2段飛ばしで駆け上がる
「うるせえブス!」
「ハゲろアホ!」
事の発端はわからないくらい些細なことだった、と思う。数分前のことだってのに全然わかんねぇ。
クラスでは「またやってるよ」と呆れられるくらいには日常茶飯事。いい加減ケンカ売るなとか言われるけど、俺だって怒らせたいわけじゃねぇし、ブスなんて思ったこともない。
俺の口はとんだあまのじゃくだ。
「二口なんて知るか!バーカ!」
「バカじゃねーし。あ、おいどこ行くんだよ!」
「トイレだよ!ついてくんな変態!」
昼休みも終わるってのに、教室から出ていった六坂を追いかけることはできなかった。
トイレって言われてついていけるかよ。
「あんた達さぁ、ツンデレが過ぎるんじゃない?」
「あ?」
ため息混じりに吐かれた言葉に顔が歪むのがわかった。ツンデレ?あれが?
「そんなかわいいもんじゃねぇだろ」
ツンデレって「別にあんたのこと好きじゃないんだからね!勘違いしないでよね!」とかいうあれだろ?残念ながら六坂にそんなかわいげねーわ。
「別に二口が咲菜のことかわいいと思ってようがブスだと思ってようがどうでもいいけど、あんたも素直になりなよ」
…こいつ六坂の友達だよな?六坂も俺に言われたくないだろうけど、どうでもいいは酷くないか?
「2人で素直にならないとあんた達は絶対にぶつかるでしょ」
俺はいつだって素直だよ。何度そう思ったところで、売り言葉に買い言葉でいつもぶつかってることに気付いた。
素直に返した結果がこれだっつーの。
「わかったらさっさと追いかけなさい」
「なんでだよ。トイレなんかについていけるか」
「二口って真性のバカ?そんなもん言い訳に決まってるでしょ」
はぁ?言い訳ならもっと他の場所言えよ。
「今頃その辺でぴーぴー泣いてるわよ」
「お前、六坂の友達だよな…?」
あんまりな言い方に不安になって聞いたら「友達だからわかんのよ」なんて強気すぎる発言が帰って来た。
「いいからさっさと行け」
「へいへい」
女子ってわけわかんねー。つーかマジでトイレだったらどうすんだよ。そうだったらあいつ後ではっ倒すわ。
教室から飛び出した方向に進んで、階段まできて一瞬悩む。六坂だったら上にいくか下にいくか…なんとかは高いところが好きとか言うから上いくか。なんて軽い気持ちで上っていくと、マジで鼻をすする音がした。
やっぱり六坂はバカだったんだな。
「お前、ここトイレじゃねーけど」
「なんでついてきたのよ変態」
憎まれ口は健在でも、声は全然誤魔化せてない。
強がるならもうちょっとなんとかしろよ。つーかトイレじゃなかったなら変態じゃないだろ。口から飛び出しそうになった言葉をかろうじて飲み込んだ。
「あーはいはい、変態でいいですよ」
「キモいバカハゲろ」
「俺はキモくねーしバカじゃねーしハゲねー」
「ハゲるかも知れないじゃん」
「ぜってーハゲねーからな」
ここで言い返したらいつもと同じだ。こんなところまでわざわざケンカしに来た訳じゃねぇ。
「戻らねぇとチャイム鳴るぞ」
「こんな顔で戻れるわけないでしょっバカなの?」
「あーはいはい、すいませんでしたー」
全然顔あげないからどうなってるのかわかんねぇけど、そのまま戻れるわけないか。
泣いてるやつになにしたらいいかとかわかんなくて、伸ばして一瞬止めかけた手をそのまま六坂の頭にのせた。考えるまでもなく初めて触った六坂の頭はちっせーし、髪は俺と違う手触りがした。
「二口が優しいとか気持ち悪いぃぃぃ」
「お前ほんっとかわいくねぇな」
「ブスやめたいのに、舞ちゃんみたいになりたいのにぃー」
「は?誰それ」
「あんたんとこのマネージャーの名前くらい覚えときなさいよー」
ああ、滑津のことか。つーかなんで滑津?
その他にも、六坂がぐちゃぐちゃ言うのを適当に聞いてるてるうちにチャイムがなった。別に次普通科授業だからいいけど、六坂の苦手な授業じゃなかったか?
「あー、なんだ、お前別にブスじゃねーから、気にすんな」
「いつもブスって言うくせに!」
「それはあれだ、売り言葉に買い言葉みたいな」
「なにそれ」
「だからブスとか思ってねぇから」
「思ってもないこと毎回言われる私の気持ちよ!」
「あー、それは悪い」
「二口が謝ったぁー」
「なんだよそれ!」
何言っても泣くのかよ。こんなのめんどくさいだけなのに、六坂相手だとしょうがねぇなって気持ちになるんだからわけわかんねぇよ、ホント。
「六坂はブスじゃねぇから安心しろ」
「嘘つき」
「嘘じゃねーし。ブス相手に追っかけてまで慰めねーよ」
「…ゴメン」
「あ?なにが」
「二口誕生日なのに授業サボらせた。プレゼントどっか落とした」
「お前知ってたの?つーか落としたって、え?」
「知ってたよ…だからゴメン」
怒ったり泣いたり落ち込んだり、話があっちこっち飛んだり、忙しいやつだな。
「別にいいよ、そんくらい」
「二口ならそういうと思ってた」
「おい」
でも、もらえるって言うならもらっときたいよな。
「じゃあくれねぇ?」
「なにを?」
「六坂」
「いいよ」
「マジで!?」
「嘘でこんなこと言えるわけないでしょ」
六坂首まで真っ赤なんだけど。俺もなんかあちーし、絶対赤い。六坂がずっと下向いててよかった。
「帰り、先帰んなよ」
「うん」