一緒に
こたの久しぶりの帰国。しばらく滞在することになるらしく、時間が作れたから部屋で一緒にいようって話になった。それならと思い、ちょっとしたつまみやらお酒を少し用意して持ち込んだ。
ら、その部屋がちょっとすごかった。
「なにこれ、めっちゃいい部屋じゃん!いつもこんな部屋使えるの?」
「いや、いつもは違うけど…なんかすごいの?」
昔からそういうところあるよね。
とんでもなく高いわけではないけど、最安値ではないと思われる部屋。なによりベッドがでかい。
まぁね、日本の平均サイズだったら足はみ出るからね、仕方ないよね。
「そういえば食事制限とかある?」
「特にない!」
「ならよかった。適当につまめそうなものとか買ってきたよ」
「サンキュー!」
適当に置いた袋を漁っては「懐かしい!」やら「新しい味だ!」と子供のように騒ぐところも変わらない。それにつられて、私も学生時代のようにはしゃいでしまう。
今日も馬鹿騒ぎして気が済んだら寝るんだろうと思ってた。
それが、どうしてこうなった。
「眠いなら寝たら?」
「眠くない」
目がしょぼしょぼする。テレビがボヤける。これはきっと、疲労が蓄積してるのにテンションに任せてまだ慣れないお酒を飲んだからだ。
「いや、絶対眠いだろ」
「大丈夫」
飲めるって言ってたし、私だってこたと飲みたいと思ってたから買ってきたんだし、別にいいんだけどさ。なんでこたは平気そうにしてるの?チームの人とよく飲むから慣れてるの?
「無理すんなって」
「無理なんてしてないっ」
1人だけ先に大人になったみたいな顔してさ、なんか…すっごいムカつく。
「なんで怒ってるんだよ」
別に怒ってるわけじゃない。
酔ってる自覚はある。そのせいで、普段考えないようにしてたあれこれが頭の中でぐるぐるする。
「こたはずっとバレー頑張ってるし、ちゃんと成績も残してる。その一環でお酒飲む機会もいっぱいあると思うけど、そこに美人さんがいないとも限らないと思うといつもやな気持ちになる」
「…ん?」
比較的まめに連絡くれるから、妙な心配はしなくてもいいんだと思う。嘘だってつかないタイプだし、そもそも下手だから嘘ついたってすぐわかる。疑わしい時は梟谷メンバーに探りを入れてもらうことだってできる。だけど、もしかしたら一瞬だけでも離れる瞬間があるかもしれないと思わなくもない。
浮気なんかじゃなくても、すでにバレーに負けてるんだもん。いつこたの気持ちがなくなったっておかしくない。一番がいいとかそんな子供っぽいことは、そんなに思ってないけどさ。
「私ばっかり好きみたいでやだぁ…」
いつ連絡が来なくなるともわからない。そんなことになったら、惨めに縋り付かないでちゃんとお別れできるだろうか。
「…バカだなぁ」
「バカじゃないもん!私はいっぱい考えてるんだからね!」
そんなの絶対無理だ。だってこんなに好きなんだもん。でも困らせたくないから、その場だけでもうまく繕わないと。
「俺が好きなのは咲菜だけだから、そんな事考えんな」
「ムリだよ、だって私なんにもないもん」
頭良くないし美人じゃないし、かと言って愛嬌があるとも言えない。最近は忙しさにかまけて家事もしないし化粧も手抜きだし、服だって現場に行きやすいかどうかでしか買ってない。
「なくねーって。俺にない物、咲菜はたくさん持ってるだろ?で、俺にある物が咲菜にないならちょーどいいじゃん!」
「なにが」
「ずっと一緒にいたら俺達に足りない物なくなるだろ?」
そうだけど、そうじゃない。
「やっぱり一緒に行こー」
「それはやだ」
「えー」
前からたまに言われる。一緒に着いてこないかって。私は絶対行かないって、毎回言い返してる。
「だって仕事辞められないもん」
「辞めちゃえよ。なんだっけ、ブラック企業?」
「好きでやってる仕事だからブラックじゃない!」
「ならしょーがねぇか」
休みが少ないのも覚悟の上だから、こんな短期間で文句も言ってられない。下っ端で辞めるわけにいかない。
「どうしてもダメだったら、電話してもいい?」
「いつでも出られるようにしておく!」
夜中とか試合の時は無理だろうと思うけど、そんなこと考えてないんだろうな。たぶん、本気でそう思ってる。
「咲菜は俺のことすごいと思ってるのかもしれないけど、全然そんなことないからな」
「あるよ」
「そんなこと言ったら、俺だって咲菜のことすごいと思ってるからな!」
「えー」
「だってしんどいのに仕事続けるんだろ?俺だったら無理だもん」
「私だって、バレーなんてしんどくて無理」
「なら、やっぱり一緒にいたら最強だな!」
それぞれ趣味趣向が違うんだから、当たり前の話をしてるだけなはずなんだけど、どうしてこんなに苦しくなるんだろう。
「だから一緒に行こう!」
「…行かないよ。私はこっちでこたのこと待ってる。なんとかして、たまに会いに行く」
「わかった!」
きっとまたすぐに不安はやってくる。電話だってすれ違いばっかりかもしれない。だけどいつか、本当にどうにもならなくなるまでずっと好きなんだと思う。だって、感情はどうにもできない。
いつかすれ違うその時がくるまで、一緒にいたいと思う。