大切なただの幼なじみ

「いいですか?忘れないでくださいよ」
「わーかってるって!」

唐突だが、木兎さんには幼なじみがいる。それも女子の。
普段の木兎さんを見て想像できる幼なじみは「木兎さんと同じタイプ」か「世話焼きタイプ」のどちらかが多いだろう。実際木葉さんは同じタイプと予想し、小見さんは世話焼きタイプと予想していた。

それが蓋を開けてみたらどっちでもなかったから驚いた。

「こたくん、ちょっといい?」

それが八重樫先輩。
小柄で細くて、声も見た目から予想される通り高めで細い。こんな言い方をしたら怒られるだろうが、うちのマネージャーとは違う、正しく女子の中の女子。まさか木兎さんの幼なじみとは誰も思わないだろう。

「お?どーした?今赤葦と部活のこと話してたんだ」
「あ、ごめんなさい。お話の途中…?」
「いえ、ちょうど終わったので大丈夫です」
「ならよかった。ちょっとこたくん借りますね?」
「はい」
「あのね、明日なんだけど、」

木兎さんと並ぶと更に小さく見える。俺なら少し屈むところだが、木兎さんの性格的にそれはない。それが当たり前だからなのか、八重樫先輩もいつも木兎さんを見上げて話してる。

ふわっとしててしっかり者、それでいて押しに弱そう。小さくて細くて、一言で言うなら「守ってあげたいタイプ」ってやつなんだろう。
実際八重樫先輩は俺の学年でもそれなりに噂を聞く。今だって木兎さんと話しているのを何人がチラ見していったことか。

「わかった。明日はよろしくな」
「うん。あの、ありがとう」
「え?ああ…いえ、本当に大丈夫なんで」

それにも関わらずあの人が今もひとりでいるのにはちゃんと理由がある。

「こたくんのこと、よろしくお願いします」
「はい」
「じゃあね」
「じゃーなー」

八重樫先輩は柔和な笑みを浮かべてから、きっとこのまま自分のクラスに戻るのだろう。俺達からゆっくりと離れていく。
どことなくゆったりした動きも、女子っぽさの要因なんだろうか。そんな八重樫先輩に、木兎さんは声をかける。

「佐保!気を付けろよ!!」

既に離れてしまった八重樫先輩に木兎さんの声が届いたとしても、八重樫先輩の声はこちらまで届かない。だからあの人は、木兎さんのためだけに振り返って、頷いた後に小さく手を振る。それに対して木兎さんは嬉しそうに笑ってる。
名指しで呼ばれたから返さないわけにいかないってだけなんだろうけど、それが意外な程に効果を出している。木兎さんがわかってやってるのかそうじゃないのかはわからない。わからずにやってる方がイメージとしては近いけど、この人だって3年なんだから多少考えて行動してるだろう。

「つーわけだから、明日は自主練しないで帰るわ!」

いや、なにも考えてないな。そもそも明日は事前に点検が入ってたから自主練できないってさっき言いましたよね。どうせ忘れてるだろうと思ってわざわざ言いに来たのに、ものの数分で忘れられるとは…

「はい、わかりました」

だからと言ってそれについて何か言う気にもならない。木兎さんの中で、1番に優先することがバレーで、同列かほんの僅かな差でその下か上辺りに八重樫先輩がいるんだから。それ以外の俺の言葉は忘れられても仕方ない。そう割りきれたらどれ程楽か。

「あの、木兎さん」
「なんだー?」
「どうして八重樫先輩をマネージャーに誘わなかったんですか?」
「へ?なんで?」
「なんでって…」

木兎さんの事だからしつこく誘って断られたのかとも思うが、八重樫先輩なら折れてマネージャーをしていてもなんらおかしくない。それなのに八重樫先輩は部活に入っていないらしい。

「そんなの、マネージャーなんてしてたら怪我するかもしれないだろ?」
「…は?」
「あと遠征とか合宿の時に知らない奴に声かけられたりしそうだからな。バレーしてるときは佐保のこと見ててやれないから、なにかあっても助けてやれねぇし」

いや…え?

「でも赤葦がいたら安心だよな。なんかあってもすぐ助けてくれそう!」
「いやですよめんどくさい」
「めんどくさいって!」
「ああ、すみません。八重樫先輩のことじゃなくて、ただでさえ木兎さんで手一杯なのに更に心配事が増えるのはめんどくさいって意味です」
「そうか!」

いや、今結構わかりやすく木兎さんのこと貶したと思うんですけどそこは流すんですね。

「でも、俺が側にいてなんかあってもいやだから、佐保はマネージャーなんてしなくていい!」

この人は、その意味をわかってるんだろうか。さっきのこともわかってなかったし、どうせわかってないか。

「?どーした赤葦?」

だからこそ、ただの幼なじみだなんて言ってるんだろう。

「なんでもないです。いや、やっぱり1個いいですか?」
「おー、いーぞー」
「八重樫先輩は、木兎さんにとってどんな人ですか」
「へ?佐保?」
「はい」
「うーん…ちっちぇ時から知ってる幼なじみ?あいつ、ちっちぇ時はよく泣いてたんだよ。転んだり迷子はもちろん、俺がちょっとでもいなくなると泣いて呼ぶんだよ。だから俺が一緒にいてやんなきゃなーって思ってた」

できることなら「そんなわけあるか」とつっこみたい。
なんなんですか。頭の中が幼稚園のままなんですか。だからいつも赤点ギリギリなんですか。

「木兎さんにとって、八重樫先輩は大切な人なんですね」
「おう!大事な大事な幼なじみだ!」

誰かこのバカに教えてやってください。