-1日

…さて、とても困ったことになりました。
いえ、なにも天変地異だとかいきなり両親が離婚したとか、そんな取り立てて大きな困ったことではありせんが。恋する乙女としてはとても困ったことなのです。

バイトに勤しんでいたら、8月は恐ろしい早さで通りすぎていました。適度に暇な大学生を謳歌しているので、今月振り込まれるお給料がとても楽しみです。
しかし、誠に勝手ながらその2日後にお誕生日を迎える方になにかして差し上げたいと思っております。所謂サプライズです。まぁ察しの良い人なのでどこまでできるかわかりませんが、あっと言わせてやりたいですね。あわよくばその眼鏡に指紋を着けて差し上げたいです。

さて。私がいくらつらつらと語ったところでなんのことかお分かりにならないと思いますので、端的に申し上げましょう。

私がずっと片想いしているお相手が来月末お誕生日を迎えるのです。

え?一部妙な言葉が混じってましたか?それは愛故です。溢れ出る愛故にちょっと意地悪したくなる、小学生男子のような考えだと思ってください。
そもそも2m級の小型巨人のような人の眼鏡に平均身長である私の手がそう簡単に届くはずがないじゃありませんか。あ、これも別に悪口とかじゃありませんよ?愛故です。別にMとかでもないので、そこのところはお間違いなきよう。

問題は、彼の趣向をあまり詳しく知らないことなんです。なぜなら知り合って日が浅いんですよ。出会いは大学入学1週間後にあった学年講義で、偶然隣に座る機会があったんです。そして更に偶然なことに、彼のお友達と他の講義がいくつか被っていてすでにお友達となっていた程度。
たったそれだけの関係なので詳しくなくて当然です。連絡先すら知りません。私が知ってることと言えば、顔は広いけど交遊関係はあまり広くないと言うことくらい。例えるなら社交的な人見知りと言ったところでしょうか。

「六坂ちゃん、なんか悩んでるみたいだけど大丈夫?相談なら乗りますよ?」
「いえ、大丈夫です」

週中日ということもあり、店内は閑散としているとまでは言わないけれども、落ち着いた営業と言って概ね間違いないでしょう。
それ故に、こんなバイトとまったく関係ないことをずっと考えていられるわけですが。

「バイトのこと?学校のこと?」
「どちらかと言えば学校ですかね」
「授業とか?」
「まぁそんなところです」
「それは俺にはわかんないかぁ」

週に1回だけ被る講義が楽しみすぎると言うのも、授業の悩みに違いないと思いますし。

「あ、でもバイトしてて留年とかしないでくださいね?そんなことになったら店長ひっぱたくんで」
「そんなことにならないように気を付けますので、店長には優しくしてあげてください」

それにテスト前はちゃんと休みもらってますし。前期留年するほど単位落としてませんし、後期だって落としません。

「てゆーか夏休みどっか行った?」
「ずっとここにいましたけど」
「やたら被るなーと思ったけどずっといたんですか?」
「週に5日から6日ほど」

学生の稼ぎ時ですからね。どっか行く予定もなかったのでがっつり稼がせていただきました。
別に友達がいないわけじゃないですからね。みんなサークルとか彼氏と遊ぶので忙しいようなので、私は有意義に過ごさせていただいただけです。

「ちなみに何時から?」
「早いときは10時ですね」
「立ち上げ!?そりゃあずっといるって表現にもなるかぁ」

先輩は年齢こそ私より下だけど、バイト歴は私よりもずっと長い。だから先輩。
ちなみに、年上はちゃん付けで、年下はさん付けで呼ぶように教育された不思議な人です。

「勉強の事はわかんないですけど、無理はしないでくださいね」
「ありがとうございます」

…あれ?そんな深刻そうに見えてたってことですか?まったく深刻じゃないし、そんなに心配してもらうようなことでもない。
と言うか、心配されたところでどうにかできるものでもない。こればっかりは、どう喚いたところで私が何とかしないといけないことなのだから。

「すいませーん」
「はーいっ」
「私行ってきます。只今お伺い致しますっ」

暇だと余計なことを考えていけない。悩んだところで今すぐ答えが出るものでもない。それなら、1回くらい保留にしたところでなんの問題もないでしょう。

私は無駄な思考を無理矢理止めるべく、先輩を制してオーダーを取りに走るのでした。