張ってるのかいまいちよくわからなかった。
物は試しと雪絵に聞いても「咲菜が気付かなきゃダメでしょー」なんて言って教えてくれない。漫画のライバル役みたいな赤葦くんが何を頑張ってるのかなんて、モブの猫くらいの私には全然思い付かない。
「六坂さん」
「あ、わざわざごめんね」
「いえ、俺がしたくてしてることなので」
クラスまで迎えに来てくれた赤葦くんを見て、雪絵やクラスの友達に冷やかされるのを聞き流して赤葦くんの元へ向かう。
考えるのは1度やめよう。私は今日だと判明した赤葦くんの誕生日についても考えなきゃいけないんだから。
「お待たせ」
「帰りましょうか」
「うん」
並んで帰ることは、正直なところほとんどない。強豪校で先輩に紛れてスタメンとしてチームに貢献している赤葦くんと、片や帰宅部でなんとなくバイトをしている私じゃあ時間が合うわけがない。
それでも、こうして一緒に帰ることが初めてってわけでもない。だからこそこの違和感が引っかかる。
「赤葦くん、怒ってる?」
「怒ってませんよ」
「そう?」
「なんでそんなこと思うんですか」
「だって…」
なんか、いつもと違う。よくわかんないけど、雰囲気?が違う。
「六坂さんこそ、なにか隠してますよね」
「え?」
隠してること?
「昼に迎えに行くって言いに行った時、なにか隠しましたよね」
あ…
「あれ?なにも隠してないよ」
「じゃあ俺に教えて下さい」
「え…っと」
「言えないんですか?」
「や、そうじゃないけど」
だって彼女として失格としか言えないようなことだし、できれば言いたくないんだけど…
「やっぱり隠すじゃないですか」
「そんなことないよ!」
「なら教えて下さい」
言わないと、たぶん赤葦くんは怒る。でも言ったとしても怒る。それなら、理由がわかる状態で怒られた方がいい。
そう結論付けて、私は重い口を無理矢理開いた。
「お昼に、初めて知った」
「何をですか?」
声が喉に詰まる。声がこんなに重さを持つものだなんて知らなかった。
「雪絵から聞いたんだけど、」
「はい」
「今日、誕生日だって」
「ああ」
「知らなくてごめん」
「そんなこと気にしてたんですか?」
「は?」
そんなことって…は?
「なに、それ…」
「教えてなかったから知らないだろうなとは思ってましたから」
「教えてよ!雪絵に聞いてびっくりしたんだから!」
「別に誕生日くらいいいかと思って」
「よくない!」
赤葦はわかってない。誕生日はその人が生まれてきたこと成長してきたこと、その奇跡に対して感謝して祝う日なんだよ?それをそんなことなんて…
「すみません」
「なんで赤葦くんが謝るの」
「六坂さんがそんなに誕生日を重要視してると思わなかったので」
「赤葦くんは私の誕生日知ってるでしょ」
「いえ、明確にはまだ聞いてないです」
「まだ?」
「はい。木兎さん達から俺より遅いってことは聞いたんですけど、日にちまでは」
「じゃあ女子が好きそうなもの聞いてるってのは」
「今後のためにも聞いておいて損ではないかと思ったので」
「なにそれ…」
雪絵の勘違いってこと?
「せっかくなんで六坂さんの誕生日教えて下さい」
「なんで」
「俺の誕生日は知ったじゃないですか」
「雪絵からね!」
しかも当日!そのせいで、
「なんにも用意できてないよ」
そんなに情けないことになるとは思ってなかった。もっとスマートにお祝いしたかったのに。
「俺はなにもいらないんですけど」
「は?」
まだそんなことを言うのかと思うより早く、不機嫌丸出しの声がこぼれた。
しまったと思ったけど、赤葦くんがまったく気にしてないみたいだから次から気を付けよう。
「そんなに気にしてくれるなら、1つだけお願いしてもいいですか?」
「うん。と言うか、別に1つじゃなくてもいいよ?」
普段から控えめだとは思ってたけど、誕生日くらいわがまま言ってもいいと思うんだけど。やっぱり私が年上だから気にしてるのかな?
「気安くそういうこと言わない方がいいですよ」
「なんで?」
「俺が思ってること全部言ったら、六坂さん引くと思うので」
「ふーん」
その時はなに言われるんだろう。あいにく男子がなに考えてるのかなんてまったくわかんないからな。木葉に聞いたらわかるかな。
「プレゼントとかそう言うのいらないんで、名前呼んでください」
「…へ?」
名前?
「別にいいけど…」
「じゃあ今からよろしくお願いします」
「え?うん」
名前?名前なんていつも…あ、え、もしかしてそういうこと?ちょっと待ってよ心の準備ができてないよ。
「さっき1つじゃなくていいって言われたんで、もう少しいいですか?」
「う、うん」
「時間が作れないのは申し訳ないんですけど、またこうして帰ったりでかけたりしませんか」
「、し、します!」
そんなのわがままでもなんでもないよ。私からしたら願ったり叶ったりなお願いだよ。
「咲菜さんには我慢させてるんじゃないかとずっと思ってたんで」
「そんなこと…」
我慢なんてしてないけどなぁ。
「もしも許してくれるなら、バイト終わりも迎えに行きたいです」
「いや、それは帰りが遅くなるからいいよ!」
「小見さんはしてるじゃないですか」
待って。なんでそれ知ってるの?隠してたわけでもないけど、特に話してもないと思うんだけど。
「小見さんから直接聞きました」
あのアホ!トマト!
ホント!もー!バカ!
「それは家が近かったから」
「近所の男が送るのはよくて、彼氏が彼女を送るのはダメなんですか?」
「ダメじゃないけど」
練習の後に家の方まで来るとか疲れるだけだよね?それってこれからある大会に響いたりしない?
「咲菜さんが心配してることはたぶんあり得ないんで気にしないでください」
「本当にいいの?」
「はい」
本人が言うならそうなんだろう。
でもそうか。そうなったらバイト終わりに赤葦くんに会えるのか…あ、ダメだ。嬉しくてにやける。
「どうしたんですか?」
見られた!
「えっと、バイト終わって赤葦くんに会えるって考えたら、嬉しいなぁって思って」
「名前」
うっ…
「直してください」
「け、京治くん…」
「はい」
うう…赤葦くんのこの表情がすごく好き。ふわって笑うの。でも見慣れないしかっこよすぎるから、すぐに目をそらしちゃうんだけど。
雪絵に言っても絶対にわかんないって言われるだろうけど、雪絵は部活で見慣れてるんだよ。今度写真でも撮ってもらって慣れるように練習しようかな。
「咲菜さんが無意識なのはわかってるんですけど、あんまり言わないでくださいね」
「なにを?」
「これから教えていきますけど、まずは名前に慣れてくださいね」
「…はい」
それよりも、早急に名前を呼ぶ事に慣れなきゃダメだ。そうしなきゃ私死んじゃう。
「ねぇ、やっぱりプレゼント用意するよ」
「気にしないでください、もうもらったんで」
「…?」
そう言われても「はいそうですか」なんて言えないよね。帰ったら早速考えなくちゃ。