君だから
こんな田舎じゃあちょっとかわいい雑貨屋さんもオシャレなカフェも駅まで出ないとないし、最近流行りのタピオカも当然この辺りにはない。アパレルショップの支店すらなかなか来ない。こんな生活が嫌で大学は絶対に東京に行くんだって決めてたけど、正直都会でやっていける自信もない。
そんな私がここで生まれてよかったと思うのは、今日みたいに週に1.2回ほど放課後に残ってるとき。しかも今日は特別な日だ。
「お待たせ」
「お疲れさま!」
「もう暗いから、早く帰るよ」
本音を言えば、早く帰りたくない。でも疲れてる月島を付き合わせるのも申し訳ないから、それを否定したことはない。
でも今日はちょっとでも長くいたいと思ってもよくない?あんまり早く渡しても荷物になっちゃうから、タイミングを間違えないようにしないと…!
月島と反対の手に下げた小さな紙袋がかさりと音を立てた。
「だんだん日が短くなってきたね」
先週よりいくらか早く暗くなった校門を二人で抜けて少しすると、月島はいつも同じことを言う。
「やっぱり六坂は先に帰りなよ」
これ、口癖なんじゃないかってくらいよく言われる。毎日待ってる訳じゃないし、なにより
「私が好きで待ってるんだから、気にしないで」
これが紛れもない本心。だけど納得しないのが月島なんだよねぇ。
「いや、六坂がよくても僕は気にするから」
それに、疲れたなんて口では言ってるけど、本当は暗くなるまで一人で待ってる私を心配してくれてるからなんだって山口が言ってた。学校にいるんだから大丈夫なのに…
は!もしかして今の「疲れた」は心配しすぎで疲れたの可能性が微レ存!?
「またアホなこと考えてるでしょ」
「アホじゃない」
「…なんだっていいけど」
もし本当にそうなら、月島は巷で言うツンデレってやつだ、きっと。でもこんなこと本人に言ったら不機嫌になること間違いなしだから言わない。絶対。
こっそりと街頭に浮かぶ月島の金髪を見上げると、月に負けず光を反射していた。
「なに見てるの」
「月島」
うん。月島は名前の通り、太陽より月の方がイメージに合うな。射すような強さも周りを巻き込むような熱もないけど、静かに人を惹き付ける。
「僕なんか見てなにが楽しいのかわかんないけど、いつまでそれ続けるの?」
「え?どれ?」
考えてることとまったく関係ない疑問を投げられて、まったく意味がわからなかった。
別に制服着崩してる訳じゃないし、校則違反もギリギリでしてない。カバンだって夢の国のクマと、テカチュウの缶バッジが付いてるだけ。統一感がないのはかなり前に突っ込まれたから、たぶんこれではないと思う。
そうしてざっと自分の服装や持ち物を見たけど、月島が何を指してそう言ったのか全くわからない。
「ごめん、わかんない…」
またアホって言われるに違いない。月島って頭の回転早いんだよなぁ。私そんなに早くないし、特進に入れるほど頭もよくない。それでも、月島と同じ世界が少しでも見れるくらい察しが良くなりたい。
「別に怒ってる訳じゃないけど、わかんないの?」
「うん…月島いつも私が気付かないこと気付くし」
そうなれるのはいったいいつになることやらって感じだけど。
だから、面倒だと思われていたとしても、こうして聞かないとわからないことが多い。
「それ」
「へ?」
「その呼び方、いい加減やめない?」
呼び方とは、この【月島】呼びの事だろうか?いや、それはとっても嬉しいお誘いなんだけど、ちょっと緊張すると言うかなんと言うか…
「まぁ、六坂が嫌なら別にいいけど」
「そんなことないよ!ちょっと緊張すると言うか恥ずかしいと言うかっ」
「別にそんな気にすることでもないでしょ」
そうなのかな?私が変に気にしすぎてるだけかな?と言うか、ここであんまり悩んでたら機嫌損ねるかもしれないし、なにより本人が言ってるんだからいいのか?
