あまのじゃくな恋心
クロの誕生日はいつも困る。人気者で基本的にクラスの中心近くにいて、部活では面倒見の良さから後輩にそれはもう慕われてる。更に3年にもなれば友達がいろんなクラスにいることになるから、あっちこっちから声をかけられてなかなか一所にいない。
要するに、時間がない。同じクラスだったら話しかける事くらいできただろう。だけど悲しきかな、私はクラスが違うのだ。会いたくて会えないのが悲しいなら、初めから会わないようにすればいい。だけど同じ学年の友達の所なんかに行ったら結局クロに会っちゃう。それじゃ意味がないから、今年は研磨のクラスに来た。
「だからってこっち来ないでよ」
「いいでしょ、ゲームの邪魔してないしこの隙間に入って下向いてれば学年もわかんないし」
「上履きでわかるから」
忘れてた。研磨に言われてから足をギリギリまで体に引き寄せるけど、上履きは隠せないだろうね。
「恥じらいないの?」
「パンツはちゃんと防御してるから大丈夫」
「そうじゃなくて…」
それきりなにも言われなくなったのは、めんどくさくなったのか呆れきったのか。どっちかわからないけど、研磨はゲームに集中することにしたらしい。
通りすぎるクラスメートの視線が私に向くとどうしても研磨もその人の視界に入るから、あんまり集中できないんじゃないかな。申し訳ないと思うけど、チャイムがなるまでここにいさせてもらおう。
よく考えたらさ、ここにいてもクロが来る可能性あったよね。部活一緒だし、なにより幼馴染。まぁ少なくとも今は来ないか。それなら次はどっか他のところに行かないとダメだな。どこがよかったかな…トイレはちょっとやだから、保健室とか?
「研磨!教科書借りてーんだけど…って!けけけ研磨お前誰後ろにはめてんだよ!」
「クロの彼女」
「クロさんのかかかかか彼女だと!?なんでクロさんの彼女さんが研磨んのとこにいんだよ!」
「拗ねてるんだよ」
すねてないと思って椅子をどついたけど、金属のところに頭をぶつけて痛いだけだった。痛すぎて涙出そう。それより、このやたら噛んでるモヒカン誰だったっけ?みたことはあるんだけど、ちょっとよくわかんないや。
なんだかここにいるのも違和感を感じ始めたから、私は研磨の影から立ち上がった。そうすれば大袈裟にモヒカンが距離を取るんだから止めてほしい。
「もう行くの?」
「いつまでもここにいられないからね。ごめんね、ゲームの邪魔して」
「たいした邪魔になってなかったから大丈夫」
「ならよかった。じゃあね」
研磨と一緒にモヒカンにも手を降ったけど、緊張しすぎなのかビビりすぎなのか返ってくるものはなにもなかった。私「いかにもヤンキーです」って雰囲気のモヒカンより強いつもりないんですけど。
暇潰しに授業を適当に受けて、休み時間はフラフラと人気のない所を選んで、また暇潰しに授業を受ける。そんなことを繰り返して、お昼は体育館裏のやけに細い空間に身を落ち着けることにした。この隙間、ある意味がわからない。それでも私が身を潜めるにはもってこいだ。今日はここでお弁当を食べて、ついでに暇を潰してしまおうと思って腰を落ち着けた。
「こんなとこでなにやってんだよ」
お弁当も半分がなくなった頃、薄暗いこの場所に更に影が射した。それが誰かなんて声でわかるから、無視してお弁当をつつき続けた。
「ご一緒してもいいですか?」
やだと言ったところでクロがどっかに行くわけがない。案の定、無視したのに隣に座ってペットボトルのコーラを傾けた。
「なんでこんなとこにいるんだよ。研磨のとこにも行ったんだろ?なら俺のとこに来てもよかったんじゃね?なぁ、なんでそんな機嫌悪いんだよ…拗ねてんなってえ!」
無視したところでクロはしばらく勝手にしゃべってたけど、ちょっとうるさくて頭突いたら大袈裟に驚いてまたムカついた。
「拗ねんなよ」
「すねてない」
最後の卵焼きを放り込んでからお弁当箱をさっさと片付けて立ち上がると、おもむろに腕を引かれて地面へ逆戻り。
「おい待てって」
地面に戻ったならまだよかったかもしれない。腕を引かれると同時に腰に腕が回されて、着地したのがクロの膝の上とかホントやだ。
「暴れんなって、ほら落ち着け」
暴れたところで私よりデカくて筋力のあるクロに勝てるわけがない。がっつり抱え込まれて身動きがとれなくなる。
「やだ!離して!」
「俺が悪かったって。だから逃げんな」
「やだ!」
「さすがに傷付くわ」
暴れに暴れて意地でクロの膝から立ち上がると、うなだれたクロがそこにはいた。なんだかそれが捨てられた犬みたいに見えて、私はなんとなく離れるわけにいかない感じがして隣に座り直した。そうしたら、クロはそろりと抱き着いて来る。
「嫌いになった?」
「なってねぇけど、避けられたら傷付く」
「クロ忙しそうだったから」
「忙しくねぇよ」
抱きつかれてるからクロの顔なんて見れないけど、それこそすねた顔してるんだと思う。
でも、忙しくないなんて嘘だってわかってるんだから。あっちこっちから呼ばれてたの知ってるんだから。でも、自分から進んで行ってたわけじゃないこともわかってる。だってクロ、人気者なだけだもん。
「誕生日に彼女に避けられるとか最悪だろ」
「別に避けてないってば」
「研磨から咲菜が拗ねてるって聞いた」
研磨め、余計なことを…だから面白そうにすねてるとか言ってきたのか。
「学校には来てるのに探してもどこにもいねぇし、研磨に聞いてやっと見つけたと思ったら逃げようとするし」
逃げてない、とは言えなかった。
だって人気者のクロはあっちこっちから呼ばれてフラフラしてて、しかもクロのこと呼ぶのは女の子ばっかりでムカついたんだもん。クロは私のなのに気安く呼ばないでほしい。なんて言ったら引かれそうだから言わないけど。
「頼むから逃げんなよ」
「じゃあクロもあっちこっちフラフラしないで」
こんな言い方したらクロがバカにしてくる。そう思ったところですでに遅い。私の頭の上でクロが笑うのが聞こえる。
「なに」
「ヤキモチかよ」
「そんなんじゃない」
「かわいいことするのやめてくれますか?」
「うるさい」
「はいはい、お姫様の仰せのままに」
「そういうのいらない」
素直になんかとてもなれそうにないけど、クロだけがわかってくれればいい。そうは思えど、クロの態度に納得できるかは別の話。小さく体を揺すって抗議した。
(夜メールするわ)
(早くしないと寝るから)
(いや、そこは待っててよ)
(やだ)
(えー)