今日も明日も変わらずに
今日に限って部活が長引くんだから、本当にイライラする。イライラしたところで仕方ないんだけど。
「ごめん!遅くなったー!」
「俺も今終わったところだから大丈夫」
すっかり暗くなった校門で待っていてくれたのは、なにを隠そう私の彼氏である赤葦くんだ。
ずいぶん待たせてしまったはずなのに柔らかい笑みを浮かべてそれを否定してくれるなんて、今日も私の彼氏がかっこいい。それだけで苛立ちなんて彼方へ飛んでいく。
「部活お疲れ様」
「赤葦くんもお疲れ様」
赤葦くんがカッコいいなんて、そんなわかりきったことでいつまでもボケてるわけにいかない。完全に凍えきる前に少し早足で校門を通り抜ける。
「咲菜は次なにやることになったの?」
「ロープ。どっちかと言うならボールの方が得意なんだけどね」
帰り道の話題は大抵部活のことだ。今日もそれに変わりはない。
「なんとなく新体操ってリボンのイメージある」
「私リボンはできればやりたくないかなぁ」
得意じゃないとは言え、手入れをかかしてないからリボンが絡まるなんてみっともないことはしない。しないけど、スティックを受け止めるのが下手くそを極めてるだけだ。
だってあれ失敗すると手のひらに刺さるんだよ?血は出ないけど、結構いたいんだから。もっとひどいのは、おでこにぶつけたときだったな。あれは痛かった…赤くなったし。
「投げたあとちょっと顔しかめてるもんね」
「え、そんなことしてた?」
「気付いてないんだろうなと思ってたけど、本当に気付いてなかったんだ」
えー…顔には出してないつもりだったのに、出てたとかマジで困るんですけど。赤葦くんやどっかのトリプルフェイスみたいにポーカーフェイス極めよう。
「咲菜はそのままでいいよ」
「え?なにが?」
「なんか考えてるでしょ」
なんでわかったの?たしかにこれからは顔に出ないように頑張ろうとか考えてたけど…
「そんなにわかりやすい?」
「結構わかりやすいよ」
うっそだぁ。
「木兎さんほど分かりやすくはないけどね」
「いや、先輩はわかりやすいを通り越してるから」
しかしわかりやすいと言われるのは納得いかない…いや、なんか悔しい?
「応援来てくれるよね」
この複雑な気持ちになんて名前をつけようか迷ってたら、赤葦くんはちょっとむりやり話題を変えてきた。
そりゃあ行きますよ。いい席取って全力で応援しますよ。
「もちろん!もう少しだよね」
「あと1ヶ月切ったかな」
「もうこれ以上ないほどだと思うけど、頑張ってね」
それがどんなに安い言葉だとしても、どれほど相手の力になるか私はわかってる。たとえ無意味だとしても追い込むことになるとしても、いくらだって声援を送るよ。
「うん、ありがとう」
まぁ赤葦くんがどんな風に受け取ってるか全くわかんないけど、応援するたびに見せてくれるその笑顔がとんでもなく好きなんですけどね!
「ほら、早く帰ろう」
いくら部活をしてて体が暖まってるとは言え、指先はあっさり冷えていく。これからすぐに大会がある赤葦くんが体を冷やす訳にいかない。
「寒…」
今年は暖冬だと言われていてももう12月、時間は夜と言っても差し支えない頃で吹く風は冷たい。それで寒くないわけがない。
無意識に呟いた言葉を拾われたのか、それとも指先に血を送るように手を動かしたのがバレたのか。本当にこの寒さの中で待っててくれたのかと疑うほど熱をもった手に包まれた。
「え、あか」
「繋ぎたかったんじゃないの?」
「ちっ!!」
別にそんなつもりで言ってない!
「違ったとしても、繋げば少しは暖かくなるでしょ」
私のより大きい手のひらに指先をしっかり包まれれば確かに暖かいけど、これは、ちょっと…
「嫌だった?」
「全然嫌じゃないよ!」
しょんぼりした声が降ってきたから、反射的に返事をして見上げれば全然しょんぼりしてない顔で「よかった」なんて言われた。ついでによりしっかり手を握られた。
学校の近くで手を繋いだりとかしたことないからソワソワする。見られたら恥ずかしいから、誰にも見られませんように。
「俺、冬って好きなんだよね」
「突然だね」
「冬ならこうしてても、寒いからって言い訳できるでしょ」
「冬じゃなくても繋ぐよね?」
「そうだね」
赤葦くんは淡白そうな表情を繕ってはいても、なんだかんだで構いたがりな質なのだ。そして私は構われたがりなのだ。要するに、お互いちょうどいいのだ。
「今度の休みデートしようか」
「え、練習いいの?」
「休みの日まで木兎さんの面倒みたくない」
試合が近いのに休みの日に遊んでいいのかと思ったけど、休みなんだからなにをしてもいいのかとも思った。
私だって休みの日はデートしたいもん。
「そんなこと言ったら先輩泣いちゃうよ?」
「めんどくさいから泣かないでほしい」
「なんかいつもより辛辣!」
いつもから優しいだけではないけど、今日は珍しく辛辣なことばっかり言ってるから少し面白い。どこまで本気かわかんないけど、最終的には面倒をみてあげるんだと思う。
「ねぇ、デートどこ行く?」
「どっか行きたいところある?」
「えー、特にないんだよね…出掛けるのも疲れるからさ、お家行ってい?」
「俺はいいけど、咲菜はそれでいいの?」
「うん。赤葦くんといられればそれでいいかなーって思ったんだけど…」
もし家にいても息抜きにならないなら、もちろんどっかに出掛けてもいい。そう思って赤葦くんを見上げたら、手で顔を隠した上で反対を向いてた。
え。なんで?
「ダメだった?」
「いや、ダメじゃない」
「ホント?」
「うん。うちおいで」
本当にいいのかわかんないけど、いいといったからいいんだろう。ダメだったらすぐに言われるはずだ。
「新しい服買ったから、それで行くね」
「楽しみにしてる」
とびっきりかわいくして、ドーナツ食べたいから買っていこう。
次のお休みのことを考えるとテンションだけが上がっていく。そのままふらりと腕に抱きつけば、ぶれることなく私を腕に引っ付けさせてくれる。
「あかーしくん」
「その呼び方はやめて」
「んふふ、あっかあーしくーん」
「なんですか」
「好きだなーって思ったの」
「俺も咲菜のこと好きだよ」
ああ、今日は赤葦くんのお誕生日なのに、私ばっかり幸せになっていいのかな。
デートの日は赤葦くんを喜ばせてあげられるように頑張る!