バースデーマジック
「今日誕生日なんだ」
「へぇ。おめでとう」
「もう少し感情を込めてくれてもいいんじゃない?」
「それならちゃんと赤葦のことが好きな子にお願いしたらどう?」
「俺は六坂から聞きたいんだけど」
「それは残念でした」
そう言った眼鏡の奥の目は冷め切っている。
朝からこんな攻防を繰り広げるなんて、無駄でしかないことはわかってる。しかしこうでもしなければ六坂から祝ってもらえるわけがないこともわかってる。隠すことでもない、これは俺の一方的な片想いだから。
「どうしてもダメ?」
「無理。諦めて」
もちろん初めは隠してたし本人に伝えるつもりもなかったけど、何をどうしたのか先輩にバレて、そこから木兎さんに伝わって…そこからはお察しの通り。木兎さんのうっかりで俺の片想いは教室で盛大にバラされた。
正直本気でキレかけたし、その日は1本もトスを上げなかった。翌日に持ち越さなかっただけいいと思って欲しい。
「別にプレゼントが欲しいとか言ってるわけじゃないんだけど」
「当日言ってきたくせにプレゼントまでねだられたら、たまったものじゃないわ」
流石にそんな無理は言わない。知っててくれたら嬉しかったけど、六坂が教えてもない俺の誕生日を知ってるわけがないんだから始めから期待してなかった。
「一言でも無理?」
「無理」
わかってはいたけど、ガードがカタい。どうやって切り崩せばいいのか、考え続けてもなかなか答えに辿りつかない。
だからと言って諦められるものでもない。
「そんなに俺が嫌い?」
「別に嫌いじゃない」
なにも考えずに聞いたことだけど、その答えは予想していたものと異なっていた。
「ならどうして話すのも嫌そうなの?」
「だって、もし私がうかつな事をしたら、ある事ない事すぐ噂になるじゃない」
「俺は別にいいけど」
「私が嫌なの」
確かに、今の俺は六坂待ちの状態で周りに認知されてる。この状態でなにか起これば、真実がどうあれ周りはあっという間にある事ない事言い始めるだろう。俺個人としては噂になれば虫除けにもなるし都合がいいんだけど、六坂はそうではないらしい。
「私は人間関係で周りに振り回されるなんて、絶対に嫌」
「無視しておけば?」
「それで黙るなら噂なんて生まれないのよ」
それもそうかと少し思った。
「勝手に想像されて勝手に期待されて知らない間に消費されるなんて、私は耐えられない」
そう思うのもきっと、六坂本人に対する周りの評価が原因なんだろう。
おっとりしてそうな見た目で手先が器用そう、少し高めで女子っぽい話し方をしそうなイメージ。ついでに運動は苦手そう。だけど蓋を開ければ決断力も行動力もある、手先だけでなく様々なところで不器用なところが見え隠れしている。話し方はイメージ通り女子っぽい雰囲気だけど、少し低めで落ち着いた声は早口気味だ。要するに、見た目とのギャップがすごい。
だけど、ひとつだけイメージと合っているところがある。
「まぁ、勝手なイメージがついて回るのが疲れるのはわかる」
「それに加えて惚れた腫れたの噂が付加されるなんて、面倒でしかないわ」
一人でいることが多い六坂に、イメージと理想だけで告白する奴は、フラれる事と大きすぎるギャップに肩を落とすらしい。
ちなみに、俺はこのギャップもいいと思ったし諦めてないからこれに含まれない。
「派手に知られてて気まずいのかなんなのか知らないけど、赤葦も私なんかに構わなくていいよ」
それなのに、その他と同じ扱いをされるのは心外だな。
「別に引っ込みがつかないとかじゃないよ」
「なら余計にやめてくれない?」
「やめる理由がないからやめない」
それに、俺の考えが当たっていれば六坂はそれほど俺を嫌がってない。それならこのまま手を引くわけにいかない。
「六坂はさ、俺のこと嫌い?」
「別に」
「そっか、嫌われてたのか」
「そんなことない」
「じゃあ嫌い?」
「〜…嫌いじゃない」
イメージと同じところはここだ。六坂は嘘がつけない。それはどこまでも正直すぎて周りが不安になるほど。ついでに言うなら、優しすぎるんだよな。迷惑かけてる自覚はあるから、俺のことなんて嘘でも嫌いだって言えばいいのに。
なんて、六坂が嘘をつけないのと知ってて意地の悪い問いかけをしてるんだから、俺は性格が悪い。
「何か欲しいとか、どうこうしてほしいわけじゃないんだ」
「うん」
「六坂から一言だけでも祝ってほしいだけ」
「そう」
「そんなささやかなお願い、叶えてくれない?」
「それ自分で言う?」
それは俺も思ったけど、こうでも言わないと六坂は絶対言ってくれないだろう。
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
珍しく笑ってそう言ってくれた六坂に、今回はこれで満足しておこうなんて傲慢にも思った。