唐桃の忠告
さて、私が花を吐くようになってから数日が経ちました。
初めての日の様に、咳き込む拍子に花を吐くことはなくなりましたが、この頃は明らかな吐き気としてそれはやって来るようになりました。
「おはようございます」
「おはよう柳生くん」
同じクラスで風紀委員の柳生くんとは、今でこそこうして挨拶を交わしてたまに雑談をする仲になったけれど、当初は挨拶すらしたことがなかったものです。
だってなんとなく怖いじゃないですか。他人と一線を引くような話し方。どこか演技臭い立ち居振舞い。加工なのかわからないけど、常に眼鏡に隠された目。どこにも本心を見出だせなくて怖かった。
まぁ、今に至るまでの経緯はまた後程語ることにしましょう。
「やはり体調が優れないのではありませんか?」
それは花を吐くようになった次の日から、毎日のように柳生くんに言われるようになったことです。
「え?ああ、そんなことないよ。ちょっと考え事がまとまらなくて…寝不足かな」
考えてみても原因がわからない謎の吐き気。吐瀉物は身に覚えのない花。どんなに考えてもわからないのに、わからないことが不安で睡眠時間は減るばかり。
ここ数日で慣れたことなんて、吐き出す花の処分の仕方くらい。こんなことに慣れてもどうしようもないでしょうに。
「私に手伝えることがあるようでしたら仰ってくださいね。きっと力になります」
「ありがとう。その時はよろしくね」
この吐き気がなんなのか誰かに聞いたところで、たとえそれが聖人君子のように優しい人だって知ればきっと引く。そして私は誰かに打ち明けたその日のうちに、頭のおかしいやつ認定をされることでしょう。ああなんと言うこと。
柳生くんとて例外ではないでしょう。むしろ上部は今まで通り接してきて、裏でなにかやらかさないとも限らない。だから、きっと私が柳生くんの手を借りることは未来永劫ないのです。
そんな失礼なことを考えながら柳生くんを見送ると、1時限目に待ち構えるリーディングの準備を始めるのでした。
「おはよう神奈」
教科書から視線を外すと、学校一仲がいいとも言えるつるちゃんが困ったような顔をしているのが見えました。
「おはよう、つるちゃん」
「顔色悪いけど、大丈夫?」
確かに血の気が引いていつもより白っぽくなってる気はしましたが、そんなに心配されるほどのことではなかったかと思うのですが…そんなに悪いのでしょうか?
「まったくわかってないって顔してるわね」
「うん、ごめん」
「認めるのもいいけど、体調悪いのに無理して学校なんて来なくていいんだよ?」
学生の本文は勉強だと言うのに、その言い分は如何なものか。
「でも授業ついていけなくなっちゃうし、こうして学校には来られたから大丈夫だよ」
「…神奈がそう言うならいいんだけど」
つるちゃんは納得してないけど、諦めたとでも言いたげな顔をして自分の席に戻っていきました。
つるちゃんとはそれなりに長い付き合いをしてきたし、それなりに友情を育んできた…つもりではある。気の置けない仲とはまだ言いがたいかもしれないけれど、それくらいの関係ではある。と、私は思ってます。
でも、だからと言ってこんなことを話せるかと言うと、それはまた別の話になってしまうわけで。
情けないことに、こうしていつも答えの出せない考えが巡るばかりで、少しも行動に移せないのです。
(疑い)