暇なら俺の相手してください。

入部してわかったことは、佐保がかなりの頻度で手伝いに来てること。それと、部員と異常に仲がいいってこと。

「佐保ちゃーん、タオルちょーだいっ」

当然筆頭は3年生だけど、2年生もかなり慕ってるらしいことは見ればわかる。

「はぁーい、あとドリンクも飲んでねー」
「もっちろん!」

さすがに誰が佐保を好きかなんてなかなかわからない。どいつもこいつも金田一くらい分かりやすければいいのに、特に3年の先輩達は全くわからない。

「国見顔やべぇぞ」
「は?」
「先輩達にバレたらめんどくさいんじゃねぇか?」

それは思った。あの人はなにかとつけて、後輩をいじるネタを探してるような人だってことは知ってる。知ってるけど、こうなったらとことん周りにバレたほうが楽な気がしてきた。
余計な男を排除するのも、周りを牽制するのも、隠れてこそこそするのもめんどくさい。

「佐保、タオルとかってどうしたらいい?」
「もー、一応部活では先輩をつけなさいって前に言ったでしょー?」
「今更そういうのいる?俺と佐保の仲じゃん?」

そういった瞬間、周りがざわめいたのがわかった。
そうだけどーと言った佐保は、俺の言葉の意味を考えることなんてなく「私はお姉ちゃんだから」なんて思ってるんだろうな。今の言葉が、世間一般的にはそんな考えにならないことに、どっか抜けてる佐保は気付いてない。

「ちょちょちょ国見ちゃん!?ちょっとこっち来なさい!」

案の定及川さんに呼ばれて、物理的に佐保から引き離された。そうなると必然的に岩泉さん達とも近くなる。
この人達ってなんだかんだ言っていつも一緒にいるよな。

「国見ちゃんどういうこと?」
「なんですか及川さん」
「佐保ちゃんとどんな関係なの?!」
「それ、及川さんに言わないといけないことなんですか?」
「バレー部は恋愛禁止なんだよ!」
「どの口」
「アイドルかよ」
「じゃあ及川引退だな」
「もー!茶々いれないでよ!!」
「でもこの間別れたべ」
「マジで?」
「おう」
「ちょっと!ホントにやめて!」

及川さんが口を開くと5倍以上うるさくなると思う。それは周りの人を巻き込んだり乗っかられたりするからなんだけど。
と言うか、及川さんまた別れたのか。

「で、どういう関係なの?」
「及川さんには関係ないですよね」
「なんでもないなら教えてくれてもいいでしょ?」

あーめんどくさい。
教えないとなんでもなくない、つまり俺が佐保のことを好きだってことがバレる。なぜなら佐保が俺を好きな素振りがまったくないからだ。だからと言って幼なじみだなんて言いたくない。違う事なき事実ではあるけど、それで満足なんてとてもできてないからだ。

どっちにしてもめんどくさい。

「及川さんのお好きにどうぞ」

結果として、俺は否定も肯定もしないで全部ぶん投げた。どっちにしろめんどくさくなるなら、全部バレた方が後々やりやすいだろうなと少し思ったから。

「へぇーふーん」

あ、やっぱりめんどくさい。でもやたらと及川さんが佐保に声をかけるのも腹が立ってた。

「もう戻ってもいいですか?」
「うん、呼んでごめんね」

その場から離れるとき、少しペースが速くなってしまったことには気付かれただろうか。及川さんのことだから気付かれてるだろうな。もうそんなことを考えることすら煩わしい。

一般的に考えたら俺の「戻る」は「練習に戻る」の意味で取られるだろう。そんな一般論を裏切って、俺の足はちまちまとなにかをしている佐保の背中にまっすぐ進んでいく。

いつからだろうと考えるのがバカらしくなるくらい昔から、佐保の隣を誰かに譲るつもりなんて微塵もなかった。そんな子供っぽい独占欲みたいな好意が、いつからか小さくなった佐保を守りたいに変わった。

「わぁ!どうしたの?英ちゃん」

今では後ろから佐保に抱きつけば、腕の中にすっぽり収まるくらいの身長しかない。それなのに、佐保の中の俺はいつまでも小さいときの「英ちゃん」から変わらない。

「今日一緒に帰ろう?」
「いいよ。英ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいね」
「佐保と帰りたかったから」
「いいよいいよー、一緒に帰ろうね」

喧しい外野は全部無視して、佐保の背中が数回小さく揺れるのを感じていた。