そう思って意を決して呼んでみたら、
「えーっと、じゃあ…蛍?」
思いっきり顔をそらされた。
めっちゃ酷くない?え?なに?そう言う意味じゃなかった?いきなりの呼び捨ては不愉快だったとか?でもほら、私のキャラで「蛍くん」はちょっとあれじゃん。ないべ。
「え、なんか違った?」
「いや、合ってるんだけど…」
だけどなにさ。思ってたのと違ったとか?
知るかそんなの。勝手に夢見ないでくださいー。最近の女子(と言うか私限定だろう)なんてこんなもんです。
「ほら、別に呼び方変えたからどうにかなるわけじゃないし、いままでのままでよくない?」
「よくない」
「あー、そ」
「さっきのは、ごめん。思った以上に、あの…」
「ひどかったって?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ」
「だって言いづらいってことはそう言うことでしょ。どうもすみませんでしたー」
「なんでそうなるんだよ…」
だって、月島が言い淀むなんてなかった…うん、なかった。アホとか頭悪いんじゃないとか、貶す時はいつも淀みなく言ってた。
…あれ?じゃあさ、もしかしてひどいとかではないってこと?
それってさ、
「ツンデ「それ以上は言わせないから」
月島がどう思ってるかわかったら、途端に面白くなってきた。
だってそう言うことでしょ?私に名前で呼ばれて恥ずかしくなってるんだよね?自分で言ったくせにいざ呼ばれたら恥ずかしくて照れちゃってるんだよね?ヤバいなにそれめっちゃかわいい。普段の態度と身長は全くかわいくないけど。
「ね、ね、アリなの?私の蛍はアリよりのアリなの?」
「アホ丸出しの話し方やめなよ」
「だってつ…蛍が照れてるのなんて初めて見るから」
「照れてない」
いやいやいや、それは嘘だべ。本当なら少しくらい目を合わせてくれてもいいべさ…普段からあんまり目合わないけど。
「じゃあ逆に聞くけど、咲菜は僕に名前呼ばれて大丈夫なわけ?」
「大丈夫」
だと言うことにしておこう。
「ふーん」
大丈夫だと思ってたんだよ。でも名前呼ばれるんだなぁって思うと、なんか変な感じがしていずい。
そうして名前のやりとりをしてたら、いつもの分かれ道まで来てしまった。
「じゃあ、また月曜に」
「うん…じゃないや、はい」
「なに」
「これ、今日、蛍、誕生日だから」
「なんでカタコトなの」
「もう!つっこまなくてもいいから!」
「はいはい」
なんでケンカごしになったのかわかんないけど、なんとか渡すことはできた。
「忘れてると思ってた」
「さすがに覚えてるよ」
「アリガト」
気に入ってくれるかはわかんないけど、とりあえずミッションコンプリートかな。
「じゃあ今度こそ月曜にね」
「やっぱり送ってく」
「いいよ!いつもここまでじゃん」
「いいから黙って送られて」
そう言って私の手を取ると、月島は何食わぬ顔で歩き始めた。月島の顔なんてぶっちゃけ見えてないからわかんないけど、私の方はとんでもないことになってると思う。
だって、手なんていままで繋いだことない。
「つっ月島…!」
「呼び方」
今の私はそれどころじゃない…!
月島の手めっちゃでっかい。背が高いんだから当たり前だよね。よく考えたら靴も他の男子よりサイズ上だろうし…ちゃんと見たことないけど。でも、少なくとも私と全然違うってことはわかる。
「黙らないでくれる?」
「蛍が悪い」
「悪いことなんてしてないけど」
「いきなり手繋ぐのが悪いー!」
「嫌なら離すけど」
「嫌じゃないです」
正直、何度私から繋いでやろうと思ったことか。でも、さすがにはしたないかなとか思ってできなかったんだよ。
女子は奥ゆかしい方がいいって、じいちゃんが言ってた。
「ならこのまま行くよ」
「え、あっちょっと!」
「なんか文句あるの?」
「そうじゃなくて、誰かに見られたら…」
「別に悪いことしてないしいいでしょ」
「そうだけど…!」
そうして言い合いながら帰ったものだから、当然家族にバレました。
死ぬほど恥ずかしかった。それなのに蛍はしれっとしてるし、むしろ全部計算してましたな顔だった。してやられた感があって悔しい。もしも蛍の家に行く機会があれば、絶対同じことやり返してやるんだから。