ひねくれものの恋の歌

それほど頻繁ではないとはいえ、雪も降るこの季節。
正直なところ、少しの時間でも外で待つのはそれなりに寒い。息が白むのを見ながら、冷たいポケットの中でなんとか暖をとろうと足掻いてみるけど、いまいち効果はなさそう。

「六坂!」

呼ばれた声に顔をあげると、澤村が少し急いだようにかけよって来るのが見えた。

「悪い、待たせた」
「大丈夫」
「嘘つくなって。ほら」

ポケットに突っ込んだ手を引っ張り出されて握られると「なんで冷たいんだよ」なんて笑われた。

「ポケットに入れてなかったのか?」
「家からずっと入れてたんだけど、全然あったまらなくて」
「ほら、左手出して」

実際待ってた時間はそう長いものじゃないから嘘はついてない。

言われるがままに手を出すと、澤村の左手の手袋が私の左手につけられる。
あれ?と思う間もなく、私の右手は澤村の左手と一緒に澤村のコートのポケットに引き込まれた。

「澤村?!」
「これなら転んでも大丈夫だろ」

あったかい左手が急激に熱を失っていく感じがした。

あ、そういうこと。私が勝手に緊張してるだけか。そうだよね、春高で勝ち抜いた澤村が私程度に緊張なんてするわけないか。
なんか、私ばっかり澤村のこと好きみたいじゃない。

「どっか入るか」
「え?」
「暖まってから動いても遅くないだろ」
「でも」
「ほら行くぞ」

澤村が歩き出すと右手が引っ張られて、そのまま右足も出る。そうしたらもう歩き始めるしかない。

「あんまり遅くなると夜つらくない?」
「菅原達とお参りに行くだけだから気にするなって」

笑っているから、たぶん本当なんだろうとは思う。でもうまいこと思ってることを隠しちゃうから、ちょっと心配。

「ねぇ、本当に何かできることない?」
「六坂がいてくれるだけで充分だよ」

最近気づいたんだけど、それって少し寂しいよね。ひねくれてるだけなんだろうけど、私は必要とされたい。

鞄の中身を意識して、繋がれた右手に少しだけ力を入れた。

「私じゃあ澤村の助けになれない?」
「は?いや、そうじゃなくて、あー、どうしてそうなったのか聞いてもいいか?」

完全に足が止まる。人通りはそう多くないから、このまま立ち止まっててもたいした問題ではないだろう。

「一緒にいるだけって、ただのお荷物かなって思ったの。こんなの考えすぎだってわかってるんだけどね」

言い切ると、不安なのかわからないけど右手から力が抜けていく。

「いや、六坂が考えるタイプだってわかってたのに勘違いする言い方した俺が悪い」
「そんなことないから謝らないで」
「…わかった。でもこれだけは言わせてくれ」

緩んだ繋がりを再度しっかりと繋ぎ直した澤村と目が合う。

「俺は六坂がいてくれるだけでなんでもできる気がするんだよ。六坂が隣で笑っててくれるだけで、俺は幸せになれるんだ」

そんなまっすぐ見ないでほしい。そんなこと言われたら…

「あ!え、なんで泣くんだよ、なんか不味いこと言ったか?」
「違うの、」

その気持ちは私にもわかるんだよ。
澤村が元気でいてくれること。大好きなバレーに全力で向かってるところ。部員や友達と楽しそうにしてるとき。私を見つけて手を振ってくれたとき。

「私、澤村と同じ世界に生まれてよかった」
「規模がでかいな」
「それくらい大地の事が好きなんだよ」
「…へ?!」

こっそり用意した鞄の中身は、お互い少し落ち着いたときに渡そう。