時と場合による
「あつー!」
「暑いって言うと余計暑くなるから言わないでくれる?」
「だってあちーもん」
「言われなくてもみんなわかってるよ」
バレー部の末っ子エースは我慢が得意ではない。と言うより、思ったことはそのまま言ってしまうタイプだ。だから今日みたいな日は本当にイライラする。
悪意がないことはわかってるんだけどね。それでも、暑くて意味もなくイラついてるときに「暑い」とか言われたくない。
「なんで今日こんなに暑いんだよー」
「また台風が発生したから、雲全部持っていかれてるんじゃない?」
「じゃあまた台風来るの?」
「直撃ではないはずだから前回ほど強くないと思うけど、3連休は雨だね」
「へー」
聞いたくせに興味のなさそうな返事。
天気予報くらい見なさいよ。いや、見てても「室内競技だから天気とか関係ない」くらいに思ってそう。湿度で滑りやすくなるだろうし、そうでなくても多少影響あると思うんだけどなぁ…髪のセットが決まらないとか。
「連休も雨とかやる気削がれるー」
「六坂も練習あるよな?」
「悲しいことにね」
こんな時は屋外競技だったらよかったのにと思うよ。もし屋外競技でも、筋トレとかに変わるんだろうけど。
「なんで悲しいんだよ」
「雨好きじゃないの」
「なんで」
「濡れるから」
「そっかー」
荷物増えるし湿度高いから汗は酷いし、もしも買い出しと言うパシリに決まったりなんてしたらジ・エンド。私の死亡は決定する。
あ、これフラグになりそうでやだな。
「マジあちー」
「もー、木兎うるさい。暑いなら教室にいなよ」
「そしたら咲菜に会えねーじゃん」
「別にあとで会えるじゃん」
「いつでも会いたいの!つーか今日何の日かわかってる?」
わかってる。だけど私は知らないふりをする。
「なんだよそれ!それでも俺の彼女かよ!!」
それで慌てる木兎が見たいから、何て言うと性格悪そう。でも、それが紛うことなき事実なので仕方ない。だってほら、必死になって訴えてくるのがかわいく見える。でっかい体してるのに、構ってもらえない子犬みたい。
「そうだけど、なんだっけ?」
変わらずしらんぷりを続けてたら、本格的にショボくれ始めた。
あんまり遊びが過ぎると後で雪絵に怒られるから、そろそろ終わりにしないとかな。
「木兎」
「なんだよ」
「ショボくれないの」
「ショボくれてない」
どの口、なんて言ったら機嫌は更に降下すること間違いなしだ。
「ねぇ木兎」
「なんですかー」
「はっぴーばーすでー、ぼーくと」
私がやる気なんて一切ない言い方をしたにも関わらず、単純思考な木兎は瞬時に視線を寄越してくれる。
机の上には簡単なラッピングをした小さなプレゼント。その向こうには、びっくりした顔から徐々に嬉しそうに緩んでいく木兎な顔。
「なんだよもー!覚えてるじゃん!」
「いくら私でも本気で忘れるわけないでしょ」
「俺チョー焦ったから!」
「はいはい、ごめんなさい」
わーわー言いながら小さなプレゼントを開けてまたはしゃぐ木兎を見てると、何事もプラス思考な木兎が羨ましくなる。
「あのさ、俺もう一個欲しいのあるんだけどいーい?」
「いいけど、私も部活あるからすぐ用意できないよ?」
「できる!」
なんだその自信は。
まぁ根拠のない自信は木兎の専売特許だしと思って、聞いてみたらとんでもない言葉が出てきた。
「ば!ばっかじゃないの!?ムリだし、そもそも場所考えて言ってよ!」
「場所?どこでもよくね?」
「よくない!!」
木兎のムダに通る声はクラスの人にもちろん聞こえてて、なぜだか私ばっかり恥ずかしいみたいになってる。
「だって咲菜も欲しい!」
「だから!それやめて!」
外野の冷やかしが煩い。
どうせあんたたちが思ってるのと違う意味なんだから黙って!なによりも木兎黙って!
「いい加減俺も名前で呼んで欲しい!」
ほら見たことか!こんなことだろうと私はわかってたよ!外野は勝手にテンション上がって勝手に落胆しないで!
こんなワケわかんない勘違いするような言葉を教えたのは、考えるまでもなく木葉か小見、もしくはその両方だろう。犯人はあとでかおりと一緒に締めに行くから、是非首を洗って待ってて欲しい。
「そんなの教室で言わなくてもいいでしょ!そもそもなんでそんな紛らわしい言い方してんの!」
「みんなに相談したら提案されて、サルもそれでいいって」
まさかの猿杙の後押しがあった!許さない…!
木兎の発言で結局冷やかしムードだし。
「なー、いいだろー」
「…木兎の名前、長いからやだ」
「こーちゃんとかでいいから!ばーちゃんにもそう呼ばれてるし!」
そ う じ ゃ な い !
「なーなー咲菜ー」
こうなった木兎はショボくれるまでこの話を続ける。と言うか、忘れでもしない限り蒸し返してくる。そしてそれに応えなければショボくれる。もしショボくれたまま部活に向かうことになったら私が怒られる。
「わかったから!」
「マジで!?じゃあ」
「今はやだ!」
「えー」
駄々をコネ始めても長い。目の前で繰り返す「やだをやだ」って言うのが煩いと思うくらい。別に呼びたくないとかじゃないし。
「帰り。部活終わってからならいいよ」
「わかった!」
タイミングを計ったかのように鳴ったチャイムに元気よく教室を飛び出した木兎を見送ると、当然教室に残されるのは私になる。
「木兎マジで許さない…」
この生ぬるい空気どうしてくれんのよ!