1日

残暑がまだまだ残る今日。気だるい体を引きずって久しぶりに大学の敷地へ足を踏み入れました。
大学の長期休暇明けと言うものは、高校や中学とはまた違うものでして。あのつまんなくてやたらと長い校長先生の意味のない話が少しだけ懐かしく感じます。

「咲菜ー!」
「みっちゃん!」
「ひさしぶりー!元気してたー?!」

一応クラスと言うものが存在しているので、その中でもわりと仲の良いみっちゃんが跳ねるようにやって来ました。
休み前より焼けたみっちゃんは、ショートカットのその茶髪すら輝いて見えます。

「バイトばっかりしてたよ。みっちゃんは焼けたねー」
「彼ぴぴと海行ったりしてたからねー」
「聞くだけで日焼けしそー」

ちなみに、私は未だに「かれぴっぴ」と「彼ぴぴ」と「彼氏」の違いがわかりません。ちなみに「ごみぴっぴ」という言葉を知った時は、いくらなんでもそれは可哀想だと思いました。

「咲菜は彼氏作らないの?」
「まだいいかなぁ」

付き合うって、何をするのかよくわからないんです。今年度で21歳になるというのに、悲しきかな、彼氏いない歴歳の数。

「彼ぴぴくらいは作っても良いんじゃない?」
「うーん」
「好い人いないの?」

全くいないわけでもありません。ですが、みっちゃんには少しも話したことがないので知らないだけなんです。みっちゃんに限らず、私のこの想いは誰も知らないでしょう。
しかし、付き合いたいのかと言われるとそれはまた違うようで、考えるほどよくわからなくなってしまうのです。

「あれは?保健学科の人だっけ?なんか仲いい人いたでしょ?背ぇ高くて黒髪で大人しそうな」
「ああ、山口くん?」
「かな?名前知らないけど」
「山口くんは友達だよ。努力家で、いつもビックリするんだから」
「私ダメだぁそーゆーの」

そのくせに、間違いなく好きだと断言はできてしまうのだから、感情とはなんとも困ったものです。

「どっかにイケメンいないかなー」
「みっちゃんのタイプってどんな人?」
「えー?及川さんかなぁ」
「及川さん?」

交友関係が広くはないからわからないけど、それはウチの生徒でしょうか?それとも最近人気になったアイドルか俳優さん?

「宮城を代表するイケメンバレー選手だよ」
「バレエやる人なの?」
「バレーボールの方ね」

アイドルでも俳優でもなくて、バレーボールの選手…
あいにく私はバレーボールを見たことがありません。1度や2度くらいならありますけど、それもちらっと見かけたようなもの。何人でやるのかもわかりません。

「知らないの?テレビだってよく出てるのに?」
「ウチテレビないから」
「そうだっけ?」
「うん」
「でも名前くらい知ってるでしょ?」
「いやまったく」
「もったいなー!」

そんなにイケメンなのか。

「まぁ及川さんみたいなイケメンとは言わないけど、咲菜の情報の遅さはヤバイよ。てゆーか情報ないし」

携帯でニュースだけは見てますけどね。

「誰かいい人紹介しようか?」
「好きな人は紹介されてできるものじゃないよ」
「でも知り合ったら好きになるかもしれないじゃん」

この手の話になると、みっちゃんは少しだけしつこい。こんなことを言ってくれるのも、純粋な善意なんだろうけど。

「やっぱり今はいいよ。それより初日から遅れたらヤバイでしょ」
「うん…」

今日の講義は出欠に煩いと有名な講師で、遅刻と言う文字は辞書に登録されていないらしいです。よく聞くのは遅刻2回で1欠席とかだと思いますが、この人の場合は遅刻1回1欠席になります。実質遅刻なんてありません。
さすがに交通機関の影響は考慮してくれるみたいですけどね。

「2限やだなぁ」
「みっちゃん解剖苦手だよね」
「咲菜が大丈夫なのが意外すぎる」
「できなきゃ医者なんて無理でしょ」
「そーだけどさ」
「私は1限が嫌すぎる」
「咲菜は物理苦手すぎだよね」
「あとあの人苦手」
「そーゆー人多いみたいよ?判定シビアだし。だからこそ力はつくって言う人も多いけど」
「だよねー」

なんて、みっちゃんと久し振りに中身のない会話をしながら、遅刻しないためにも私達は教室へと足を進めることにしました。