君が異性に変わってゆく

「おーい佐保ー!」

放課後、ようやく佐保を見つけた。

「どうしたの?」

佐保は何事もなかったかのようにふんわりと笑って返事をしてくれた。

「お前、近藤に告白されたって!」
「…ああ」

やや遅れた返事に、少し違和感を感じた。

「どうしてこたくんが知ってるの?」

まるで知られたくなかったと言いたげな言い方。

「木葉が近藤と同じクラスで、聞いたって言ってた」
「そっか」
「なんで俺に言ってくれなかったんだよ」
「別に言うほどのことでもないかと思って」
「…なんだよ、それ」

佐保はなんだって教えてくれた。今日なにがあったとか、勉強とか。俺も勉強は無理だけどなんだって話してた。俺達にヒミツなんてなかった。それなのに、

「俺には知られたくなかったのかよ…」
「そうじゃなくて、相手に悪いかなと思って」
「は?」
「あんまり言いふらしたら嫌でしょう?」

そうかもしれないけど、ムカつく。

「俺には教えてくれてもよかっただろ」
「ごめんね」

別に言いふらしたりしねぇし。
あれ?教えてくれなかったってことは、もしかしてそう言うこと?

「なぁ、近藤と付き合うのか…?」

考えたこともなかった。
佐保は昔から隣にいて、最近はあんまり一緒にいないけど、いつだって会って話せるところにいた。それがいきなりいなくなるなんて、ゲリラ豪雨よりもびっくりする。

「まだ保留なの」
「なんで?すぐ断ればいいだろ?」
「お返事をする前に帰っちゃったから言えなかったの。クラスもわかんなくて」
「なら俺が言っといてやるよ」
「だめ」
「なんでっ」

佐保の人差し指が、俺の唇を抑える。よくある「しー」ってするような感じ。
いたずらする直前みたいな佐保の表情と、自分のそれとは違う柔い指の感触に変な緊張をした。

「言われた私がお返事しなきゃ失礼でしょ?だからだめ」

心臓がぎゅってしたのは、佐保の言葉にか、表情にか。

「佐保は、近藤が好きなのか…?」

情けないことを聞いたと思う。でも佐保が俺の知らないどっかに行くって考えたら、超苦しい。

「その近藤くんのこと、私は知らないからお断りするよ」
「じゃあ…」
「お付き合いはしません」
「そっか…」

そっか。佐保は付き合わないのか。めっちゃ安心した。
あ?安心した?なんで?別に佐保が誰かと付き合っても俺にそれを止める権利なんてないよな?

「それにね、私好きな人がいるの」
「そっかー…はぁ?!」

なにそれ!聞いてねぇ!

「ちっちゃい時からずっと好きなんだ」
「誰だよそいつ」
「うーん、それは言えないかなぁ」

なんでだよ。なんで教えてくれないんだよ。

「こたくん、顔怖いよ?」
「俺は怖くねぇ。誰だよそいつ」
「ナイショ」

口許に手を持ってきて内緒の仕草をする佐保が、いつもと違って見えた。見上げられるのもいつものことだし、その仕草だってよく見てた。それが今日は、生まれて初めて見た表情に感じた。

「じゃあこたくん、私行くね」

くるりと方向転換して帰っていく佐保は、なんだか知らない人のようだった。知ってるけど知らない。

「あ、そうだ」
「え?」

突然振り返った佐保に驚いた。俺が呼び掛けて振り返ることが多いから。

「こたくん、思い出してね」

なんのことかわかんねぇけど、それだけ言って佐保は本当に行ってしまった。

思い出すってのがなんのことかはわかんねぇけど、とりあえず近藤に佐保を渡すわけにはいかないってことだけはわかった。絶対に渡さん。
明日近藤に言いに行こうと思う。