デレ期が終わっただけです。
「おーい!英ちゃーん!」
そう言って声をかけてくるのは幼なじみの佐保。俺より2つ年上で、いつも頼んでもいないのに勝手にお姉さんぶって俺の手を引いて歩いていた、誰よりもかわいらしい人。
「お久しぶりです!」
「久しぶりー。金田一くんおっきくなったねぇ」
「そ、そうですか?」
「金田一くんも英ちゃんもすっかりお兄さんになっちゃって、お姉ちゃんは嬉しいよ」
もちろんお姉さんだと思ってるのは本人だけで、俺は1度だってそう思ったことはない。口癖は今も「お姉ちゃんに任せなさい」だけど、実は暗い道を怖がって1人で歩けない事を俺は知っている。その理由は、お化けも怖いけどなによりトカゲが怖いから。小さいとき一緒に遊んでて、運悪くワンピースだった佐保の足から背中へ潜り込んだことが原因なのも知っている。
「2人とも高校もバレー部だよね?私はマネージャーじゃないんだけどね、手伝いにはよく行ってるからわかんないことがあったらなんでも聞いてね」
少なくとも、バレーのことで佐保になにか聞いたりしたことなんて1度だってない。実はそれを気にしてるのも知ってるけど、これからもバレーの事で佐保になにか聞くことはない。でも身辺調査はさせてもらおうかな。
「バレー部の人と仲いいの?」
「それなりには良好だよー」
「誰と仲いい?」
「英ちゃんの先輩の及川くんはね、よく話しかけてくれるよ。その度に岩泉くんも来るんだけどね?」
「ふーん」
…見てみないとわかんないけど、佐保的には問題ないのかな。会わない2年の間に好きな人ができたとか言われたらどうしようかと思ったけど、報告がないからそんなこともないんだろう。
「あ、後ね、スパイカーの花巻くんがね、岩泉くんとまたタイプが違うからいい勉強になると思うよ」
とりあえず部活の時に見ればいいか。
「あ、英ちゃんキャラメル食べる?はい」
渡されたのはいつもの塩キャラメル。別に特別好きって訳じゃないんだけど、佐保がくれるキャラメルがはじめからこれだったってだけ。初めて普通のキャラメル食べたときは甘すぎてびっくりしたっけ。
「…ありがと」
「英ちゃんはおっきくなっても変わらないねぇ」
「そんなことない」
「そうかな?」
変わったよ。変わってないのは佐保の事を好きな気持ちだけ。それすらも微妙に形を変えてる。
「金田一くんもどうぞー」
「ありがとうございます」
「ふふー」
もちろん佐保が俺の気持ちに気付いてるはずもなくて。
金田一なんかにキャラメルあげなくていいから。あとそんな簡単に笑ってやらなくていいから。
「もう行くから」
「あ、今日手伝いに行くね!」
「来なくていい」
バレー部でもそんな感じなんだろうと思ったら、イラついた。
「えー。中学の時はそんなこと言わなかったのにー」
「前は前、今は今」
「お手伝い行くからね!」
「やだ」
「やだ却下!また放課後にねー」
ヘラヘラと、中学の時にさんざん見た顔で笑うと、3年の教室に繋がる廊下を駆け抜けていった。すれ違う同級生に手を振って、どうせ笑ってるんだろう。佐保は基本的に笑ってるタイプだから。
学年が違うと、どうしても空白の時間ができる。それにイラついてるなんて、佐保は少しも気付いちゃいないんだろうね。
「機嫌悪すぎ」
「は?」
「顔怖ぇぞ。せめていつも通りにしとけよ」
「そう言うのめんどくさい」
「お前なぁ」
金田一はわかるのに、なんで佐保はわかんないんだよ。
「放課後までに機嫌直しとけよ」
言われなくてもわかってるよ。