幼さゆえの約束
小さいときの私は泣き虫で、こたくんにべったりだった。こたくんも嫌な顔ひとつしないで私を隣に置いてくれてた。いつ出会ったのかなんてわからないけど、お母さん同士が仲良くて家も近かったから、それこそ生まれたときからってやつなんだと思う。幼稚園も小学校も中学校も一緒。簡単に言うと幼なじみ。
高校はどうなるかなと思ったけど、こたくんが当たり前のように「佐保も梟谷だよな?」なんて聞いてくるから、ついに高校まで一緒。学力は低すぎず、むしろちょうどいい。元々併願の時の候補だった梟谷にギリギリで進路を変えた。理由のひとつにこたくんと同じだってことを言ったら、お母さんも安心したのかしつこくは聞いてこなかった。
こうしてほとんどの時間をこたくんと過ごしてきたわけだけど、きっと大学は別のところになると思う。
バレーボール界隈では有名らしいこたくんは、きっとバレーボールの強いところに行く。私の希望学部があれば、もしかしたらはあるかもしれない。でも大学のことは今のところ特に聞かれないから、一緒の予定はない。
「佐保、下見てみ」
言われてグラウンドを見ると、こたくんが太陽に負けないくらいの笑顔で手を振ってくれてる。
手を振り返してあげると、両手で子供のように倍にして返してくれるのがかわいい。
「木兎って佐保のことホント好きだよねぇ」
「小さい頃面倒みてくれてたから、その名残じゃないかな」
呼ばれたらしいこたくんは、もう1回手を振ると走り出してしまった。
「意外!逆じゃないんだ!」
現状だけを見たら、そう言われるのも仕方ない。
今のこたくんは、バレーボールは強いけどそれ以外はあんまり頼りにならない。勉強なんていつもギリギリのところを歩いてるらしい。
「私すごい泣き虫だったから、ずっと一緒にいてくれたんだ」
「へぇー」
「勉強…は昔から得意ではなかったけど、いつもなにかと一緒にいたがる私をずっと隣に置いてくれてたんだから」
「そんな佐保が木兎から離れた理由は?」
離れたって、そんな付き合ってたとかそんなんじゃないのに。
「こたくんがバレーボールにハマってからかな。最初のうちはくっついて見に行ってたりもしてたんだけど、ボールに当たっちゃったことがあってね」
「え、大丈夫だったの?」
「小学生のときだったから今思えば全然大丈夫。それなのにあの時はびっくりしたのもあって泣いちゃって」
「あー、子供によくあるやつか」
ミスだったのかなんなのか覚えてないけど、どこからかボールが飛んできてぶつかって、自分でも驚くくらい大泣きしたのを覚えてる。そんな私を見たこたくんは文字通り飛んできてくれて、必死に泣き止ませようとしてくれた。
それが嬉しかったのと同時に、ひどく悲しかった。私はこたくんの好きなことを邪魔してる。そう思ったら余計涙が止まらなくて、こたくんまで泣きそうになってた。
「来るなって言われたの?」
「私から行かなくなったの」
「へぇ…なんで?」
ずっとこたくんにべったりだったから、お母さんには驚かれた。こたくんのお母さんにも驚かれたし、こたくんはしばらくの間不機嫌だった。
「だって、私が見に行くと私のこと気にしてばっかりで、全然ちゃんとしてくれないんだもん」
「そりゃあ心配してたんでしょうよ」
「それが嫌だったの」
それでも試合があれば呼んでくれたし、それなりに大きな大会は呼ばれなくても観に行った。
それがいつからか当たり前になって、こたくんにはこたくんのおっきな世界ができた。そこに私がいられたらと思わないこともないけど、いなくても問題はない。
「まぁ佐保の言うこともわからなくないけど」
あの時、泣き止まない私とこたくんはひとつ約束をした。
きっと泣き止ませようとして、勢いだけで飛び出た言葉。もしかしたら次の日には忘れてるかもしれない、そう思うくらい勢いで言ってた感じがする。言った本人も忘れてるだろうそんな紙切れよりも糸よりも細い不確かな約束を、私は今もずっと覚えてる。